第3話:愛と嘘
俺の『報告』を受け、夏海は力が抜けたように椅子に尻もちをつく。
目は眼球が飛びでそうなくらい見開いていた。
……想像以上の反応だ。
「に、新山……先輩……?」
「うん」
「ってまさかあの、めちゃくちゃ美人でおしとやかで、手芸部のキャプテンの……!?」
「部長な」
「……あっそう。そうですか。なるほどね~そういうこと。そっちはそっちでよろしくやってるわけね。オッケー、じゃあ私もやっぱ、箕輪先輩とーー」
「断ったけどな」
「……」
脳の処理が追いついていないかのような、混乱した顔を見せる夏海。漫画だったら目がぐるぐる渦巻いてそうだ。
「なになに、どういうこと……? わけわかんない。なんであんなキレイな人からの告白を、断ってんのよ……」
「だって他に好きな人がいるのに付き合うなんて、それこそ先輩に失礼だろ?」
「私のことが、好きだから……?」
「おう」
「じゃああんたはこのまま、誰とも付き合うことなく、ずっと生きていくの?」
「まあ、お前のことが好きなうちはな」
「……なによそれ、そんなのおかしいでしょ」
「俺が勝手にそうするだけだから。お前は気にせず別の誰かを好きになって、そいつと幸せになってくれ」
「……」
何を思ったか、夏海は黙り込んでしまった。急に静かになられると気まずいんだが……。
なんだかバツが悪いので、
「あ、でも結婚式には呼んでくれよ。友人代表のスピーチくらいはさせろ」
俺は軽い調子でそう言った。
すると夏海は小さな声で、
「……嫌よ、ばーか」
そう呟いた。なぜか分からないがその表情は少し、寂しそうに見えた。
「っていや、真に受けんなよ。今のは冗談だ」
「……どっからどこまでがよ。スピーチ? 結婚式に呼ぶのが?」
「新山先輩に告白されたことが」
「そっからぁ!?」
と夏海は叫び、勢いよく立ち上が――ろうとして失敗して、机の天板に太ももをぶつけた。「いったぁ!」と悶える。
今日の夏海はリアクションが大きくて、愉快だな。
「ぐ、くぅ~……あ、あんたねえ……!」
「あのなぁ。そもそもお前と違って俺は帰宅部だぞ。新山先輩との絡みなんてあるわけないだろうが」
「な、なんなのよそれ、どういう意図があっての冗談なのよ……!」
「なんかお前だけ告白とかされてムカつくから、見栄をはりたくなった」
「くっだらない理由……! それで、満足した!?」
「満足したよ。お前は?」
「はあ!?」
「さっきの相談はもう結論出たんだよな。お前がそれで『満足した』なら、俺はもう帰るよ」
「……」
夏海は俯いて、何も言わなくなった。いよいよ呆れ果て、無視され始めたのかも。
俺は仕方なく「じゃあ、おつかれ」と立ち上がる。
そして教室の扉へと、歩みを進めるとーー
「……待ってよ」
と、夏海が俺を呼び止めた。
振り返ると、夏海も既に立ち上がっていて、腕を伸ばし俺の制服の袖を掴んでいた。顔はやはり俯いていて、表情は見えない。
「なんだよ」
「……なんか今日のあんた、変じゃない……? いつもと雰囲気違うというか……なにかあったの?」
「お前が言うなよ」
「は? なにその態度……ムカつく。やっぱ先輩と付き合っちゃおうかなぁ」
「そうしろってずっと言ってるだろ」
「あっ……えと、今のはちがくて、その……」
「はぁ……」
黙ったり苛立ったりあたふたしたり、忙しいやつだな。
そんな夏海を尻目に、俺はため息をつく。本当に――
本当にお前は、面倒くさい幼馴染だよ、夏海。
「そういやもう一個、大事なこと言い忘れてたわ」
「えっ……?」
俺は唾をごく、と飲み込み、意を決した。
そして、袖を掴む彼女の手をーーぎゅっと握り、顔の前まで持ち上げる。
「昔からずっと、夏海のことが好きだった。俺と付き合ってくれ」




