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白銀のホフンティアψ  作者: 54
暗い雨上がりの章
1/15

Prologue

「……アイゼンディーテ様」


 ……わたしを呼ぶ声が聞こえる。


「アイゼンディーテ様ー」


 だんだんと近付いてくる……。

 気配が耳元に……。


「アイゼンディーテ様、ご起床なさってください」

「えーいやかましいっ! そんな近くで言われんでも聞こえておるわ!」


 わたしは上体を起こし、壁にかけられている時計を見つめる。規定された起床時刻と比べて四時間半しか・・遅れていない。まだ目覚めには早いではないか。そんなに朝早くに活動していては体が腐ってしまうぞ。


「あなたは国を救った勇者ホフンティアの血を引いているんですから、そろそろご自分のことはご自分でなさっていただきたいものです」

「しつこいなぁ。勇者勇者と言っておるが、実際に戦ったのは一代目だけであろう? 現在の勇者など、ただの飾りでしかないのだよ。肩書きだけのエセ権力者だ。それなら自由な暮らしをしたほうが良い。そうは思わんのか?」

「アイゼンディーテ様、そんなことでは先代の皆様に対して失礼なのでは」

「既に死んだ者のことなどどうでもいいではないか! それにわたしを誰だと思っているのだ! 四十八代目ホフンティア、アイゼンディーテ・ベルゾルド・ツァプフェンクロイツだぞ! 召使いのお前がそのような偉そうな口をたたくな!」


 この召使いは「おやおや反抗期ですね」なんて思っているに違いない。


 まったくここでの生活は制約が多すぎる。食事は決められた量より多くても少なくてもダメだし、一日四時間は歴史の勉強だ。外出していい日は一週間に一日だけだ。他にもまだまだあるが、多すぎて紹介しきれない。わたしはこんな制限の多い暮らしなんて大ッ嫌いだ!!


 わたしは早めに着替えを済ませ、部屋のすみっこに立てかけてある槍を持ち、玄関へ駆け出していった。


「ツァプフェンクロイツ家での生活なんてもううんざりだ! わたしはここを出て行くぞ! 探してくれるな!」


 そう叫んで足早に遠ざかるのであった。


 夜になって私が泣きながら帰ってくるなどと思っていたら大間違いだぞ。お前らにとって最悪なシナリオを用意してやるからな! まだ考えてないけど!


 それにしても、この槍は重い。槍に弓がくっついたようなわけの解らぬ武器なのであるが、この無駄な装飾のせいで余計に重くなっておるのだ。誰だこのデザイン考えたやつ!


 ツァプフェンクロイツ家の拠点は丘に囲まれた所に孤立している。なぜそんな場所に家を建てたのか解らん。ただ、見渡す限り、視界の全面が緑色だというのが気に入らんのだ。なんだか頭が痛くなりそうな色だ。

 それが今、目の前にあるのだから参ってしまう。この丘を越えねばならぬと思うと、気分が悪くなる。だがここまで来てしまった以上、進まないわけにはいかない。


「……仕方ないな」


 独り言を呟きながら歩いて行く。草を踏むとやはり気持ちの悪い音が耳に届く。植物というものはなぜこうも気味が悪いのものか。

 後ろを振り返ってみると、先ほど踏んでしまったのか、小さな花が潰れている。


「……フン、四十八代目ホフンティア、アイゼンディーテに踏まれたこと、感謝するがいいわ」


 なんかこのセリフ悪役みたい。


 しばらく登っていくと、地面が割れたような谷まで来た。谷には吊り橋が架かっている。この橋はだいぶ古いもので、二百年前くらいからずっとこのままの状態で放置されている……と、召使いが言っていた。

 吊り橋に足を乗せると、橋を構成している板は軋み、橋全体がぐらぐらと揺れた。わたしは橋から少し遠ざかり、揺れる吊り橋を、その揺れが止まるまで眺めていた。別に怖いわけではないのだぞ!

 思い切って吊り橋に全体重を任せると、橋は大きく揺れた。と、そんなところに、


「うぃうぃ、そこの者、ここを通りたけりゃ金目のもの全部置いていきな!」


 前方に、山賊……とは思えない女の子が。気にせず向かって行く。橋が揺れてるから歩き辛いのだが。


「ちょい待ち」

「何だ、わたしは今忙しいのだ。お前などの相手をしている暇はない」

「何すかその態度。どういう身分か言ってみ」

「この槍を見て解らんのか! 何代目かは面倒だから言わぬが、ホフンティアであるぞ!」

「うん。知ってる」

「知ってるなら訊くな!」


 何なんだコイツは!

 わたしが気に止めずに歩いていくと、その山賊気取りの者が後退していく。すごい弱気なんだが。もう少し粘れ。


「……なあ、お前、何者だ?」

「山賊っす」

「嘘つけ! 丸腰の山賊があるか!」

「丸腰じゃないっすよ。ほら。短剣持ってる」

「出すのが遅いんだよ! アホか!」

「人のことをアホだなんて、失礼なヤツ!」

「人に歩く道塞いで『金目のもの置いてけ』とか抜かしてるのとどっちが失礼なんだ」

「いや明らかにアンタでしょ」

「何でだ!!」


 ああもうっ! 相手していられん!

 これ以上は関わるまいとそいつから遠ざかるのだが、なぜか後ろからついてくる。


「……ついてくるな」

「いいじゃんいいじゃん。何してんのか知らんけど、最近暇だから」

「お前はいいかも知れぬがわたしがよくない! お前は雑草でも食ってろ!」

「うわー、なんてわがままな人」

「うるさい! 文句を言うならついてくるな!」


 まだついて来てるし。いい加減にしてくれ。

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