白銀のホフンティアψ
……白い光に包まれている。目の前に、邪悪な魂が、ひとつ。それは弱々しく、風雨に晒されているロウソクの火のように、消えかかっていた。
「…………このようなものが、古代の悪魔だと? 笑わせおって」
『………………ぐぬぬ…………、人間如きが……、この我を…………』
衝撃すら感じない。その波動は空気の流れにも揉み消されそうで、どこか寂しさを漂わせている。
『……英雄の子よ……、汝が誓い、破れたり……』
「だがな、代わりにお前の存在も破れたのだよ。お前はもう既に役目を終えていたはずだ。二千年前に」
『…………』
「……ああ、解っているよ、お前は、生まれた時からずっと、孤独だったのだろう? だからお前は、他に破滅を与えることしか知らない。それ以外の、自分がやるべきことを知らない……」
『……我はハルグドリオン。生まれし時より破滅の神にして、最大なる存在……』
「……そう、お前には、そういった言葉しかインプットされていない。ただの機械人形と同じ。怒り以外のあらゆる感情を排除した、悪魔の象徴ともいえるもの」
『……』
「…………なあ、寂しかったろう、だがな、もう大丈夫だ、わたしがそばにいてやる……。わたしは、お前の二千年の孤独を解ってやることが出来ない。わたしはまだ、十年程度しか生きていない。でも、それでもお前の心が楽になるというのなら、わたしが死ぬまで、一緒にいてやる。わたしが、人の優しさというものを嫌というほど叩き込んでやる……」
「…………なあ、もういいだろう? 闇に飛び込んでくれよ。たまには休息も必要だぞ。
……それに、天国にいる父上と母上の顔を見るまでは、地獄に堕ちたくとも堕ちられぬからな」