番外編:好きと好き
「大地ってば仕方ないなぁ~。そんなに私と遊園地に行きたいなら、今度の土曜はたまたま空いてるから付き合ってあげてもいいよ?」
「俺まだ何も言ってないけど」
そんなわけで夏海と遊園地にやってきた。
付き合い始めてから一週間以上経ち、初めての丸一日がかりでのデートである。
今日の夏海の服装は、上はオーバーサイズのスウェットに下はミニスカート、足元は動きやすそうなスニーカーと、彼女らしい活発なイメージのコーデだ。
「服、可愛いじゃん」と俺が褒めると、「あたりまえ!」と夏海は返してきた。まったくもって褒めがいがない。
「友達とはたまに来るけど、あんたとここに来るのは随分久しぶりねー」
「小学生ぶりくらいか? 懐かしいな」
入場口を通りながら、そんな話をする。
昔はよく家族ぐるみで来たものだ。中学に上がる頃には気恥ずかしくて一緒に来ることはなくなったが、恋人同士になると全然来れてしまうのだから不思議だ。
「大地ー。ジェットコースター乗ろっ」
園内に入場すると、さっそく夏海は嬉々とした表情で言った。
「……あれ。夏海、知らなかったっけ? 俺、昔から絶叫系苦手なんだ」
「うん、知ってて誘ってる」
さすが『性格終わってる』でお馴染みの女だぜ。いやマジで。
「おねがいっ。大地の方こそ、私が昔からそういうの好きなの知ってるでしょ?」
「知ってるけど……まったく、何が楽しいんだよあんなの」
「あんたのビビってる顔を見るのが醍醐味なの! だからお願い!」
「じゃあ楽しみ方間違ってるよ!」
ジェットコースターの順番待ちは行列だった。並んでいる最中、何気なく俺は夏海に聞く。
「そういえば、箕輪先輩には結局なんて返事したんだ?」
「えっ? 普通に『ごめんなさい、他に好きな人がいるからやっぱり付き合えません』って断ったけど」
「先輩はなんて?」
「『真剣に考えてくれてありがとう。夏海さんが好きって言うくらいだから、きっと素敵な人なんだろうな。その人とお幸せに』って」
「どこまで完璧超人なんだ……」
きな臭いとか言ってすみませんでした。もはや俺が先輩のこと好きになりそうです。
「そっちはどう? 新山先輩はなんか言ってた? 」
「だから一言も喋ったことねえって」
そうだったね、と夏海は笑う。そんな風に他愛のない話をしてると、いつの間にか順番が回ってきた。
やばい、緊張する。帰りたい。
「ぎゃあああああ!!」
「あっははははは!!」
アトラクション中、俺は絶叫し、夏海は爆笑していた。
彼女は一体乗り物が楽しくて笑ってるのか、俺の顔が面白くてなのかどっちだろう。
「あ~、楽しかった。あんたと乗るジェットコースターはやっぱ格別だわー」
「どっちとも取れる言い方だな……。それじゃあ次はアレに入ろうぜ」
俺はある建物を指差す。そこにはおどろおどろしいフォントで『最恐心霊病棟』という看板が掲げられていた。
「……だ、大地。あれはやめとこ? 私が昔からああいうの苦手だって知ってるよね……?」
「いや? 昔のお前は『私ああいうのめっちゃ好きだけど、今日はお腹痛いからやめとく~。調子良かったら5周くらいしたかったナ~』って言ってたぞ」
「昔の私のバカぁ!!」
嫌がる夏海を引きずって最恐の病棟に入る。まあ、これくらいの仕返しは許されて然るべきだろう。
「きゃあああああ!!」
「あっははははは!!」
アトラクション中、夏海は絶叫し、俺は爆笑していた。もちろん俺は、夏海の顔が面白くて笑っていた。
「や、やだあ、だいち、もう帰りたいぃ~……!」
「おい、くっつきすぎだ。歩きにくいって」
「手、絶対離さないでね……? おいてかないでね……っ!?」
「そこまで鬼じゃねえよ……うおっ」
「いやあ!! また出たぁ~……!」
俺の腕にしがみつく夏海は、もう涙目だった。本当に苦手なんだな……。
……それにしても。
どうしてこんなに夏海のことを、愛おしく感じてしまうのだろう。
性格悪くて生意気で、面倒なヤツなのに。お化けを怖がってる姿を見て、どうしてこんなにも彼女を守りたいと思ってしまうのだろう。
いや、そんなのもう分かりきっている。恋人になった時から……あるいは彼女を初めて好きになった、『あの日』から。
「ははっ……」
「ちょっとあんた、ホラー耐性ありすぎ……。なんでこの状況で笑ってられんのよぉ……?」
そんなこと言われても、仕方ないだろう。
夏海のことが好きすぎて、夏海と近くにいられる幸せで、どうしても頬が緩んでしまうのだから。
*
心霊病棟を出てからも、俺たちは手を離さなかった。カップルらしく、手を繋ぎあって園内を歩く。
その後も色々なアトラクションに乗ったりフードを食べ歩きしたりして、俺たちは遊園地を遊び尽くした。
そして、辺りが暗くなり始めた頃。
「やっぱ締めは観覧車よね~」
と、夏海は俺の手を引いた。鍋で雑炊作る時みたいな言い方で。
上空に昇っていく狭い個室に俺たちは入り込み、向かい合わせに座る。
「遊び疲れたな……」
「うん、でも楽しかったねっ」
「楽しかったけど、いっとき絶叫系三連続で乗せられた時間あったぞ……」
「あんたが怖い病院なんて連れてくから、そのお返しですぅ~」
「お前から仕掛けてきた戦いだろうが」
観覧車は徐々に、上へ上へと昇っていく。
俺がぼーっと景色を眺めてると、突然沈黙を破るように、「ねえ、知ってる?」と夏海が口を開いた。
「この観覧車の頂上で、恋人同士がさ……」
「なに?」
「き……きき、きき」
「……危機?」
「き、キスすると、一生幸せなカップルになれるっていう…………やつ」
「やつって」
「都市伝説的なアレよ! ま、まあ、だからなんだって話だけどさ」
「……夏海」
「いや、私は別にどっちでもいいけど!? でもあんたが『どうしてもしたい』って言うなら仕方な――」
「どうしてもしたい」
俺はそう言いながら席を立ち、夏海の隣にどかっと座る。
彼女は一瞬だけビクッと震えて、膝に手をついたまま恥ずかしそうに肩をすぼめた。
「な、なによ」
「言ったぞ」
「……あ、あっそ。本当に言うとはね。プライドとかないわけ? なっさけない。男子って本当に性欲が何よりも優先されるのね~」
「お前さ……これからは素直になるんじゃなかったのかよ?」
「うっ……」
「なあ、夏海」
「ひゃっ!?」
俺は夏海越しに観覧車の窓に、手をついた。
いつかの教室の時のように。
「俺はお前と、したいよ」
「あ、あうぅ…………」
夏海は顔を赤くしながら、俺から目を逸らす。正直もう、このままキスができる距離だ。
「あ、あんたその……たまにするイケメンムーブやめてよ! 心臓に悪いから!」
「心臓って……そんなに驚くことか?」
「驚くっていうか……ドキドキ、しちゃうでしょ……」
「夏海」
「分かったからぁ! 私にだって心の準備が――」
「外……見てみろ」
俺は窓についた手を引く。「えっ?」と夏海は振り返って、俺に言われた通り窓の外を見た。
「……あっ」
「すごくね?」
「う、うん。すごい……綺麗……」
感動したように、夏海は呟く。俺もさっき、手をついた時に気づいた。
窓の外には光の海が広がっていた。ビルの明かりや車のライトが幾つも波打ち、イルミネーションのように夜の世界を照らしている。
「そういえば、夜にこの観覧車乗ったの初めてかも……こんなに景色、綺麗だったんだ」
「ああ……そうだな」
「あっ、見惚れてる場合じゃない! 写真撮らなきゃ!」
そう言って、スマホを操作し始める夏海。
俺たちはパシャパシャと窓の外にカメラを向けたり、二人でピースしてツーショットを撮ったりした。
よかった。今日のデート、最後に良い思い出ができ――
――あ。
キスのタイミング逃した。
もうとっくに頂上を過ぎていた。観覧車は下り始めている。
「良い写真撮れた~。インスタあげちゃお」
それに気づいてない様子で能天気にSNS中の夏海。
俺はため息を付いて、反対側の窓を見る。こっちもいい景色だ。
まあ、いいか。
なかなか乗る機会のない観覧車だ。それよりこの素晴らしい景色を、目に焼き付けておこう。
それに焦ることはない。いつかまたきっと、そのチャンスが――
「だいち」
「ん?」
夏海に呼ばれ、振り返ると。
さっきまでスマホを見ていたはずの彼女の顔が、なぜか目の前にあった。
「――――っ!?」
そして。
唇に、柔らかい感触。
「……っ!」
夏海は俺に身体全体を預けるように、覆いかぶさってくる。
そんな彼女の行動に、俺はただ戸惑うばかりで、抗うことなどできなかった。
やがて、ぷは……と、ゆっくり夏海は唇を離すと、
「く、ふふっ」
彼女は『してやったり』というような、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それよ、その顔。さいっこー……。やっぱあんたの慌てふためいた顔、笑える~……」
俺を小馬鹿にした台詞――とは裏腹に、夏海の顔は茹で上がったように真っ赤だった。
「な、なんのつもりだ夏海……」
「……都市伝説とかウソだから。ばーか」
「は……?」
「そんなもんないって言ってんの! あ、あんたとチュウしたかったから、無理やり理由付けしただけだし。ただの照れ隠し! こうでもしないと私の性格上できないと思ったから! なんなら遊園地誘った時からここでするって決めてました!!」
「い、一旦止まれ! 赤裸々すぎるだろ!」
「し、仕方ないでしょ!? もう素直になるって決めたんだから……! 大地とキス、したかったんだからぁ!!」
恥ずかしさのあまりか、やたらと声を荒げる夏海。その様子を見て、こっちまで顔が熱くなる。
夏海とキスをした。
その事実を意識すると、胸の鼓動が激しく高鳴った。
「夏海、お前……」
「とっ……とにかく、分かった!? どこでどのタイミングでキスしようが、私とあんたは一生幸せになるの! もう決まってるんだから!」
「……ほんとに、お前は」
笑えてくる。
素直になったらなったで、やっぱり面倒な性格は変わらないんだな、夏海は……。
本当に、敵わない。この幼馴染には。
「一生よ……一生なんだからね、大地。だから――」
彼女は言う。照れながらも、たどたどしくも。
「これからもずっと、私を楽しませてね、大地」
俺がどうしようもなく好きになってしまった、笑顔を浮かべて。
初めて聞いた気がしない夏海のその台詞に、俺は「もちろん」とだけ返事をして。
もう一度、今度は俺の方から口づけをした。
彼女の背中に手を回しながら。狭い観覧車の中で。
今度はもう、天邪鬼になる必要はない。真逆を向くこともない。
俺たちは真正面から、『好きと好き』同士。
だったらこれからは、まっすぐ前を向いて、『幸せ』へと歩いていくだけだ。
ゆっくりと二人で、手を繋ぎ合いながら。
これまで頂いたたくさんのPV、評価に感謝を込めての後日談でした。
本当にありがとうございました。
新規に読んでくださった方も、面白いと感じて頂けたら評価頂けると幸いです。
以下、新作のラブコメになります。全6話の短いお話ですので、こちらもよろしければ読んでみてください。
人気アイドルになった元同級生と小学校以来の再会を果たした話
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普段からラブコメを中心に書いてますので、よろしければ他の作品も読んで頂けると嬉しいです。




