潜入開始
‡‡‡
街から30分ほどの場所で黒塗りのバンは停車する。バンから一人の青年が周囲を警戒しながら降りる。
「・・・・BWの人間か?」
「・・・・そうだ」
不意に暗闇から一人の男が現れ、青年に問いかける。青年も警戒を解かないまま答えると、男性は少しだけ安心したように青年に歩み寄る。
「待っていました。私はIG第56分隊の隊長を務めるグリム・ランバードと言います」
「BW第00特務隊所属、水無月雪駕だ」
グリムと名乗った男性に、青年も名乗り返す。グリムが周囲にハンドサインで合図を出すと、周囲から数人の人影が歩み寄ってくる。その間に青年はバンから大きめのバックパックを下ろす
「時間も押してますし、自己紹介も程々に状況を説明しますね」
「頼む。確かHBの連中もいると聞いたんだが」
「彼らは反対側に陣取っています。ウラジーミルが出てこれそうな出入り口は一カ所、我々の現在位置の反対側になりますね。念のためHB第12歩兵分隊はジャベリンを持ってきているそうです」
グリムが見取り図と地図を取り出して説明を開始する。雪駕の質問にも彼は地図を指し示しながら丁寧に答えてゆく。
「・・・・ずいぶん広い敷地だな」
「ええ。その敷地に電力を供給する大型発電施設は建物の裏側、すなわち我々いる地点側に二カ所存在します。厄介なことにどちらかが破壊されても大丈夫なスペックを持っているようで、二カ所とも破壊する必要があります」
「C4は4kg程しかないぞ?」
「発電施設の近くに組員たちが利用しているらしき簡易の武器庫らしき建物が確認できています。そこにC4があるかもしれません。ない場合、どうするかは雪駕さんの判断にお任せします」
見取り図や地図を確認しながら情報の共有をしてゆく両名。
「さて、任務開始といきましょう。こちらとの連絡手段はあった方が良いですか?」
「そうだな・・・・今回は不安要素が多すぎる。頼めるか?」
「分りました。建物に接近したら改めて通信をお願いします。我々の周波数は4317。反対側にいる部隊の周波数が5538になります。我々のコールサインはオウル2。向こう側のコールサインはテルス6です」
「了解した。俺のコールサインはクロウ1になる。よろしく頼むぞ」
最終打ち合わせも完了し、雪駕はVSSを片手に建物に向かう。グリム達は即座に彼の支援に入るため、行動を開始するのだった。
‡‡‡
「こちらクロウ1。オウル2、聞こえるか?」
「こちらオウル2。今回の作戦のオペレーターを務めることになりました、園崎智慧と言います。コールサインはオウル2-9でお願いします」
「了解したオウル2-9。現在建物外壁に到着した。壁の向こうの様子を頼む」
「了解クロウ1。オウル2-4、どうですか?」
「こちらオウル2-4、クロウ1周辺に敵影及び罠は確認できず。ただしクロウ1現在地より12時方向と2時方向、それぞれ距離400に監視塔を確認。主に発電施設近辺を警戒している模様」
建物を取り囲む外壁までたどり着き、一度第56分隊に連絡を取る雪駕。通信に応じたのは56分隊のオペレーターを務める女性だった。雪駕は挨拶もそこそこに、状況を確認する。
狙撃手からの報告を受け、雪駕は行動を開始する。まず、背負っていたバックパックをその場に下ろすと、バックパックに括りつけてあるロープを片手に勢いをつけジャンプし、壁に手をかける。
そして壁の周囲を警戒しつつ壁に跨り、まずロープで引っ張りあげたバックパックを向こう側に慎重に降ろす。そして再び警戒すると、壁の向こう側に降り、バックパックを手早く背負い、建物の陰に身を隠す。
「こちらクロウ1。敷地に潜入成功」
「了解クロウ1。監視塔にはライトを動かす監視員と周囲を警戒する人物をそれぞれ確認。こちらで始末します」
「クロウ1了解。ライトの動きが止まり次第、まずは簡易の武器庫に向かう」
「オウル2-9了解。オウル2-4、2-6、手早く仕留めてください」
「オウル2-4了解」
「オウル2-6了解です」
建物の陰から様子を窺いつつ連絡を取る雪駕。オウル2-9こと智慧は狙撃体勢に入っているオウル2-4と2-6に指示を出す。様子をうかがっていた雪駕は、監視塔に立っていた男二人の頭が撃ち抜かれたことを確認、オウル2-9に連絡を入れる。
「監視塔の沈黙を確認。これより行動を開始する。そちらからも常時警戒を頼む」
「オウル2-9了解」
通信を終えると、雪駕はバックパックに吊っていたVSSを構えると、バックパックを背負い武器庫に向かう。
「・・・・中には誰もいないか・・・」
武器庫の中を慎重に確認した雪駕はまずC4があるのかを確認する。すると棚の一つにC4が複数個置いてあるのを発見する。
「・・・・罠はなし。武器庫というよりは一時的な保管庫のような場所か・・・・今は好都合」
自己完結させると、C4がどれくらい必要かは不明だったため、雪駕はまずその足で発電施設に向かう。
「・・・・・ここも人がいない・・・?」
慎重に周囲を確認しながらC4を仕掛けていく雪駕。発電装置の大きさから片側に4kg分仕掛ければ破壊可能だと判断すると、あの保管庫から数回に分けてC4を運んでから手早く仕掛けてゆく。
「こちらクロウ1。C4の設置を完了した。そちらで何か動きああったか?」
「こちらオウル2-9、異状なし。そのまま潜入に移ってください。C4起爆のタイミングはお任せします。念のため向こう側のHB第12歩兵分隊にも連絡をとってみてはいかがでしょうか」
「了解した。クロウ1アウト」
通信を終えた雪駕は一度発電施設から離れ、侵入した付近の陰に隠れ、向こう側で待機しているであろう第12歩兵分隊に連絡を入れる。
「こちらBW00特務隊所属の水無月雪駕。コールサインはクロウ1だ。、テルス6応答してくれ」
「こちらテルス6、HB第12歩兵分隊オペレーターのフィオ・ガーランドです。コールサインはテルス6-1。どうかしましたか?」
雪駕の通信に応じたのはこれまた女性だった。雪駕は通信施設の破壊準備が完了したことを告げる。
「こちらは異常なし。見回りの歩兵がいるぐらいですね。ただ事前にハッキングなどで得た情報よりも人数が少ない気がします。建物内に詰めている可能性があると判断します。ご注意ください」
「クロウ1了解した。そのまま監視を続けてくれ」
「テルス6-1了解」
テルス6との通信を終えた雪駕は自分が身を隠している建物の通気用ダクトの蓋を慎重に外す。そしてロープをバックパックに括りつけると、ダクトから建物に侵入するのだった。