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2:中二病から逃げる! 前編

「え…と。つまり、こういうことですね?僕がその契約?で貰える力は、本気で逃げる時しか使えない。」



『そうだな。あの時貴様が始めにした事は『逃走』だったからな。』



――私立方舟高校、1年4組。

僕は実体の無い悪魔と話していた。

あの激動の日曜日が終わり、僕は朝早く学校に登校した。誰にも聞かれない為だ。話をまとめると、あの時頭に響いた声。何でも悪魔だったらしく、パニクッていた僕に契約を持ち掛けた。

悪魔的には世界を混乱に導くのが狙いだったので、僕の行動は完全に予想外だったらしい。契約の期間は僕から離れられない、と悔しがっている。

ある意味、僕は間接的に世界を救ったのかもしれない。ってか瑠璃よ…。お前の激しい勘違いのせいで、お兄さんは真人間を止めてしまったぞ…。


『しかし、悪魔の力を借りといて妹を恐れて逃げるとは…。』



「ち、違う!あれは僕の正義の心がお前の甘言をこう…あれしたんだよ!!」



『あれって何だよ…。』


僕は肩を怒らせ虚空へ身振り手振りをする。

全く。これを事情の知らない誰かが見たらどうなることやら。

悪くてぼっち、良くて病院送り…いや逆か?



「そう言えば、その契約で得る力ってなんなの?」



『それはな…。』



「なに一人で言ってんだよ?」



悪魔が言いかけた寸前で、教室のドアが開く。



「うわああああ!!」



「うわああああ!!……って荻かよ。」



教室に入って来たのは柏原(かしわら) 邦彦(くにひこ)。小、中学と、腐れ縁が続いている悪友だ。



「なんだ、邦彦か…。」


「なんだってお前…。つか、どうしたよその慌てよう。俺に出来る事なら協力するぜ?」



イヤに爽やかな笑みを浮かべる邦彦。ここだけ見れば僕達はとても仲が良さそうだ。



「瑠璃は無関係だけどね。」



「ちっ!」



盛大に舌打ちする邦彦。ここだけ見れば、僕達はものすごく仲が悪そうだ。

……なんだこれ?



「お前の悩みに興味なんかねーよ!瑠璃ちゃんのことで何かねーのかよこのアホ教えて下さいお願いしますお義兄さん!!」

「お義兄さんって呼ぶな!大体、何回振られたら気が済むんだよ!!」



「はぁ?振られてねーし!!この前だって、『永遠にさよなら』ってメールが来たし!」



「それ嫌われてないかな!?」


早朝から互いに怒鳴りあう僕と邦彦。

僕が邦彦を悪友と呼ぶ理由、それはこいつが半端ない馬鹿だからだ。

普段の行動ももちろん、どういうことか中学生に紛れて瑠璃のファンクラブに入っており、猛アタックを続けている。



「……ところでさ、今日まだ殆ど来てないね。」


時は立つのは早いもので、時間は既に8時半を過ぎていた。

教室を見渡すと、僕ら以外に誰もいない。2、3人来たかと思えば、荷物を置いて何処かへ出ていく。うちの担任、佐久間(さくま)先生は昔気質のお爺ちゃんで、とにかく時間に厳しい。ホームルームまで後2分程だ。


「バッカ、お前今日何の日か知らねーのかよ。」


ははん、という感じの顔で僕を見下す邦彦。浮かぶドヤ顔が果てしなくウザい。

何の日か…?まったく心覚えが無い。何か行事でもあっただろうか?

検討がまったくつかず、邦彦に答えを促す。



「今日はな……臨時朝会の日なんだよ。遅れたら、うちの担任黙ってないだろうな。」



………………………

…………………

……………。



「先に言えよバカかァァアァ!!」



もちろん都合良く力が出るわけも無く。


体育館に着いた僕達は、佐久間先生にこってりと絞られた。



「あぁ…疲れた。やっと昼かー。」



朝から佐久間先生に有難いお言葉を頂き、すっかり疲れてしまった僕は、悪魔と話す気にもならず淡々と午前の授業を消化していった。



「荻、こっちこいよ!」


机に突っ伏している僕に全ての元凶、邦彦がドアの辺りで手招きしている。相変わらず元気な奴だ。



「はぁ、なに?」



「久しぶりに『初見殺し』が拝めるぜ!」



ふぁーすと・ぶれいかー?

どうやら、僕の悪友の心は中学2年生で止まっているようだ。



「柏原君、良い病院を知ってるんだけど。」



「俺が付けたんじゃねぇよ!!…とりあえず見てみろって!!」


そう言って連れていかれた窓から中庭を覗くと、一組の男女が話していた。



「八城君、付き合って下さい!」



女の子の方は見たことは無いが、中々可愛い子だ。男子の方が告白されてるみたいだ。爆発しろ!


軽い嫉妬を覚えつつ男子の方を見て、僕は声を漏らした。

遠目から見ても相当な美形である事が分かるが、何より目を引いたのはやや灰色がかった頭髪だ。普通ならイタイ奴で終わるはずなのに、違和感が全く無い。



「あんな人うちの学校にいたっけ?」



「は?マジで八城の事知らねーの!?今一番噂になってる奴だぜ?しかも同学年。まぁ俺も友達から聞いたんだけどな。」



ひょっとして僕には友達がいないのかと不安に思っていると、噂の男子、八城君が口を開く。



「……女。貴様もしや、機関の者か…?」



「「…は?」」



全く予想外の答えに、女の子と僕は間抜けな声をあげる。



「くくく…この高校に来てから妙に女から呼び出しをくらう事があると思ってはいたが…俺に色仕掛けは通用せんぞ。」



「え…えと…?」



「何だ、俺の正体を知らずに呼び出したのか?教えてやろう。俺は裏社会で"破壊者"と呼ばれていた男。過去に貴様ら機関を裏切って身を隠している。機関が俺を狙う理由、それは裏切り以外にも俺の能力が…………。」


「え……えっと…。ごめんなさい!」



女の子は「正直ないわー」みたいな顔をして走り出した。

ってか八城君話なげぇなっ!!



「邦彦…今のなに?」



「あいつは物凄いイケメンだけど、一度でも話した女子は皆さっきの子みたいな顔して撃沈する。それでついたあだ名が『初見殺し』。」



「え?じゃああの髪も染めてんの?」



うちの高校は多少の事なら黙認するものの、流石にあそこまで見事に染めてたら怒られるだろう。


「あれはな……本当に聞くのか?」



邦彦の顔がいつになく真剣になる。もしかして、とんでもない秘密が…?

八城君の言っていた事を思い出す。あれがまさか八城君の能力…!?



「なあ、教えてくれよ!あの髪は能力の反動か何か!?機関って本当にあるの!?」



畏れのような好奇心が押さえきれず、思わず邦彦の肩を揺さぶる。

必死そうな僕の顔を見て、邦彦は少し申し訳なさそうな、ばつの悪そうな顔をする。

そして、少しの沈黙の後にポツリと言った。









「あれはな……若白髪らしい。」



「…………そうなんだ。」



「……………なんかごめんな。」



中二病は伝染するらしい。誰か僕の記憶を消して欲しい。



『……アホだこいつ。』


黙れ悪魔。












窓辺で二人が居たたまれない空気になっていた頃、八城 遼一は…。



「あの女と話していた間、2階の窓辺からナニカを感じた。まさか機関の奴等が…!」



誰に言うわけでもなく一人言を呟いていた。



「あいつらは確か…4組の生徒だったな。ふん…やっと骨のある奴に会えそうだ。」



そう言うと、一人教室へ引き返して行った。

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