81潜泳機だそうだ
「然し随分と貴重な機材を入手したものですね。先程の作業場に於いての言い回しからして、矢張り彼処に置かれて居た飛翔機とも亦違うらしき機体に使うと謂う事ですか?」
「ええ、流石に此処では目立ち過ぎましたね。まあ、地底湖を管理する立場に有る御二方には、知って頂いた方が宜しいのでしょう」
「ええ、訊かせて貰いましょう」
「はい、聴きます」
「彼の作業場に在る金属でできた大きな魚の玩具の様な物体、其れは水中を濡れずに潜り息継ぎを可能とし高速に移動する事を目的とした乗り物、要するに飛翔機の水中版と言った処でしょうか。ですから其の秘匿度合いも飛翔機開発時と同等かと存じます」
「其れ程重要なものと成り得るのですか? 言っては何ですが正直な処、彼の飛翔機に比べると恐ろしさも利便性も感じ取れないのですが」
「ふむ、宮殿の庭に在る大きな池の中へ人の入った箱を沈め、水の中から魚を見て楽しめる程度にしか見做して居ませんか? まあ創った本人も多分其の程度でしょうが。――然も大喜びで――」
「ええ、然うですね」
「はい、迚も楽しそうですよね。バルパルが水中で泳いで居る処を見れるのですよね」
「ぴゃあぁ」
「……未だ創り始めた許りですので用途や性能といったものは此れから次第なのですが、事、此の地底湖に於ては重要な位置を占めるのです。先ず、此処の作業場周辺しか確認はして無いのですが、何箇所か我々【水】持ちでも感知できない深さの水域が在ると判明して居ます。私で言えば40m程でしょうか水質に依っても変わります」
「然ういった場所に何か潜んで居ると或いは感知でき無い深さを利用して隠されて居るものが在ると謂う事ですか?」
「……いえ、其処迄は想定して居ません。態々隠れて居るものを追い立てたり埋蔵金の如きものを探したりする目的では……ああ、皇太后陛下の依頼でもあるのだから一応確認して御報告する必要が有るのか」
「まあ、然う謂う事ですね」
「其れは其れとして先程も申しました様に探査不可能な領域が在れば、其処へ潜る事ができ剰え目的域に近付く事で行える御業が増えるのです」
「ふふ、自分がつい一刻も経たぬ前に云って居た事でしたね。チェロルさんが可能とした今迄不可能だった領域への到達する技術である飛翔機。此れを利用して日々新しく開発された技術や戦術が報告されて居ます。彼の水中移動機も亦然ういった未発見の利用価値が十分に在ると謂う訳ですね」
「あー、まあ、名称は潜泳機だそうだ。後で頼む積もりだったのですがハンナ様には、其の潜泳機の有用利用や戦術利用を考えて頂きたいのです。何せ秘匿案件なもので知恵を借りる宛が少ない。ああ、勿論、海洋や湖、河川も想定してです。水没した紛失物の捜査や引揚げ案については報告に入れさせて頂きます」
「成る程、大方アリア殿下の依頼でしょうね。分かりました、其の件は考えておきます。リーファ様も色々と大変そうですね。其れで後でと云うのであれば未だ話しは有るのですね」
「ええ、先程の続きに為りますが此の地底湖に於ては潜泳機が重要な役割を果たすのです。チェロル曰く、此の地底湖は場所に依って必ずしも空から行けるとは限らないと。まあ、要するに水上に隙間が無い場所も在るのではと謂う想定で、実際に飛鼠(蝙蝠)の類も見かけないので十中八九間違い無いでしょうね」
「ああ、云われてみれば然うですね。確かに皇后陛下から拝命仕った石祠調査の件は潜泳機が無ければ途中で頓挫したでしょう。此方も其れに頼る事に為るでしょう」
「メイリア神官長殿は御存知でした様ですね」
「はい、一応は此処に長年務めて居るもので……何となくは予想程度ですが」
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壁を「コンコン」と叩く音と共にリーシャがそうっと顔を出した。休憩室に居る3人の目が集中する。上官の集まる談義の場程、入り難いものは中々無い。
「あっ、失礼致します。メイリア神官長殿に飛翔板の御教示致したく参りました」
「ぴやゃぁ」
「はいはい、ってバルパルも習いたいの?」
「え?」×3
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池云々の文は分かり難く感じたので変更しました。
修正記録 2017-05-18 09:45
ルビを追加 在る 曰く
池の中へ大きな箱で入って沈め → 大きな池の中へ人の入った箱を沈め
「何となくは予想程度ですが」追加