プロローグ
目が覚めるとそこは異世界だった。
それは、一体どんな気分がするんだろう。わたしにはわからない。そんな経験をしたことなんてないから。胸がわくわくするんだろうか?それとも不安でいっぱいで、泣き出したくなるんだろうか?あるいはそんな感情を覚える前に、事件とかに巻き込まれるのかもしれない。
お母さんは、いつかわたしにこんなことを言っていた。
「帰りたくて、怖くて、死んでしまいたいとも思ったけど。でもわたしが今こうしているのは、友人や、周りの人や、そしてあなたのお父さんがいてくれたからなのよ」
だから幸せだと。そういっていた。お母さんは笑っていた。
この国には、昔からこんな伝説がある。
王国に暗黒の雲がかかったとき、
異なる世界から降臨する黒髪の魔女、
その奇跡の力を以って、
王国を導き、救わんとす
こんな伝説を信じるのは、小さな子供と頭のおかしいひとだけだ。
正確に言えば、『だけだった』。
18年前のあの日、この国の人間はその伝説が本当だったことを知る。
本当に、この国の人間ではありえない、黒髪を持つ娘が空から降ってきたのだ。そして彼女は、様々な困難や危険を乗り越え、その『奇跡の力』を使って、国に暗雲をもたらしていた邪教の集団を解体し、国や王を救ったそうである。
だから今でも黒髪の『魔女』は王国の救世主としてあがめられ、たたえられ、人々の尊敬の念を集めている。
今、『魔女』はそのとき一緒に戦った騎士と結婚し、子供をもうけ、幸せいっぱいに暮らしている。
冒険小説は、普通はここで終わるのだろう。めでたしめでたし。ハッピーエンド。
しかし現実は小説じゃない。そこから何十年も続くのだ。
みんなは知らない。小説に描かれないその後の未来がどんなものなのか。生まれた子供がどんな生活を送るのか。
わたしのお母さんは、異世界から来た「魔女」だ。
新連載です。ライトな恋愛ファンタジー、の予定。