プロローグ:逃走スタート!
強大な相手を前に、僕は何も出来ない。あらゆる策は破れ、圧倒的な力に体中が痛みを訴えている。
もう抵抗する気も湧かず、ただ絶望するばかりだ。
『小僧……。』
不意に、頭の中で声が響いた。
『小僧……力が欲しいか…?』
「……欲しい。」
不意に響いた声に僕は答える。余りに都合の良い漫画のような話だ。しかし、どんな力でも僕は身につけたい、身につける必要がある。
『…よかろう。ならばくれてやる!!』
力が湧いてくる。
黒々とした、危うさを感じる力が。
力は身体中を巡り、視界はクリア、右手の痛みは嘘のように消え、くすんだ両足は何処まででも駆けていけるような気がした。
『これで貴様は我と契約した…。その力、存分に振るうと良い。ククク…。』
「ありがとう…。おかげで僕はまだ行ける…。」
意識を現実に戻し、目の前の相手を真っ直ぐ見据える。
絶望的な気分は、とうに吹き飛んだ。
「……よし。」
身体には依然として力がみなぎる。
息を整え、身体を構える。
「………?……?」
相手が何かを言っているようだが、耳には入ってこない。
右足を後ろに、上半身を少し捻り両腕を腰の辺りで留める。
そして――――
「うおぉぉお!!」
捻った上半身を一気に後ろへ振り向かせ、右の足はバネのように地面を跳ねる。
『………は?』数秒後、僕は相手、妹から全速力で逃げた。