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† † † †
『…ろ!…逃げるんだ煌月!俺の事はいいから!』
『…ッ…何言ってるんだよ!俺はアンタと一緒じゃなきゃここから動かない!』
『…大丈夫だから…、後から必ず追いつくから…』
『嘘だ…、アンタはそう言って絶対に追いついてこないつもりだ!』
『リチャード、頼む…煌月を連れてここから脱出してくれ』
『了解しました。…さぁ、煌月さん、行きますよ』
『イヤだ!リチャード…俺はここに、夏樹の傍にいる!』
目の前で額から血を流している相手を置いて、自分だけ逃げるなんて事は絶対に出来ない。
それが大切な相手なら尚更の事。
それなのに、後ろからリチャードの腕に羽交い絞めにされてズルズルと引き摺られてしまえば、非力な俺では太刀打ちできず…。
『イヤだ、…イヤだ!夏樹ぃー!!』
「…ぅ…ッ…イヤだ…、…き……夏樹!」
大声で叫んだところで目が覚めた。
ガバっと勢いよく布団を跳ね除けて上半身を起こし回りを見渡すと、そこはなんの変わりもないいつもの自分の部屋だった。
何も貼られていない白い壁と、机と本棚。
机の上に開かれているノートパソコンが、昨夜消し忘れたままスタンバイ状態になっている。
毎日見ている自分の部屋、朝の風景。
「……夏樹って、誰だよ…」
脳裏に鮮明に残っている名前と、向けられた最後の穏やかな微笑み。
どこかの荒んだスラム街のような街並みの中での出来事。
先程まで脳裏に描かれていた映像を思い出しながら僅かに荒くなっている呼吸を整えて額を拭うと、汗が滲んでいた。
夢の中の出来事なのに、目の前の命が失われるかもしれないという恐怖が、いまだに全身を支配している。
リアル過ぎて、目覚めた瞬間ここがどこかわからなかったくらいだ。
昨日、昼休みに友達とサバイバル映画の話なんかしたのが原因かもしれない。
…それで夢かよ…、単純だな俺も。
フッと笑いが零れた。
笑った瞬間、さっきまでの呪縛のような悲しい感情から解き放たれる。
ようやく目が覚めてきたらしい。
一度大きく伸びをしてベッドから下り立ち枕元の目覚まし時計を解除すると、朝の支度にかかる為に部屋を出た。
「煌月!おはよ!」
「…はよ」
教室に向かう途中の廊下、背後から元気の良い声が近づいてきたかと思えば、すぐにそれが形となって首元を襲う。
「…万里…、朝から俺にヘッドロックかけて楽しい?」
「楽しい楽しい!その苦しそうに寄せられた眉間にグッとくるね」
「…変態かお前は…」
本当に楽しそうに言うから始末に終えない。