第1話:好きと嫌い
「夏海ちゃんって、大地くんと付き合ってるの?」
「えっ!? ないない、そんなわけないでしょ! 大地はただの、幼馴染だよ」
「えー。でも、本当は好きなんじゃないの?」
「す、好きじゃないから! むしろ嫌いよ! 大嫌い! 生理的に無理だから!」
「そこまで言う……?」
***
「大地。お前、夏海と付き合ってんだろ?」
「付き合ってないよ。あいつとはただの、幼馴染だ」
「ほんとかー? でもあいつ可愛いしなー。内心、好きなんだろ?」
「ああ、好きだよ」
「お、おう、そうか。そんなまっすぐ言われるとは……」
***
いつからだろう。俺が夏海のことを好きになったのは。
「ごめんねー、大地。急に呼び出して」
「いや、別にいいよ。なんだ相談って」
放課後、俺は幼馴染の夏海に、誰もいない空き教室に呼び出された。
二人で、後方の適当な席に並んで座る。
「部活は?」と俺が聞くと、夏海は「仮病で休み」とだけ答えた。
サボりかよ……。ちなみに俺は帰宅部だ。
「ていうか、あんたに改まって相談っていうのも、なんか恥ずいね」
「そうか? で、どうした」
「……えー、どうしよう。やっぱ言うのやめよっかな」
「急に呼び出しといて、そりゃないだろ」
「ねえ、聞きたい? 気になる? このまま帰ったら夜寝れなくなっちゃう? 『どうか聞かせてください』って言えたら、教えてあげなくもないけど」
「俺、お前の相談に乗りに来たんだよな?」
ぷっ、と吹き出し、くすくす笑い出す夏海。俺をからかっているつもりなんだろう。
まったく、相変わらず面倒な性格してるな……もう高校生だというのに、初めて出会った幼稚園の頃から全然変わらない。
ていうかなんで俺、こんなやつのこと好きになったんだっけ……?
「私、箕輪先輩に告白されちゃった」
唐突に、夏海はそう言った。
「……箕輪先輩? って、バスケ部キャプテンの?」
夏海はコクンと頷いた。
……なんと。まさかあの夏海が、誰かに告白される日がこようとは。高一ともなれば、当然か。
それに彼女も女子バスケ部に所属してるので、箕輪先輩との交流は以前からあったのだろう。
「昨日、部活終わりに体育館裏に呼び出されてさ。『付き合ってほしい』って言われた」
「おお……マジか」
「ね。私、どうしたらいいと思う? 付き合ったほうがいいかなあ?」
「……なるほど、そういう相談か」
確かに昔からの幼馴染相手に、この手の相談が気恥ずかしくなる気持ちは分かる……が。
しかしそれにしては、なんだこの「どうだ」とでも言わんばかりの自慢げな表情は。
「あっ。もしかして大地、ショック受けちゃったぁ?」
「は……? なんで?」
「うわ、白々しいー。涙ぐましいとぼけっぷりね。そんなに自尊心が大事? 全部バレてるとも知らずに、ほんとに滑稽――」
「とりあえず」
また面倒な感じになりそうだったので、俺はわざとらしくパンと手を叩き、流れを断ち切った。
「せっかく相談してくれたわけだしな。ちょっとガチで考えてみるわ」
「えっ? あ、うん」
そう言って俺は、腕を組んで思考を巡らす。
「箕輪先輩か……一言でいうと、かっこいいよな」
「……うん」
「顔は整ってるし、背も高いし、バスケ上手いし……キャプテンで、リーダーシップもあると」
「うんうん」
「おまけに、成績もなかなか優秀って聞くな。性格も明るくて、後輩にも優しいと評判だ」
「そうね」
「断る理由、なさそうだけど」
「……そ、そう思う? ほんとに?」
「うーん」
もう一度しっかり、自分の考えに向き合ってみる。この件に関しては、慎重に答えを出すべきだと思ったから。
「……あーでも、なんか完璧超人すぎて、逆にきな臭いとはちょっと思う」
「そうよね!? やっぱりことわ――」
「でも、断る理由としては弱すぎるか。普通に考えて、完璧なら完璧なほど良いに決まってるし。付き合ったら?」
「……」
唾を吐き捨てるかのような嫌そうな顔をされた。なんでだよ。
そもそも口に出しては言わないけど、夏海のような性悪女があんなイケメンに告白されること自体、奇跡だろう。
先輩の前ではきっと猫被ってたんだろうな。夏海、見た目だけは良いから。
「そう。あんたは付き合ったほうがいいと、思うわけね」
「うん。でも一番大事なのは、夏海の気持ちだと思うよ」
「……えっ?」
「夏海は、先輩と付き合うべきだと思うのか?」
「そ、それが分からないから、相談してるんじゃん」
「じゃあ質問変えるけど、夏海は先輩のこと好きなのか?」
俺の言葉を受け、今度は夏海が「うーん」と腕を組んで考える素振りを見せる。
「箕輪先輩……尊敬できるし、かっこいいなあとは思う。でも恋愛対象として意識したことはなかった、かも……?」
「なるほど。じゃあ付き合うべきだな」
「なんでよっ!?」
夏海は大声で叫んで、立ち上がった。
そして俺が座っている席の机をバンと叩き、顔を近づけてくる。
「話聞いてたぁ!? 『恋愛対象として意識したことない』って言ってんのよ!?」
「いや、よく聞く話じゃん。最初はそうでもなくても、付き合い始めてから徐々に好きになってくパターン」
「そ、そうなるとは限らないじゃん!」
「でも、なるかもじゃん。ていうかあの完璧超人の告白を断るにしては、『今は好きじゃないから』って理由でも弱いって」
「あんた箕輪先輩の評価高すぎ!」
「この学校の生徒なら大体そうだろ……。おい、顔近いって」
夏海は「ふんっ」と鼻を鳴らし、また席に座った。なぜ真剣に相談に乗っているのに、怒られたのだろう。
納得いっていないような顔をしながら、夏海はまた口を開く。
「そもそも……好きでもないのに付き合うなんて、先輩に失礼じゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。失礼よ」
「そうかな。俺が先輩なら、嬉しいけどな……」
「……へっ?」
今度は呆けたような高い声を上げる夏海。俺は構わず続ける。
「だって、夏海と一旦は付き合えるんだぜ? そんで、好きになってもらうチャンスまで頂けるわけだろ? 羨ましい限りだよ」
「へ、へえ~……。あんたは、そう思うんだ?」
「うん。だからさ、先輩もきっと嬉しいと思うよ。付き合っちゃえよ」
「待ってって! さっきからあんた、すごい背中押してくるわね!?」
「先輩と付き合いなよ、夏海。俺の目には二人の、幸せな未来が見えるよ」
結論を決めるにふさわしいはずの俺の台詞に対して、なぜか夏海はいまだ、迷っているような表情を見せる。
「で、でもぉ……」
「……なあ、夏海。もしかして」
「な、なによ……?」
「お前、俺に気を遣ってんのか?」
「えっ! そ、それは」
「俺がお前を好きなこと、知ってるんだろう? そのことをお前は気にしてるんじゃないのか」
「……」
黙った。図星のようだった。
やはり。いつだかクラスメイトに夏海に対しての想いを聞かれて、正直に答えたら、いつの間にかクラス中に噂が広まっていた。
それが夏海の耳に入ってたとしても、おかしくはない。
「……うん。知ってた」
夏海はあっさりその事実を、認めた。
短編ですが、ぜひ最後まで読んで頂きたい作品になります。よろしくお願いします。




