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†  †  †  †



「…ぅ…ん…?」


やけに重い目蓋を、ゆっくりと開けた。

目に映ったのは、白い天井、白い壁、…そして自分が寝ているベッドの白いシーツ。


…保健室?

いつの間にここに運び込まれたのだろう…、また倒れたのか?


そこまで考えた時、ハッと思い出した


「夏樹!」


ガバッと上掛けを跳ね除けて起き上がる、その途端に全身に走る鈍い痛み。


「…ッ……」


なんでこんなに体が痛むんだ?

右手で左肩を摩りながら、改めて室内を見回した。


「…ここ…どこだよ…」


保健室だと思っていたのに、よく見てみると部屋は個室で、まるで病院の一室みたいだった。


…病院?


保健室?


「なんで保健室だなんて思ったんだろう…」


俺はアメリカの孤児院で育ち、15歳の時にセイバーに入って、高校に通いながらも夏樹達と一緒に街の治安を守って、…それでこの前、18歳になって高校を卒業し、正式にセイバーの一員になれたのに。


保健室を想像するなんて、いまさら学校が懐かしいのか。


…学校?


「…万里…?」


突然、ある1人の友人の名前が頭に浮かんだ。

でも、実際の知り合いに万里なんていない。

それなのに、やけに鮮明に姿が思い浮かぶ。


…何かを忘れてる気がする…。とても重要な何かを…。


目を閉じて必死に自分の記憶を辿る。


学校…、保健室…、万里…、…そして…夏樹…。


「…ぁ…ッ…!」


思い出した。

日本の学校で過ごした日々。

俺は記憶喪失で、なぜか夏樹が英語担当で転任してきて…、そして、幸せなくらいの日々を一緒に過ごして…。


「…あれは…、夢…だったのか…」


ゆっくりと目蓋を開け、自分の両手を目の前に持ってきて呆然と見つめた。


…あの日々は、俺が願っていた幸せな生活そのものだった…。

なぜ…目覚めてしまったのか…。…あのままずっと…。


≪お前は、もうここにいてはダメだ≫


最後の夏樹の言葉を思い出す。


「早く現実に戻れって…、アンタはそう言いたかったんだな…」


そっと視線を動かして、サイドボードに置かれている日付入りのデジタル時計を見た。

その日付は、あの日、夏樹と別れてから1ヶ月近くが経っている事を示していた。





『…ろ!…逃げるんだ煌月!俺の事はいいからっ…』

『…ッ…何言ってるんだよ!俺はアンタと一緒じゃなきゃここから動かない!』

『…大丈夫だから…、後から必ず追いつくから…』

『嘘だ…、アンタはそう言って絶対に追いついてこないつもりだ!』

『リチャード、頼む…煌月を連れてここから脱出してくれ…』

『了解しました。…さぁ、煌月さん、行きますよ』

『イヤだ!リチャード…俺はここにいる!』





あの日、俺達の住んでいる街で、過去最大の暴動が起きた。


近くのスラム街でドラッグの引き渡しをしていたマフィアの一部が暴動を起こし、それが俺達の街にまで踏み込んできたんだ。

もちろんセイバー隊全員が出動を余儀なくされ、特に夏樹が率いる俺達の隊は優秀だからと、一番危険な場所に配置された。

そして、FBIが来るまでセイバーだけで持ち堪える事になったのだが…、事態が酷くなるにつれて俺の身を案じた夏樹に、その場を去ることを強制されたのだった。


リチャードに連れられて逃げる際、やはりそう簡単にはいかず、何発か肩や腕や足に銃弾をくらった記憶がある。

たぶんこの全身の鈍い痛みとダルさは、銃弾に撃たれた傷の痛みと打撲、そして発熱のせいだろう。

もしかしたら、骨にもヒビくらい入っていたのかもしれない。


…それにしても1ヶ月近く眠っていたなんて…。


今の自分の中に、夢での日本で過ごした記憶が残っているせいか、混乱から抜けられない。

その時、ガチャリと音がしたかと思えば左手にあるドアが開いた。


「…煌月…さん…。目覚めたんですか?!」

「…リチャード…」


ドアから姿を現したのは、金髪碧眼の美丈夫リチャードだった。

彼は隊の副リーダーで、夏樹がもっとも信頼を置いている人物だ。

あの時も、俺を連れていってくれたのが彼じゃなければ、死んでいたかもしれない。







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