プロローグ2 いざ!帰還!
コユキの能力は高い。
セイントジャガーとしての力も受け継ぎつつ、僕の修行に付き合って、拳闘家としても実力を付けている。
元が動物なだけに近接戦闘能力は僕より遥か高見にある。
なかなか強力な魔力を持ち、言葉を話せるようになったため、幾らか魔術を教えることができた。
コユキに最優先で教えた魔術が転移魔法陣の検知だ。
僕はこの世界では魔法も魔術も使えない。
しかし転移魔術は実際にやって見せないと教えることも難しい。
僕も習得には数十年の月日を要した。
勇者召還の転移魔法陣に便乗すれば、多少の面倒はあるが転移魔術を覚える必要がないため、元の世界に戻るまでの期間を短縮出来る。
「実はもう検知出来てるのだにゃあ☆
うちの高校の生徒会長サマがロックオンされてます♪
魔力の溜まり具合から転移は3日後の夕方…放課後頃かな?範囲は半径5メートル以内ってとこです☆」
「さすがユキちゃんは優秀だねぇ~」
猫なで声になりながら頭をなでると、コユキは嬉しさからか頭からネコミミが生えてくる。
「もうすぐこれも隠さなくてよくなるにゃぁ☆」
コユキはネコミミを器用に髪の毛のなかに隠しながら言った。
コユキは転生の時の能力引き継ぎで、種族が猫人族になっているようだった。誤魔化すための魔術を憶えるまでは苦労したものだ。元の世界では猫人族など珍しくもないため、種族を誤魔化す必要がない。
一応この世界で16年お世話になった両親にはコユキに記憶消去の魔法をかけさせ、チンピラの事務所で手に入れた数千万を預金に入れておいた。
一応これでも多少の情は有るつもりだ。
もし記憶が残っていたら二人もの家族が急に居なくなると、精神的ダメージがあるだろうからな。
16年分の恩はこれで返せただろうか…?
転移魔法陣が発動される日の放課後。
勇者としてロックオンされている生徒会長こと天道総司は生徒会長室で資料の整理をしているようだ。副会長と書記も一緒だ。
怪しまれずに便乗するにはどうするか考えたが、難しく考えるのは止めた。
どうせ転移後には混乱するだろうし、小手先で誤魔化せばいいだろう。僕は魔法陣の発動する数分前に生徒会室の扉を叩いた。
「生徒会長。今度の文化祭についての資料をこちらにお渡しするよう言われたのですが…」
僕とコユキは職員室から適当に盗んできた文化祭の予算資料などを両手に抱えていた。
どうせ転移してしまえば有耶無耶になるのだから、それっぽいものを持っていればいいという判断だ。
「!?…田中兄妹か。先生の言うことを聞くなんて珍しいな…」
田中というのは僕の人間としての姓だ。この作品ではプロローグぐらいでしか使われないだろうから覚える必要もない。
因みに僕達兄妹はこの高校で顔が知られている。
コユキは銀髪で天真爛漫な美少女。彼女にしたいランキング1位は確実だろう。僕のユキちゃんだから当然だ。
そんなユキちゃんに言い寄る羽虫共を適当にしばいていたら不良シスコン兄として僕も有名になっていた。一人も殺して居ないのに騒がれる不思議。
「いや、僕だって資料を届ける程度の頼みを聞く度量はありますよ!」
「田中兄はシスコンでなけりゃ優等生やし、以外と女子から人気有るよー」
このやる気の無さそうなのは副生徒会長だったか。名前は忘れた。
しかし僕って人気あったのか?あまり目立つと暮らしづらいかと気を使っていたのだが。成績が悪いと両親に行動を制限されるからと常にMAXの成績、得点というのはやり過ぎだったか。
「ごs…おにいちゃんは誰にも渡しません★」
コユキよ…星が黒くなってるぞ…
という馬鹿な話をしていたら、地面が輝きだした。
転移魔法陣が作動したようだ。
「やだ…何これ…」
「なんっじゃこりゃあぁあ!1!!!」
「………………………」
副会長は驚き周りを見回している。
生徒会長は二言目にしてキャラが崩壊し、ビックリマークの中に1が紛れ込んでいる…
書記はびびって声もでないのか、目を大きく見開いていた。
輝きが強まり、目を開けられなくなった。
輝きが収まって目を開くと、僕達は石を積み上げて作られた窓のない部屋にいた。周囲の空気には魔力が溢れている。
元の世界に還って来れた!
叫びたくなるほどの喜びがこみあげた。
しかしすぐに喜びは遮られる。
「お待ちしておりました…勇者様…」
転移先で出会うのは美しい姫がテンプレだろ?
…憔悴しきった老婆はねぇよ!