スカイブルー
軽く下ネタ?です。
裸の付き合いというのは、もしかしたら本当に心を開かせる効果があるのかもしれない。だとしたらプールの着替えの時間なんていうものは、学生にとって貴重で大切な時間なのだろう。
――しかし、しかし…!
目の前に迫るある意味での“脅威”に、カレンダーを睨みつけながら彩葉はぎりりと奥歯を噛み締めた。
スカイブルー
プールに入るからには水着にならなければいけない。水着になるからには裸にならねばならない。そうすると、実に不思議なことに人はいつもより少し大胆になるものらしく。
「ちょ、カオすご!」
「いやいや太いだけだってぇ」
「えーいいなぁ、着痩せするタイプなんだぁ?」
「ズルいわちょっと分けてよキィーッ!」
「っうわ、や、ちょ、触っ……ぎゃぁっ!」
「…………、」
大島彩葉に死角なし。
とはいえ下ネタは彩葉の最も苦手とするところだった。話せないわけではない。人並みに知識はあるし照れも特にない。しかし、その辺りをキャラ上多少フリでも照れを含ませかつノリは悪くしないように、と上手くやるのが難しいし物凄く疲れるのだ。
やりすぎれば嘘臭い。やらなさすぎればキャラが保てない。
その辺りを調整して折衷しなくてはいけない下ネタが、彩葉はくたばればいいと思うレベルで嫌いだ。
そして、裸になるせいか突然そういった話にオープンになるプールも…というか前段階の更衣室での着替えが大嫌いだった。
だがこのレベルならまだ良い。異性間での交流がなく、女子だけでコミュニティーが完結していて中学時代ほとんど下ネタなど話さなかった彩葉でも、対処できるレベルだ。問題は…、
「ピーがピーてるしちょっとぉ!」
「やだキモーい!」
「ピー出来るレベルじゃん?」
「ちょっ…!マコこの野郎へんたーい!!」
「ねぇこれピーでピーなピーみたいじゃない?」
「………っ、」
いいのか。これでいいのか、女子高生。こんな中学生レベルの下ネタ言いまくってて。男子だってここまで原始的な下ネタトークしないと思うのだが。以下略というかディープ過ぎてクラスメート達が今現在盛り上がっている内容は割愛するが、まぁ、すごい。見た目と内容のギャップが物凄い。
そんな本音をこらえて、着替えを進めつつ彩葉は溜め息をついた。とにかく巻き込まれちゃ適わないと手を早める。けれどこんな時に限ってその切実な思いは叶わず、
「いーっちゃん、」
背後にいたクラスメートの一人に名前を呼ばれ、水着の裾を引っ張って直しながらんー?と上の空で返事を返す。……声に含められた楽しげな響きには気付けなかった。
「…っうわぁ!?」
「あはは、意外とちっちゃいったぁ!?」
がっつり胸元に当てられた手を死ぬ気ではたき落とす。全力でひっぱたいたのでかなり痛かったのかふるふる震えていたが、まさに自業自得である。
「そんな全力で叩くことないじゃん!」
「うっさいこのセクハラ女!水着の上からって殆ど裸同然でしょうが!バカ!?」
「そこまでブチ切れる程のサイズじゃないし!」
「今なんて言った…?」
あれ、ヤバい…?うち死亡フラグ……?と後退るクラスメートには悪いけれど、彩葉の数少ない地雷を踏んで無事でいられると思わないでほしい。まぁとりあえずここは狭いし暑苦しいので、外に出ることとしようと微笑む。
「プールでは足元に気を付けてね…?」
「おかしいよね!なにそれ引きずり込む気満々!?てかうち泳ぐの苦手なのに!!」
「へぇ、それは好都合だね。うちは大得意だよ?」
「いっちゃんキャラ違うんだけど!」
先に出てるねぇ?と極めつけの笑みを落として、更衣室を出る。ぺたりとコンクリートに足裏を付けるとじりじりとした暑さが伝わって、それに焦るでも無く彩葉はのんびりと歩き出した。
プール脇のフェンスにタオルを掛けて、呆れを含んだ苛立ちを吐き出すように溜め息をつく。大体が同性の胸を触って何が楽しいんだろうか。優越感に浸りたいのか。彩葉はそこまで良い反応を返すわけでもないだろうに。
考えていると何だか鬱々としてきそうで、手を組みぐっと真上にのばす。
花の女子高生が聞いて呆れる。下ネタが結局いつもセクハラに発展するのだから一体どこのエロ親父の集団だ、と彩葉はじりじりとアスファルトを焼く7月の太陽に瞳を眇めた。
(スカイブルー)
(――偽りの清廉)
…というか、偽ってさえいなくて男子がいようが先生がいようがお構いなく下ネタで盛り上がるのはやめてほしい。切実に。