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なかやまきんに君「Tウイルス?」

作者: 宗徳
掲載日:2026/02/06

地下研究所B4。


薄暗い研究所の廊下に、非常灯の赤い光が点滅している。

壁には無数の引っかき傷。

床には、何かを引きずった跡。


その中心に、異様なほど健康的な男が立っていた。


「なるほど……ここが感染源ですね」


白タンクトップ、短パン、裸足。

防護服ゼロ。

しかし、姿勢は完璧。腹圧も入っている。


なかやまきんに君である。


「Tウイルス?」


その単語を口にした瞬間、彼はわずかに息を止めた。

理屈ではない。経験でもない。

筋肉が、危険を察知していた。


空気は重く、消毒液と鉄錆の匂いが混じっていた。


「なるほど……これは、相当追い込まれてますね」


彼はそう呟き、自然なフォームで一歩踏み出した。


すると施設内放送が、聞こえて来た。


『Tウイルスは細胞を強制的に活性化させ、

宿主の理性を破壊します。

感染者は強い攻撃衝動を示し――』


きんに君は腕を組み、静かに頷いた。


「強制的な活性化……

回復期間無しのトレーニングですね」


直後。


廊下の奥から音がした。

引きずる足音。

不規則な呼吸。


現れたのは、かつて人だったもの。

歪んだ関節、濁った眼、垂れ下がる皮膚。


ゾンビだ。


「おお……」


きんに君は、観察するように一歩近づいた。


「筋肉量は増えている。

でも、神経伝達がめちゃくちゃです」


次の瞬間、ゾンビが襲いかかる。


きんに君は逃げない。

構えもしない。


ただ、正しい姿勢を取った。


踏み込み、体重移動、肩甲骨の寄せ。

無駄のない動きで、ゾンビの体を受け流す。


そして、

「ヤー!!」


ゾンビは壁に叩きつけられ、動かなくなった。


声は明るい。

だが目は、真剣だった。


「力は、使い方です。

無理に出すと、壊れます」


きんに君は再び歩み始めた。


そして、制御室に入った瞬間、

ガラスが割れた。


床に広がる緑色の液体。

空気が揺らぐ。


『警告。Tウイルス、空気感染率上昇』


吸い込んだ。

避けられなかった。


胸が熱い。

血流が加速する。

筋肉が、内側から膨張する感覚。


視界が一瞬、赤く染まった。


「……来ましたね」


きんに君は、その場に座り込む。

呼吸を整え、心拍を下げる。


「これは……パンプ。異常なパンプです」


頭の中に、声が響く。


《壊せ》

《奪え》

《解放しろ》

《かゆ…うま。》


きんに君は、

僅かに残った理性で体内の何かに語りかけた。


「すみません」


「この体は、計画的にしか成長しません」


日々のトレーニング。

栄養管理。

休養。


それらは単なる習慣ではなかった。

理性そのものだった。


ウイルスは暴れる。

だが、暴れきれない。


「オーバーワークは、必ず怪我につながります」


熱が、ゆっくりと引いていく。


きんに君は理性を取り戻した。


乱れた呼吸を整え、

遂に最深部へと向かう。


扉を開けると、

巨大な影が蠢いていた。


Tウイルス完成体。

圧倒的な筋量。

だが、異様なバランス。


「……やっぱり」


きんに君は静かに言った。


「脚、やってませんね」


怪物が咆哮する。

天井が崩れ、瓦礫が落ちる。


「おい、おい、おいタイラント君!

 やるのかい!やらないのかい!

 どっちなんだい!!」


彼は、深く息を吸った。


()~ります!!」


怪物の拳が振り下ろされる。

受け止める。

踏ん張る。


床が割れる。


きんに君の脚が、耐える。


「下半身が強いと、世界は安定する!」


反撃。

一撃ではない。

連続した、正確な動作。


怪物の動きが、徐々に鈍る。


最後の一撃。

きんに君は、全身を使った。


「パワーーー!!!」


衝撃。

怪物は崩れ落ち、動かなくなる。


静寂。

からの、


「ハッ!」


さわやかな笑顔


【エピローグ】


地上。

朝日。


研究員たちは、言葉を失っていた。


「ウイルスは……?」


きんに君は、タオルで汗を拭く。


「ウイルスも怖いですが……」


笑顔で一言。


「一番怖いのは、

 継続しないことですね」


彼は去っていった。

筋肉という、

最強のワクチンを残して。

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