事態急転
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ダクトを利用して順調に建物に潜入を続ける雪駕。そして人の気配がない部屋をダクト内から確認した彼はその部屋に降りる。
「・・・・クリア、か」
一人呟く雪駕。単独の潜入ミッションということで普段以上に警戒しているため、予想以上に精神的にきているらしい。そんな彼は周囲を改めて見回す。
「・・・・武器庫・・・・いや、詰所か?」
周囲には多数の武器が壁に掛けられており、棚には弾倉などが置いてある。壁に掛けられている一丁を慎重に手に取る雪駕。それはロシア連邦(旧ソ連)で採用されているアサルトライフルの近代改修版であるAK-74M。それにアンダーバレル型のグレネードランチャー”GP-34”が装備されていた。
「VSSの弾丸は現地調達は厳しいな・・・・」
自分の持つ特殊なライフルの弾丸を思い出し、今後の方針を決定する雪駕。一度ダクトから降ろしておいたバックパックを開き、身にまとうタクティカルベストのポーチに入っているVSS用の弾倉を半分ほどバックパックに戻すと、AK-74用のバナナ型弾倉をタクティカルベストのポーチに、GP-34の40mmグレネードを腰のポーチへと納めてゆき、バックパックにも数個の弾倉を入れる。
「重量が増えるが、確実に任務を遂行するなら仕方ないな・・・・」
総重量だけで15kg近くに達する装備に苦笑する雪駕。しかし表情を固めると、バックパックを背負うとテルス6とオウル2に行動を開始する旨を通達、C4の起爆を行う。
爆発音とその後起きた停電により、非常灯が点灯した建物の中が騒がしくなってゆく。静かに部屋のドアの隙間から外を覗う雪駕。外にはAK-74Mを担いだ組員らしき男が背を向けて立っていた。
「・・・・」
静かに腰のソースから引き抜いたナイフを片手に男に忍び寄り、口を塞ぎつつ部屋に引き込むと驚いた様子の男の首を即座に掻っ切る。死んだ男からジャングルスタイルの弾倉を拝借すると、彼は念のためVSSを構えて部屋から通路に出る。
「下か・・・・?」
どうやら詰め所であろう部屋は丁度階段の隣にあったらしく、下へと降る階段を見ながら目標が居るであろう場所を予想する雪駕。そこで慎重に階段を降りてゆくと、彼の視界に一際目を引くドアが出現する。
「・・・・・こりゃいかにもって感じの扉だなぁ・・・」
思わず、といった具合にドアを見る雪駕。ドアには幾何学模様が彫りこまれており、この建物の中では明らかに異質だった。
「こちらクロウ1。オウル2-9、テルス6-1現状の報告を」
「こちらオウル2-9、敵は混乱しているのか動きに統一性が見られません」
「こちらテルス6-1、OG本体と合流。現在敵に動きを確認中です。T-90が数機出てきたのを確認」
「こちらは対象が居るであろう部屋の前にいる。これより突入、対象の殺害に入る」
「オウル2-9、了解。こちらは警戒を続けます」
「テルス6-2了解。本部に指示を仰ぎつつ行動します」
通信を切ると、雪駕はVSSをバックパックの横に吊るすと胸の前に吊っていたAK-74Mを両手で持ち、軽く息を整える。そして意を決したようにドアを蹴破ると中に突入する。
「・・・・・ッ・・・・!?」
突入した彼の端正な顔が歪む。そこには数人の男の血まみれの遺体とその中心に蹲る老婆がいた。
「おやおや、ワシの邪魔をする愚か者が来よったわ・・・・」
「何・・・・・?」
「ワシの野望の為に、貴様も生贄に・・・・!!」
「ッ!?」
老婆が絶叫しながら手に持ってた杖を雪駕に向ける。背中に走った悪寒と兵士としての直感に従って手にしていたAK-74Mを向けて弾倉に入っていた30発全てをフルオートで叩き込む。反動で数発は外したが、近距離から放たれた5.45×39mm弾は座り込んでいた老婆の全身に突き刺さった。
「なんだったんだ・・・・。まあいい。こちらクロウ1、標的の排除を完了」
「こちらオウル2-9。現在合流したテルス6-1とBW本体が、敵対組織と交戦中です。それと本体からの指示があります。”情報の収集を頼む”以上です」
「クロウ1了解」
撃ち尽くした弾倉を落とし、先ほど入手したジャングルスタイルの弾倉を叩き込むと外に待機しているチームに連絡をいれ、情報を集めようとする雪駕。すると部屋が淡く輝きだす。
「な・・・・!?」
光で視界が真っ白になる雪駕。最後に彼が見たのは全身から血を流していた老婆のしてやったり顔だけだった。
‡‡‡
十数分後、クロウ1こと雪駕からの通信が途絶えたことに疑問を覚えたOGの部隊が建物内に突入、報告にあった部屋に踏み入るもそこには瀕死の老婆と黒い幾何学模様だけが残されているだけで、クロウ1こと水無月雪駕の姿は建物内で発見されることはなかった。
事態を重くみたOG幹部たちは瀕死の老婆から事情を聞き出すために老婆を捕縛、病院に搬送する。そして突入した彼をMIAと判断するほかなかったのである