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3:中二病から逃げる! 後編〜機関じゃないよ悪魔だよ〜

『初見殺し』八城君の壮絶な力を目にした僕達は、佐久間先生の「奇妙な生徒になるな。」という愚痴交じりの説教…有難いご講話を消化した。

何となく誰の事を言っているのか想像できるのが怖い。



「荻〜帰りに一杯やろうぜ〜。佐久間の社会で今日は疲れちったよ。」



「おっさんか。」



八城君の凄まじい情熱に感嘆しつつ邦彦と何気ない会話をしながら帰り支度をしていると、教室のドアが大きな音を立てて開いた。



「なんだなんだ?」



「凄いイケメンが来た!」


クラスの皆が騒がしくなる。

ドアの方を見ると、噂の『初見殺し』、八城君が灰色がかった髪の毛を揺らしながら僕達の方へ向かってきた。

「……昼頃に何やら奇妙な気配を感じたのだが…。お前らか?」



今日覗いていたのがバレたのだろうか、八城君の目が少し険しい。どんな人間だろうとプライベートを覗かれていい感情は抱かないだろう。

僕が素直に謝ろうと口を開きかけると、先に八城君が言葉を発した。



「ふっ、今さら言い逃れは出来んぞ…お前ら機関の人間だろう?気配の感じからして、おそらく幹部クラス…。違うか?」



どうだ?何か言ってみろよ、と言わんばかりの顔に、僕は思わず開きかけた口をつぐんだ。多分彼は残念な人なんだろう。意志の疎通は難しい。ここは何とかシラをきって…。


「ふっ…ふふふ…ハーッハッハッハ!!よくぞ分かったな八城遼一!!そう、俺たちが貴様を狙っていた機関の幹部だぁーッ!!」



いきなり大声を上げる邦彦。訂正、ここにも残念な人がいた。この二人はもう駄目だ。勝手に盛り上がってて下さい。



「やはりか…ならば倒すのみだ!!」



「ふべらっ!?」



いきなりの腹パンで邦彦はダウンする。



「この程度か…?次はお前だ!!」



「え?ちょっ、うわぁああ!!」



八城君がいきなり追いかけてくる。邦彦は迷惑しか掛けないな!誰か止めてくれる人は…。



「機関って本当にあったのかよ…。」



「きゃー!八城君つよーい!!」



ダメだ!!うちのクラスはアホばかりだ!!

取り合えず、廊下に逃げるか!!












「く、待てっ!」



「腹パン痛いからやだ!!」



廊下を恐ろしい勢いで走る僕と八城君。



『くくく…まさかこのような展開になるとはな…。』



ふと脳裏に声が響く。昼以来の悪魔登場だ。



「あ、悪魔っ!力を貸してくれ!!あの足速くする奴!!」



『ふむ…契約の条件は成立している。力は既に発動しているはずだ。あの人間相当素早いな。』



「うそぉっ!?」



どんな運動神経しているんだよ!!バカなの!?死ぬの!?



『そう慌てるな。契約で貴様には逃走に必要な要素が全て備わっている。』



「要素……?」



僕が首を傾げるや否や、僕の足が滑る。



「う、わ、わわわわ!!」


どんどん足が滑っていき、一気に八城君と距離を離す。



『良かったな。廊下にワックスが『偶然』かけられていてなぁ?』



「ワックスでそこまですべるかぁ!!そんな漫画みたいな…」



言いかけてハッとする。これは漫画で言うところの補正……?



『貴様には逃走に関するあらゆる力が味方する。逆に、追いかける側にはあらゆる力が邪魔をする。つまり逃げる事に関して貴様の右に出るものはいないという事だ。』



「くっ…!」


逆に、八城君はワックスが滑るせいで本気で走れていない。

これなら逃げ切れ…!



パンッ!! パンッ!!



再び走り出そうとして前に向き直ると、何かが弾けるような音とかすかな火薬の臭いがする。



「お前が何をしたのか知らんが…本気を出させてもらう!!」



「は、ちょっ、待って!タイムタイム!!」



八城の手の中には2丁の拳銃が握られていた。



「容赦はせん!」



両手の拳銃を前につきだし、またも撃ってくる。


「うわわっ!」



瞬間、僕はつまずいてこける。弾は僕の真上でけたたましい音を立てる。


「これは俺が魔力を込めた弾……爆ぜろ!」



「ただの癇癪玉じゃないか!!よく銃弾サイズの奴見つけたな!?」



中二病もここまで貫くと逆に凄い。その情熱をもっと他に使えば良いのに!!………ん?情熱?…そうか!



僕は慌てて立ち上がり、『ある場所』へ向かって走った。



「ッ!!待て!!」



八城君が追いかけてくる。相変わらず、悪魔の力を借りた僕にひけを取らない速さだ。


でも八城君、悪いけどこの勝負は僕の勝ちだ!!












一気に階段をかけおり、『あの場所』へ駆けていく。そろそろ横っ腹の痛みが限界に近い。



「よし、着いた!」



場所は一階。生徒は皆帰ったのか、人は誰もいない。いくつかの教室があるだけの、殺風景な廊下だ。



「はぁ、はぁ…。ようやく追い付いたぞ。」



息を切らしつつ、八城君もやってきた。何があったのか、髪はボサボサ、制服は埃まみれだ。色々な障害が立ち塞がったのが分かる。

…悪魔の力すげぇ。



「終わりだ…。」



銃口が僕の方へ向けられる。



「八城君…。君は先生に怒られる方かい?」



「いきなりなんだ?…まぁ、あいつらは俺の正体を知らないからな。仕方の無い事だ。」



「そうなんだ。……だったら、これで終わりだ!!」



僕はドアを思いっきり叩く。すると…



「何だ!!うるさいぞっ!」



とにかく厳しいお爺ちゃん先生、佐久間先生がドアを開けて出てくる。



「先生!八城君が銃を持ってます!!」



「何をバカなことを……っ!八城!その銃はなんだ!?今すぐここに入れ!!ったくお前はいつもいつも…!」



「くっ!離せ!!俺はこいつを倒さなければ…!」


先生に羽交い締めにされながら、『あの場所』、職員室へ連れていかれた。



「……帰るか。」



鞄を取りに、教室へ戻ることにした。










「なあ、どうやってあの『初見殺し』から逃げたんだ?あいつ元陸部のエースだったらしいぜ。」



あの逃走劇の次の日の昼休憩。邦彦が僕に聞いてきた。



「……別に。ただ逃げ回ってたら『たまたま』職員室の前で、『たまたま』佐久間先生と出くわしただけだよ。」



そう。僕がしたことは悪魔の力を利用して、八城君を誘導しただけ。本人曰く、八城君は普段から先生に目を付けられているらしいので、僕には罪が降りかからないという計算つきで。



「へー、そりゃついてるな。にしては、機嫌悪そうだな。」



素っ気ない僕の答え方に、何時もと違うと感じたみたいだ。バカなのに。



「…………だよ。」



「は?」



「僕も反省文を書かされるんだよぉお!!」



今日の朝、佐久間先生に渡された2枚の原稿用紙を見せる。なんでも連帯責任らしく、僕も同罪らしい。とんだ計算違いだ。悪魔め!これじゃ契約違反だ!!完全に逃げ切れてないじゃないか!


『あぁ、言ってなかったな?』



悪魔の声が聞こえる。



『悪魔と契約して、幸せになれると思うなよ?お前は契約のリスクとして、様々な因果が貴様に絡み合った。簡単に言えば、極端に巻き込まれやすくなる。』



くくく、と笑いを噛み殺しながら声が去っていく。





それを早く言えよぉぉお!!





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