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政略結婚行進曲

作者: 山田ビリー

架空の国でのお話です。

作中の法律、制度等についてもフィクションです。

また、作中に一部罵倒やあからさまな表現がありますのでご注意下さい。

「この先私がお前を愛することはない。私は真に愛する者を側妃として迎え入れるつもりだ。お前は此処で大人しくしているんだな。」


結婚式を挙げた日の夜、新妻の床でこのような事を夫に言われた場合、一般的な妻はどのように振る舞うものなのだろうか。

ちなみに私の場合はこうだ。


「はぁぁぁぁ!?」



私が本日付けで結婚したのは、この国の若き王太子殿下である。

私は近隣国の皇女であった。私の出身国は、この国より小さく弱いが、旧くて格式は高いので、周辺国に顔が利く。

両国の更なる協力と繁栄の証に嫁いできた皇女。それが私である。

どうせ大陸の王家など、政略結婚のしすぎで親戚だらけだ。その例が一組増えただけ。

とはいえ、縁あって夫婦となったのだ。

例え最初は慣れなくても、禿げでも肥っていても加齢臭がしても、お互い歩み寄り、支え合って生きていけたら、と思ってまだ見ぬ男に嫁いできた。

それが、言うに事欠いて……。



「あんた何言ってんの?馬鹿じゃないの!?よーし判った、離婚だ離婚。初夜の床で新妻相手に勃たない粗○○には用は無いわ!」


こんどは夫(仮)が言った。


「はぁぁぁぁ!?」



「おま、お前、大人しい性格ってのは嘘か!俺を騙して妃になったんだな!?」


これは夫(仮)の言。


「あんた馬鹿じゃないの?皇女が人前で大騒ぎする訳ないでしょ。私がいつあんたに『大人しい性格です。』って自己申告したっていうのよ。常識で考えろ。大人しい女なら泣き寝入りするとでも思ったのか。」


いや、そういう訳では……とモゴモゴ言う夫(仮)。

こんなので怯むくらいなら、最初からあんなこと言わなきゃいいのに。


「離婚の理由はあんたの不貞よね。自分ではっきり言ったもんね。財産分与を請求するわ。私とあんたが相続するはずだった国有財産の半分は、私に請求権があるわね。

それから今後の国交だけど、まさか今まで通りとは思わないわよね?折角来た人質を追い返すんだもの。我が母国とは疎遠になると思って頂戴。勿論世論は私に味方するでしょうね。早速明日記者発表しましょう。いいゴシップネタを提供できるわ。

ところであんたの『真に愛する者』とはどなた?そちらの方にも損害賠償を請求しないとね。」


とはいえ、国有財産の半分は吹っ掛けすぎだけど。

まぁ最初に吹っ掛けるのは、交渉の基本よね。

あら、なんだか夫(仮)がアワアワしているわ。

どんな面白発言をしてくれるのかしら。


「そ、そんな事は不可能なはずだ。だいたい、王室には側妃が認められている!それに離婚など教会も裁判所も認めないだろう。」


「側妃が認められているのは何法によってなの?因みに我が母国にはそんな法は無いわね。いわゆる暗黙の了解なんて、出るとこ出れば無意味でしょ。不貞の訴えで、国会決議してもらうわ。

それに教会なら、今日結婚したばっかりなんだから、肉体関係なしで婚姻無効が成立するわよ。教会には我が母国がかなり献金してるから、私が泣き付けば認めてくれるでしょうね。あら、離婚決議よりこっちの方がいいかも。婚姻無効なら私も再婚できるし。」


実はこれははったりである。

そもそも裁判所による国会の離婚決議は、時間もお金もかかるし、何より判例が少なすぎる。

教会には確かに献金しているが、それは当然この国もである。婚姻無効に持ち込める勝率は半々と言ったところか。

まぁ嘘は付いてないし、こういうのは自信満々に言うのが大事なのよ。


「という訳で、離婚しましょう。それでは早く部屋から出ていって頂戴。次は法廷で会いましょう。あ、不貞の相手については、代理人を通じて教えてくださる?」


なんてね。


「ちょっと待て!俺は嫌だ!離婚なんて認めないぞ!」


あら、興奮しすぎて一人称が俺になってるわ。


「あんたに認めてもらわなくても結構よ。教会に認めてもらうから。早く『真に愛する者』と再婚なさったら?」


「待て、待て、俺が悪かった!俺の真に愛する者はお前だ!だから行かないでくれ!」


何言ってんだこいつ。

ていうか足にしがみつかないで頂戴!


「一度崩れた信頼関係が、そう簡単に取り戻せるとでも?甘いわね。私はあんたの妻でいたくないって言ってんのよ。

だいたい、私を『愛することはない』んじゃなかったの?なんて軽い愛なのかしら。」


「いや、俺はお前の啖呵に惚れたんだ!今まで俺に面と向かって厳しい事を言う女はいなかった。皆俺をちやほやして、お手付きになろうとする。だがお前は違う。」


モテ自慢か?

そりゃ王太子に堂々と苦言を呈する女性なんて、母親ぐらいでしょうよ。

ていうか、なんでこの一連の流れで惚れたはれたになるのかしら。

そういえば、老練な侍女が言ってたわ。

『皇女さま、美人やモテる女性が引っ掛かりやすい男とはどのようなものか、ご存知ですか?それは、勘違い説教男です。今までちやほやされてきた女性は、上から目線で説教をかましてくる男に、新鮮!この人は私の事を真剣に考えてくれてる!などと思い違いをしやすいのです。皇女さまはお気を付けくださいね。』

そう言いながら苦々しく、若い侍女を口説く勘違い近衛を見ていたわね。

……もしかして私、勘違い男の立場?


「ちょっと、離してよ!それあんたの勘違いだから!」


思わず夫(仮)を蹴り飛ばしてしまう。

ドカンと椅子に激突する夫(仮)。あ、鼻血が出ている。

垂れた鼻血を見て恍惚とする夫(仮)。

……怖っ!


「ますますお前しかいない!絶対逃がさないぞ!」


「ギャー!」



その晩は、二人して寝室で大騒ぎをしてしまった。

皇女にあるまじきことである。反省。

鼻血男改め夫に根負けして、結局離婚は保留ということになってしまった。

翌朝、頬を染めた控えの侍女達に、


「激しい夜でしたね。」


と言われたのは、恥ずかしいし納得いかない。

ちょっと!そのシーツに散った血は、夫の鼻血ですからね!


「夫婦の成立の証でございますね。」


夫よ、満足気な顔して頷いてないで、早く誤解を解いて頂戴。


「うむ。妻は我が子を身籠ったかもしれんな。」


そしてこちらを向いて、ニヤリと笑う。


「これでは離婚はできんな。」


やられた!

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[一言] 愛する側妃はどうなった。
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