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副流煙

作者: 梓ちひろ
掲載日:2016/10/20



私は先生が好きだ。


放課後の屋上、まだ子供な私は階段を上るときにはもうドキドキしている。

先生がいるのは分かっている。

冷たく重たい扉は、一旦私の心を冷静にさせる。いてくれたらいいなに変わる。

原動力を期待だけにして、必要以上にドアノブをひねる。


扉を開けたすぐ右、壁にもたれかかるように先生はいた。子供な私は、感情が溢れ出ないよう必死だった。

だけど先生は違う。

大人な先生は、 私をちらっと見て、煙草をひと吸いして間をつくった。その間のせいで、私の感情は募りに募る一方だ。

「屋上は立ち入り禁止ですよ」

先生の大人な一言で、私も少し大人なった。いや、大人になってしまった。

それはありがたいことだった。

先生と生徒の関係である以上、想いが溢れた方が負けだ。

私と先生の場合でいえば、私に勝算は無いからここで大人にならなければいけない。


「他の先生に見つかると迷惑ですよ」

先生は器用な大人だ。冷静になるための特効薬のような言葉を、私に処方してくれる。

こうして私は、ようやく先生との会話までたどり着けるのだ。

「先生だって立ち入り禁止でしょ。あと煙草、やめてくれませんか。未成年者受動喫煙になるので」

冷静になった私の言葉は不器用だ。

ただ素直になるのは駄目だ。

私が私自身の気持ちに応えてはいけない。息苦しくはない、本来はそこで生きていなければならないのだから。

「後から来たのはあなたじゃないですか。僕以外にそんなこと言うのはいけないですよ」

先生は一瞬ふて腐れた表情を見せた後、すぐに笑って地面に煙草を押し付け火を消す。

先生は器用な大人だ。

優しすぎるその性格が愛おしくてたまらない。

ただその表情は、ずるい。鎮火した私の心に、また種火を灯すようだ。


その後はくだらない話をした。

勉強の話、進路の話、友達の話。

内容なんでどうでもいい。

先生と話せるだけで私はともていい気分だから。先生は器用な大人だ。

誰に対しても同じ優しさで接している。

その誰かに向けられた優しさですら、私の心に染みわたってくる。

誰にでも優しい先生だから好きで、誰にでも優しい先生だから、少し嫌いだ。

私の心に浸透してきた優しさの副流煙は身体に毒だ。

優しさは心に腫瘍を作り、やがて全身に転移する。手足の自由はきかなく、立っていることすらままならなくなる。

治療する必要があるけど、私はあえてしない。この病と共に歩んでいくと決めたから。

先生の目をじっと見つめる。今なら瞳のうんと奥まで見えそうだ。

末期な私の最期の言葉、優しい先生なら受け止めてくれるよね。

「私、先生が好きです」


ねぇ先生。

あなたの不器用なところ、私にこっそり見せてよ。ねぇ…。

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