「煤臭い役立たず」と離縁された私ですが、窯主は一椀の粥を食べきるまで求婚の返事を待つそうです
「妻にしたい」
聞き違いだと思った。
私は窯の卓へ、煤の染みた仕事着と離職願を置いたところである。求婚される手順ではない。少なくとも、離職願の記入欄に「妻として採用希望」はなかった。
「……誰をですか」
「ティメアを」
「職人が一人減るから?」
「違う」
窯主フォティオスは即答した。火加減なら半刻は黙って見極める男が、恋愛だけは前置きを焼き損なう。
「職人を引き留めるためではない。あなたを妻にしたい」
私の手元で、紙の端が震えた。
まずい。求婚の等級を決める前に、検品する側が粉々である。
「離職願を読んでください。理由も書きました」
「読んだ」
紙には、自分の手で、役立たずにつき離職を願う、と書いた。
エヴァンゲロスが仕事着を戸口へ投げ出したとき、その服には私の稼ぎで買った家の鍵が載っていた。
『煤臭い役立たずを養う余裕はない』
私の稼ぎは家計へ消えていたので、養われていた覚えはない。だが、腹が空きすぎると反論にも薪が要る。私は仕事着と一緒に婚家を出て、一刻ごとに目を覚ます夜を二晩越し、ここまで歩いた。
窯主は離職願を出荷台帳の上からどけた。台帳には窯ごとの焼成日、俵数、判定者の名を書く欄がある。役立たずには眩しすぎる紙だ。
「受け取れない」
「求婚を断る前に、離職くらいさせてください」
「どちらの返事も、今は受け取らない」
窯主は卓の脇にあった黒い片手鍋を火へ戻した。
中身は麦と刻んだ根菜の粥だった。湯気が立つまで木杓子で混ぜ、木椀へ移し、匙の柄に布を巻く。私の指が裂けているのを見ていたらしい。
「どうぞ」
「求婚相手に粥を出すものですか」
「酒より適切だ」
反論の余地が一等品である。腹立たしい。
匙を握ると、親指の亀裂が開いた。最初の一口は熱かった。二口目で空っぽの腹が驚き、三口目で喉が閉じた。
私は匙を置いた。
「ごちそうさまでした」
「三口だ」
「数えないでください」
「数える」
私の胃袋、本日の等級は粉炭である。出荷不可。用途は窯主への嫌がらせ程度。
「これでおわかりでしょう。窯仕事どころか、粥にも負けました」
窯主は木椀を取り上げなかった。冷めないよう、片手鍋へ湯を張って椀ごと置く。
「判断は、食べて眠ってから」
「いつまで待つおつもりです」
「あなたが一椀を食べきるまで」
火の向こうから、まっすぐ見られた。
「そのとき、もう一度求婚する」
* * *
「手を」
湯気の向こうで言われ、私は両手を背へ隠した。
「これは仕事の汚れです」
「裂け目に入った煤は仕事をしてくれない」
「私も仕事をしないので、仲間でしょう」
「ティメア」
声を低くされると、冗談が二等へ落ちる。私は渋々、卓へ手を出した。
窯主は火の番の合間に沸かした湯へ布を浸し、私の指を一本ずつ拭いた。黒い筋が薄れるたび、赤い亀裂が姿を現す。汚れの下には傷がある。なんとも景気の悪い発掘作業だ。
蜜蝋へ薬草を練り込んだ軟膏が塗られた。
「しみます」
「すまない」
「窯主が謝ると、私が我慢のない人に見えます」
「実際、我慢する必要はない」
その答えは、傷口より沁みた。
婚家では、煤を落とせ、臭いを残すな、子もできないのに食費だけはかかる、と言われた。井戸水で擦りすぎて裂けた指は、みっともないから隠せと言われた。
窯主は傷を隠す布を巻きながら、きつすぎないかを二度確かめた。
換気した小部屋には、乾いた藁の寝台と毛布があった。窯の煙は入らず、火の熱だけが壁を通して残っている。
「ここで休んでくれ」
「窯主の部屋では」
「隣だ。火口へ行くときは声をかける」
「逃げません」
「知っている。倒れるほうを心配している」
余計に悪い。
毛布を顎まで掛けられた。目を閉じても、すぐに戸口へ仕事着が落ちる音がした。鍵が跳ね、エヴァンゲロスが鼻を覆う。煤臭い。役立たず。あの声は眠りの浅いところへ何度でも入ってくる。
それでも、その夜は夜半から三刻、目を開けなかった。
翌朝、寝台の脇には温め直された粥があった。匙の柄には、昨日と同じ布が巻かれている。
「落としませんでした」
私は空威張りで匙を掲げた。
「では炭は?」
「まだ折れます」
「折るのは炭です。今日は匙だけ持ってください」
窯主に炭を一本寄越せと迫り、細いものを選んでもらった。両手で持ち、親指をかける。
力を入れた途端、右の親指が跳ねた。手首まで細かく揺れ、炭は折れずに床へ落ちた。
窯主は拾った炭を私へ返さず、壁際の籠へ戻した。
「不合格ですか」
「炭は二等。あなたの復帰は判定外」
「役立たず、と書き直しましょうか」
「その言葉を、あなたの仕事場で使うな」
叱られたのは私なのに、窯主のほうがひどい顔をしていた。
* * *
三度目の朝も、黒い片手鍋が火へかかった。
麦と根菜に、今度は細く裂いた干し肉が入っている。胃袋に相談せず具を増やすとは、窯主はなかなか強引な男である。
「肉はまだ早いです」
「昨日、半椀食べた」
「半椀しか、です」
「三口より多い」
数で殴ってくる。しかも正しい。反撃不能につき、窯主の等級は暫定一等。悔しいので本人には知らせない。
食後には湯で首筋の煤を拭かれ、指へ軟膏を塗られ、毛布を替えられた。
「自分でできます」
「昨日、薬の蓋を落とした」
「床が受け止めました」
「床には求婚していない」
「していたら止めます。あの床、節穴がありますから」
窯主の口元がわずかに動いた。
笑うなら堂々と笑えばいいのに、この男は火口を開けるより慎重に笑う。
四日目、粥は半椀を越えた。
五日目、指の亀裂へ巻いた布に赤い染みがつかなかった。
六日目には、夜半に一度目を覚ましただけで、そのまま明け方の鳥の声まで眠った。
毎朝、同じ片手鍋で粥が温められた。毎晩、窯主は火の番から戻ると湯を用意し、私の指から煤を拭った。煤を落とす手つきなのに、汚いものを扱う指ではなかった。
それがいちばん困った。
エヴァンゲロスは私の稼ぎを受け取りながら、仕事の臭いだけを嫌った。窯主は私の仕事を惜しみながら、働けない私にも粥を運ぶ。
比較すれば答えなど出ている。だからこそ、空腹と不眠で傾いた頭のまま返事をしたくなかった。
拾われたから頷くのではない。
立てる身体で、立つ場所を決めたい。
「今日は一椀です」
八日目の朝、私は匙を木椀の底へ当てた。
あと二口だった。胃袋は半椀を過ぎたあたりから「聞いていません」と抗議している。雇用主への苦情なら窯主に言ってほしい。私は現場担当である。
最後の一口をどうにか飲み込み、椀を卓へ置いた。
戸口で炭俵の縫い糸を切っていたカリオピが、こちらを見た。彼女は私の椀を持ち上げ、底を確かめる。
「ようやく一等の食べ方」
「食べ方にも等級が?」
「三口で匙を置く職人がいたせいで、今できた」
歯切れがよすぎる。縫い糸と一緒に私の逃げ道まで切ってくる。
私は仕事場へ出た。
炭棚から一本抜き、親指をかける。乾いた音とともに、炭は斜めに割れた。手首は止まっていた。だが、断面は荒く、粉が掌へ多く落ちている。
「二等」
もう一本。
今度は折る直前、親指の付け根がわずかに震えた。目で見なければわからない程度でも、私は知っている。
「今日はここまでだ」
背後にいた窯主が炭を取り上げた。
「一椀食べました」
「一度だ」
「離職願を破って、春の出荷まで残ります」
窯主の眉間へ深い線が入った。
「いま決めました」
「判断は、食べて眠ってから」
「食べました!」
「明け方まで眠れたのも、一椀食べたのも一度だけだ。一生分を決めるな」
む。前より腹が立つ。こちらの身体が戻ったぶんだけ、言葉がきちんと刺さるのだ。
「では、いつなら認めます」
「明け方まで眠れる夜が続いて、炭を折っても手首が揺れなくなったら」
「条件が具体的すぎます」
「窯主だからな」
「求婚にもその精密さを分けてください」
「妻にしたい」
「そういうところです!」
カリオピが俵へ顔を伏せ、肩を揺らした。こちらは真剣なのに、周囲の判定が容赦ない。
さらに数日、私は食べて、眠った。
指の亀裂は細い桃色の線になった。明け方まで目覚めない夜が三度続いた。炭を一本、二本、三本と折っても、親指も手首も動きたい方向にだけ動いた。
そのころ、一窯が締めの火へ入った。
春の出荷を左右する窯だ。三十日かけて乾かした薪を詰め、火を入れてから六日。煙は重い白から黄を帯び、ようやく青く薄くなり始めていた。
「上の通風口、半分閉じてください」
私は煙を見上げた。
窯主が長い棒を使い、土で狭めた口を調整する。
「これでどうだ」
「まだ速いです。指二本分」
「一本半では」
「一等を焼く気がありますか」
「ある」
「なら二本です」
恋愛は唐突なくせに、火には異様に慎重である。窯主の中で求婚だけが規格外品らしい。
夜が深くなると、山の冷気が背中へ入り込んだ。私は火口から三歩離れた石へ腰を下ろし、煙の色と流れを追った。窯主は火床を掻き、赤くなった薪を奥へ送る。
「寒くないか」
「毛布を三枚も掛けられています」
「指先が冷たい」
「火口へ押し込めと?」
「それは止める」
「では仕事をしてください」
窯主は一度小部屋へ戻り、黒い片手鍋を持ってきた。
「粥は朝だけでは」
「今夜は長い」
「私より窯を甘やかしてください」
「窯は粥を食べない」
木椀へ半分だけよそわれた。私は煙を見ながら食べた。
夜半、煙から黄みが抜けた。
「下を絞って」
窯主が土を寄せる。
「もう少し。そう、そこで止めて」
火が息を潜め、窯の内側で乾いたものが次々に弾けた。湿った鈍い破裂音はない。耳の奥へ澄んだ響きが重なる。
明け方、煙はほとんど色を失った。
窯主は最後の通風口を塞ぎ、土を押し固めた。私もしゃがみ、鏝で縁を整える。手首は揺れない。力を入れた親指にも痛みはなかった。
「できました」
「ああ」
「私の判断を使いましたね」
「使った」
「役立たずの」
窯主が鏝を置いた。
「その言葉を、二度とあなたの名札にするな」
火の落ちた口から、名残の熱が頬へ当たる。
「あなたの判断で、この窯は締まった。焼き上がりが悪ければ私の責任だ。良ければ、焼成は私、等級判定はあなたの仕事として台帳へ記す」
焼けるまでの責任を半分にする気はない。焼けたあとの成果を奪う気もない。
ずるい。
そんなふうに扱われたら、役立たずという札をどこへ掛ければいいのかわからなくなる。
窯を開けたのは、さらに三日後だった。
冷えた炭を掻き出し、太さを揃えて並べる。黒い表面には硬い艶があり、二本を軽く打ち合わせると高い音が返った。
だが、音だけで決めれば、湿りを抱えた炭まで紛れ込む。
私は一俵目から一本を抜き、折った。
断面は密で、銀色を帯びている。粉も少ない。
「一等」
二俵目も同じ。三俵目は音がわずかに低い。縄を解き、中央から一本取ると、表面より重かった。折った断面に鈍い色が混じる。
「これは外します。冷却中に湿りを吸っています」
「外側は乾いているぞ」
カリオピが俵の底へ手を差し込んだ。
「底縄が濡れてる。置き場の端から水が回ったね」
「同じ列の右二俵も開けてください」
右隣も、その隣も底だけが湿っていた。三俵を外し、乾いた炭と混ぜずに積み直す。
残った俵を一本ずつ抜き、音、重さ、断面、粉の落ち方を確かめる。途中で親指へ炭の角が食い込んでも、震えなかった。
三十六俵。
すべて一等で揃った。
「積むぞ。次便は何俵にする?」
荷車を寄せたソティリオスは、窯主ではなく私へ尋ねた。
「今日の三十六俵が売れて、戻りに湿りがなければ、次も同数で。外した三俵は乾かし直して別便にします」
「了解。底板を一枚増やす。春先の道は泥を拾うからな」
彼は返事を聞き終える前に一等俵を担ぎ、荷台へ載せ始めた。
窯主より先に私へ数を聞く。私の判定で荷車が動く。
煤臭い役立たずではない。
三十六俵を正規の値で市へ送る、等級付け職人だ。
出荷台帳を開く。
窯主は焼成欄へフォティオスと記し、筆を私へ渡した。
等級判定欄へ、ティメア。
字は震えなかった。
「この窯の春の仕事を続けます」
私は自分の名を見ながら言った。
「職人として、私が決めました」
「受け取った」
「求婚の返事は、卓へ戻ってからします」
窯主の筆先から、墨が一滴落ちた。
火の番でも乱れない男の失点である。これは大事に覚えておこう。
* * *
荷車を見送ったあと、黒い片手鍋がまた火へ載せられた。
最初の日と同じ麦と根菜の粥。同じ木椀。同じ、布を巻いた匙。
「もう布はいりません」
「熱い」
「指は塞がりました」
「熱いものは熱い」
窯主は布を外さなかった。
私は一口ずつ食べた。
三口を過ぎても喉は閉じない。半椀を過ぎても手は止まらない。窯主は向かいに座ったまま、急かさず、目だけで匙の往復を数えていた。
最後の一口を飲み込む。
木椀の底が、すっかり見えた。
「空です」
「ああ」
「離職願を返してください」
窯主は懐から、四つ折りの紙を出した。
あの日に置いた煤の指跡も、「役立たず」と書いた文字も残っている。
私は紙を開いた。
両手で裂く。
一度では切れず、向きを変えて、もう一度。細長くなった紙を重ね、さらに破った。自分で書いた言葉が、読めない大きさになるまで。
紙片を片手鍋の火へ入れようとすると、窯主に手首をつかまれた。
「火事になる」
「最後まで格好がつきません」
「灰が室内へ舞う。紙は外で燃やす」
求婚の直前に廃棄手順を訂正された。実務に強い男と結婚するのは、おそらくこういうことである。
窯主はすぐに手を放した。
卓の上には空の椀と、破れた離職願だけが残った。
「ティメア」
低い声が、私の名を一つずつ置くように呼んだ。
「私は、あなたを働かせるために何度も、粥を温め直したのではない」
窯の火が、壁の向こうで鳴った。
「夜ごと指へ薬を塗ったのも、窯主の義務ではない。眠れた刻を数えたのも、炭を取り上げたのも、あなたの判定を惜しんだからだけではない」
窯主は卓の端を握っていた。
こちらへ手を伸ばせば届く距離なのに、動かない。
「あなたが弱っている間に、返事を得たくなかった。食べられない身体で、眠れない頭で、行き場がないから私を選ぶことだけは、させたくなかった」
私の目の縁が熱くなった。
「あなたは今日、自分の足で窯に残ると決めた。私の焼いた炭を折り、三十六俵を一等にした。湿った俵を外し、あなたの名を台帳へ書いた」
そこで声が、少し掠れた。
「それでも私が妻に望むのは、その手だけではない」
頬を伝った熱い雫が、煤の残る顎から卓へ落ちた。
「炭を折れる手も。三口しか食べられなかった身体も。夜中に何度も目を覚ますあなたも。窯主へ二等だの粉炭だの言う毒舌も。傷も、煤を拭い切れない顔も」
一つ言われるたび、捨てられたと思っていた私の一部が拾われていく。
「私が妻にしたいのは、ティメアです」
声が出なかった。
口を開くと息だけがこぼれ、もう一筋、頬を濡らした。窯主は待った。椀が空になるまで待ったように、私が自分の声を取り戻すまで。
「代わりはいらない。あなたがいい。職人として必要だからではなく、愛しているから、私の隣にいてほしい」
目の前の男は、火の番より不器用で、求婚だけは規格外で、私が答える前には指一本触れない。
とんでもない。こんな選ばれ方をしたら、役立たずだった私まで、丸ごと一等だと信じてしまう。
「……検品し直しても?」
「何度でも、同じ答えを出す」
「私、口が悪いですよ」
「知っている」
「煤もつきます」
「私にもつく」
「子を得られるとは限りません」
「あなたを妻に望んでいる。まだいない誰かの母親を探しているのではない」
息を吸う。喉が震えて、最初の音が潰れた。
もう一度。
「フォティオス」
初めて呼んだ名に、彼の肩が揺れた。
「私も、あなたを選びます」
空の木椀へ雫が落ちた。
「妻として、隣にいたい。仕事の相棒としても、この窯を一緒に守りたい。行き場がないからではありません。私が、ここへ戻ってきたいから。毎朝あなたと食べて、眠って、自分の手で炭を折りたいから」
「ティメア」
「はい」
「返事を、最後まで聞かせてくれ」
急かさないくせに、欲しい言葉からは逃がさない。選別の厳しい窯主である。
私は濡れた頬を隠さず、彼を見た。
「あなたの妻になります。フォティオス」
卓の向こうから、両手が差し出された。
私が先に手を伸ばす。
塞がった指も、煤の入り込んだ爪も、その手はまとめて包んだ。大きな掌は火のそばにいたせいで熱く、震えていたのは、今度は私ではなかった。
フォティオスは私の手へ額をつけた。
「ありがとう」
掠れた声が指へ触れた。
私はその髪に、空いたほうの手を置いた。
「求婚は一等です」
「そうか」
「ただし、最初の手順は等級外でした」
「改善する」
「次があるんですか?」
彼が顔を上げた。
「毎朝、求婚する」
どうやら私の夫になる男は、執着だけ大量出荷するつもりらしい。
* * *
三十六俵は正規の値で売れた。
湿りを外した判定も市で評価され、次の便もソティリオスは私へ数量を聞いた。焼成欄にはフォティオス、等級判定欄には私の名が並ぶ。窯は二人の仕事として回り始めた。
婚家から復縁の打診が届いたのは、その春の終わりである。
封は切らなかった。宛名を見たカリオピが新しい包み紙へ収め、ソティリオスが帰りの荷車でそのまま返した。
煤臭い役立たずは、もうそこにはいない。
残っているのは、一等炭を選ぶ職人と、窯主の妻だけだ。
婚姻後も、フォティオスは黒い片手鍋を手放さなかった。
「空です」
「見ればわかる」
「毎朝確認しますね」
「毎朝確認する」
「求婚は一等でしたが、食事監督は二等です」
「明日も判定を頼む」
空になった木椀を私が掲げると、炭俵を縫っていたカリオピが鼻で笑った。
「一等を維持しな。窯主が火口へ通さないよ」
事実だった。
私が一椀を空けるまで、フォティオスは火口の鍵を渡さない。職人に対する横暴である。抗議すると「窯主権限だ」と返されるので、共同で回す体制とは何だったのか、次の話し合いで追及したい。
その朝も粥を食べきり、私は炭棚へ向かった。
三本目を折ったところで、フォティオスの指が頬へ伸びてくる。
「煤がついている」
「仕事中です」
手を叩く。
彼は懲りずにもう一度近づき、今度は煤のない額へ口づけた。
「それならいいだろう」
「窯主権限ですか」
「夫の希望だ」
「二等です」
「明日も判定を頼む」
フォティオスは満足げに窯番へ戻った。
私は熱くなった額を片手で押さえ、もう片方の手で炭を折る。
乾いた高い音。艶のある、まっすぐな断面。
一等だった。




