十三番目のイタチと騙された猫
十二支のことを調べた時に色々と面白い話を見つけたので、それらを自分なりの解釈や希望で、童話として書いてみました。ちょっと鼠が悪役過ぎる気がしなくも無かったり。
ある年の暮のこと、お釈迦様は動物達にこう言いました。
「年が明けた正月の元旦に、宴を開く。この宴には、先に私へ挨拶にやって来た十二匹だけを招こう。また、この宴に参加できた動物達には十二支の座を与え、一年の間、動物達の王様にしてあげよう」
これを聞いた動物達は、自分こそが十二支に入り、王様になるのだと言い、宴に間に合うようにと家へ帰って支度を始めました。
ところが、うっかり猫はお釈迦様の話を聞き逃してしまい、仲の良い鼠に宴がいつなのかを尋ねました。
「鼠さん、僕はうっかりお釈迦様のお話を聞き逃してしまったんだ。宴がいつなのか教えてくれないかい?」
「猫さん、お釈迦様の宴は元旦の次の日だよ」
「そうか、二日だね。ありがとう鼠さん」
鼠は一番になりたかったので、猫に嘘を教えました。しかし、猫は鼠の嘘に気づきません。猫は鼠にお礼を言うと、家へ帰って行きました。
さて、その日の晩のこと。牛は家でこう思いました。
「おいらは足が遅いから、みんなと同じ時間に家を出たら、出遅れてしまうだろうな。そうだ、今からお釈迦様の家に行こう。きっと一番になれるはずだ」
牛は夜が明ける前から、ゆっくりとお釈迦様の家に向かうことにしました。一番にお釈迦様へ挨拶をするためです。
しかし、鼠はそれをこっそり見ていたので、のろまな牛に一番になられてはたまらないと、その背中にぴょんと飛び乗りました。体の大きな牛は、体の小さな鼠が飛び乗ったことに気付かず、背中で眠る鼠を乗せて、長い道のりを歩きます。
やがて夜が明け、初日の出が見えた頃、牛はお釈迦様の家に辿り着きました。
「ああ、おいらが一番だ!」
牛は自分が一番に辿り着いたことに喜び、お釈迦様の家の門を叩こうとしました。
しかしその時、牛の背中から誰かが飛び降り、先に門を叩いてしまいました。ずっと牛の背中に乗っていた鼠です。
「牛さん、連れてきてくれてありがとう。おかげで僕が一番だ」
「そんな、自分で歩きもせず、ずっとおいらの背中に居たなんてずるいじゃないか!」
「気付かなかった君が馬鹿なのさ。お釈迦様、明けましておめでとうございます! 鼠がやってまいりました!」
鼠はさっさと門の中へ入り、まんまと一番になりました。牛は大変悔しがりましたが、二番目もそんなに悪くは無いと考え直して、そのまま鼠の後に続きました。
さて、次にやって来たのはイタチでした。イタチはお釈迦様の家の門を叩こうとしましたが、そこに虎や兎など、何匹かの動物達がやって来ました。イタチはやって来た動物達を見て、こう思いました。
「私は十二支に入れるなら何番目でもいいけれど、他の動物達は少しでも先の順番に収まりたいに違いない。それなら、先を譲って差し上げよう」
そう考えたイタチは、他の動物達に先を譲ることにして、門の横に立ちました。
三番目には兎がやって来ましたが、四番目の虎を怖がって、虎に三番目を譲りました。こうして、三番目と四番目が決まりました。
次にやって来たのは龍で、友達の蛇と一緒に、仲良く五番目と六番目になりました。家が近い馬と羊は、鼻先の差で七番と八番に順々に収まりました。
ここまではみんなすんなりと行きましたが、次にやって来た猿と犬は、喧嘩をしていました。
「やい犬め、俺が先に行くんだ」
「何を言うんだ猿め、どうして俺がお前に先を譲らなきゃいけない」
二匹は門の前で長らく喧嘩をしていましたが、すぐ後ろに居た鳥がやがて痺れを切らし、こう言いました。
「貴方達、いつまで喧嘩をしているつもりなの!? 後がつかえているんだから、喧嘩はもうよしてよね! ほら、門に近い猿が先に行きなさいよ。そうしたら次はあたしが行くから、その後に犬が来なさい。貴方達は一緒に居たらいけないわ!」
鳥の言うことももっともだと思った猿と犬は、鳥が決めた順番通りに門へ入りました。こうして、九番目から十一番目が決まりました。
「さあ、残った十二支はあと一つだけ。最後は私がお釈迦様にご挨拶申し上げよう」
イタチがお釈迦様の家の門前に立った時でした。その瞬間、遠くから大きな足音が響いてきたのです。
「大変だ大変だ! すっかり寝坊してしまった! 早くしないと十二支が決まってしまうぞ!」
その大声に驚いたイタチが振り向くと、そこには物凄い勢いで走る猪の姿がありました。猪は門の前に居たイタチに気付かず、突き飛ばしてしまうと、イタチに代わって門の中に入って行きます。そしてその瞬間、門は尻餅をついたイタチの目の前でぴしゃりと閉められ、がしゃんと閂まで掛けられてしまいました。
「鼠から猪まで、十二匹の動物がやって来た。十二支の座はもう埋まった、早速宴を始めよう」
「そんな、お釈迦様!」
お釈迦様の言葉にイタチは思わず叫びましたが、門はほんの少しも開くようなことはありません。イタチは泣きながら友達の猫の所へ行きました。
「猫さん猫さん、聞いて下さい。私は猪さんに突き飛ばされて、十二支に入れなかったのです」
「何だって? それは酷い話だ。さぞ悔しかったことだろうね。それにしても、宴は今日だったのか! 鼠め、僕を騙したな!」
猫は大泣きするイタチを慰めながら、十二支なりたさに自分に嘘を吐いた鼠に腹を立てました。
しかし、そんな哀れな二匹のことを、菩薩様が見ていました。菩薩様はお釈迦様にイタチと猫のことを話し、この二匹に慈悲を与えて欲しいとお願いしました。
話を聞いたお釈迦様は二匹を可哀想に思い、菩薩様の願いを聞き入れると、宴の後に二匹をこっそりと呼び寄せました。
「お前達のことは聞いた。もう決まってしまったことだから、お前達を十二支に入れてやることはできない。しかし、その代わりにお前達には他のものをあげよう」
「他のものとは何ですか?」
「そうだな。他の動物達に先を譲ったイタチには、月の一番初めの日をあげよう。これからは一日のことを、「ついたち」と呼ぶことにする。そして騙されてしまった猫には、一番小さな時間をあげよう。これからは一番小さな時間の数え方を、猫のもう一つの読み方である「びょう」とする」
「お釈迦様、「いたち」ではいけないのですか?」
「何故、そのまま「ねこ」ではいけないんですか?」
「お前達にこれらをあげるのは、特別なことだ。だから他の動物達に分からないように、少し変える必要があるのだよ」
こうして、イタチと猫はそれぞれ、お釈迦様から「一日」と「秒」を貰うことができました。二匹は大変喜ぶと、お釈迦様と菩薩様にお礼を言って、家に帰って行きました。
どうでもいい裏設定とその後。
・長く生きた蛇は龍になるという話を聞いたので、蛇と龍は親子的仲良し設定。
・馬と羊は家畜同士ということでご近所さん。馬小屋と羊小屋が近いです、みたいな。
・犬と猿の喧嘩は、勿論「犬猿の仲」から。
・猪には悪気は無かった。イタチを突き飛ばしたのは、猪突猛進的なやつなんです。
・この一件でイタチと猫は仲良くなったとか。
・鼠は嘘を吐いたことがお釈迦様にばれて、「不潔ー」とか、「病気じゃー」みたいな罰を受け、人間に嫌われるようになった。
・勿論、猫は鼠を追い回すようになってます。