83体で覚えよう
傍らではメイリア神官長が少々顔を引き攣らせ乍らも真剣に飛翔板を形創っている。此れ以上の妨害は止めて置いた方が良いだろう。
「先にバルパルの飛翔を見て上げ様と思って居たのだけど、未だ騒ぐのは不味そうだから一先ずチェロルの分は創るよ」
「やった! リーシャ様、有難う!」
「済みませんがリーファ様の分は後でと謂うことでお願致します」
「ああ、然うだな上に戻ってから創って呉れ。此処で創ると持って帰るのが面倒そうだ」
「はい、じゃあ、チェロルは先ず砂鉄を創って宙に維持して置いて貰えるかな。そして、私が言霊を唱えたら其れを合図に砂鉄との繋がりを切る感じで御願い」
「解ったよ! 早速遣って見るね! [砂鉄よ其に在れ]」
「ふー、……うん。[岩よ其に在れ]」
「先程も遠目で見て居たが見事なものだ。バルパルの気は直接砂鉄へと伸びて居たから予想もできただろうが、チェロルの気は数珠繋と為って変則に延びて居るから気の線を確りと捉えて居なければできぬ芸当だな」
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「はあ、完成はしたけれども傍らで、ああも見事に鉄系岩石を創られると此方も若干鉄を含んだものに為った気がするわね」
「ふう、できた……って、チェロル此方で貴女の飛翔板を創って居るのだから、他に目移りされても困るのだけど」
「あ、あ、そんな事無いよ! 少し部屋に飾ったら良さ気な色合いと鉄分だったから、見てしまっただけで此方の方が断然、形も色も鉄分や操作性迄も良いです! 感謝致しますだよ! じゃあ、早速試し乗りして来るね!」
「何だか上げられて下げて下げて下げられて胸に突き刺さるものが有るわね」
「重ね重ね済みません。チェロルが失礼を致しました」
「構いませんよ、くっふふ」
構いませんよと云い乍ら、ころころ笑うメイリア神官長に少し許り安心すると、リーシャは説明を開始する事にした。
「それでは少し許り説明を致します。飛翔板は水にも浮くぐらい迚も軽いのですが、平らな面を下に向けて空中で落とすと其の軽さ故ゆっくり落下致します」
リーシャは両手で飛翔板を頭上に抱え上げ、放り上げては掴み取り其れを繰り返す。徒落とすだけでは判り難いが、繰り返して見せることで差は歴然として居るのが判断できる。
勿論、四方に逸れて仕舞わない様に多少は御業で支えて居るのだが。
「此れは空中に存在する大気を乗り退け乍ら降りる為で、大気に成る可く乗らない様に立てて遣れば、よっと、此の様に大気を切り退け乍ら落下致します」
ひゅうと風切り音を立て乍ら高々と舞い上げられた飛翔板が、速度を増しつつ落ちて来るのを此れ又掴み取って繰り返さなかった。此れは必要ないと判断したらしい。
「此の事からも分かる様に飛翔板は平らな面で若干乍ら大気に乗ることができ、強い風に乗れば浮き上がることもできます。此の大気を平らな面に当てて乗り上がる現象を揚力と言い、飛翔板は此の揚力を利用して上昇や下降そして進路変更することで気力の消費を節約します。
此れは水場でも同じ事が謂えて気力の消費無しに水に浮き、推進時の進路変更には平らな面を傾け逸らし水を少し許り当てて乗り上がる力の向きを進路変更方向に向けます」
「……はあ」
「ま、まあ、水場の方が此の乗り上げる力が分かり易いので実際に水路の方で確認して頂ければ感覚を身に付けて分かるものも有るでしょう。では先ず、あっ、バルパルも来てね。飛翔板は私が持つから、よっ、では水路で飛翔板に乗って見ましょう」
「ぴやぁ」
若干眉がハの字に為ったメイリア神官長を連れ立って歩き行く。飛翔板を水路に浮かべる前に、バルパルは流れる様な動作で水に飛び込んで仕舞う。気持ちよさそうに泳ぐ姿を見ると、其れは其れで良いかと思わせる。
「水路に飛翔板を浮かべて乗って頂けますか? ほらバルパル、此の上に乗って見て、支えて置くから」
「ぴやっ」
「最初は御業で飛翔板を動かない様に固定しますが、慣れて来れば自分の体で重心を取る様にして頂きたいのです。ああ、バルパルは其れだと安定してるから重心を考える必要は無さそうだね」
リーシャも自分の飛翔板を水路に浮かべて飛び乗ると、其の儘進み速度を上げ作業場の半ば辺りを越えた所で、くるりと飛翔板を横に向け進路とは逆方向に重心を移動すると、進行方向に対して少し許り逸り上がる。
飛翔板は水面を掻き乍ら速度を弱め止まる頃には、先程と逆方向に体を向けて居り今度はゆっくりと戻って来る。
「バルパル今のを御業を使ってでも良いから遣って見て」
「ぴやっ」
バルパルはご機嫌宜しく出発し速度を上げてリーシャと同じ様に半ば過ぎで切返す。
「おー、其の調子で続けて見て」
「ぴゃっ」
速度は先程よりも随分と早く為り、若干嫌な予感が密めいた。バルパルが大きな飛翔板を切返し水面をぐぐぐと押し退ける。水は迫り上がって遂には水飛沫と為ってリーシャたちに被さって来る。
だが、リーシャは【水】の御業持ちである。飛ばされた水粒全てを支配下に納めるくらい普段から遣れて居る事なのだ。
よしと思った瞬間後ろから声がする。
「えっ、ちょっと何? 急に波が!」
「ドッボーーン」
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修正記録 2017-05-20 06:19
一部ルビ範囲を修正
幾つかのルビを追加
まあ、 → ま、まあ、
句点を追加
「居り今度はゆっくりと」追加
潜めいた → 密めいた