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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくはちじゅうなな。

 


 じりじりと焼き付ける日差し。


 暑すぎて、思わず腕まくりをしてさらけ出された肌が。

 直接日差しを受け取り、刺されているような痛みへと変貌する。

 痛みは、暑さで朦朧としだす意識を引き起こすにはいいが、耐えられるかといえばそんなものでもない。

「……っ」

 ズキズキと突き刺さる棘に耐え兼ね、まくっていた袖を元に戻す。

 服を着ている方が暑いと思うのだけど、直接日に当たるよりましな気がしなくもない。

 それでもあまりにも暑くて、ずっとこの状態というのは出来ない。

 とりあえず、さっさと目的地にたどり着いて涼まないと倒れそうだ。

「……」

 じゃっかんぼやけている視界では、同じように暑さに耐えながらも歩いている人が数人。こんな時間に日にあたりながら出歩こうと言う人はそうそういないということだろう。予定の時間をずらしてもらえばよかった……が、それの方がめんどくさいのでなんとか耐えながら歩を進める。

「――!」

 歩行者に混じって勢いよく通り抜けていく自転車。

 風が起こって、一瞬涼しくなれるのは別にいいんだけど。

 この暑くて、朦朧とし始めている時にそれをされると。

 ―軽率にものすごい怒りが沸くのでやめて欲しい。

「……」

 自転車を漕いでいる側としては、信号やら何やらで止まると、そちらの方が暑くなるからごめんなのだろうけど。風を受けて走れるだけましだろうに。

 こちとら風もない中を、日に焼かれながら歩いているっていうのに。

 それとここは歩道であって自転車の走る道ではない……専用道路があるはずなんだが、なかっただろうかここには。

 背中に背負っているのは何だ。ギターケースか何かか。いやサイズ的にヴァイオリンとかその辺か。どうでもいいが、それが周囲の人間に当たりかねないと言うことを考えたうえでその走行そしているのか。

「……」

 ……落ち着け私。

 歩道にできた申し訳程度の日陰に入りながら、進んでいく。

 なんでこの時間に出ないといけない時間を指定してきたんだろうか……嫌がらせか?嫌がらせかな?嫌がらせだろうこれ。たとえここまでの暑さが想像できなかったとしても、毎年この時期のこの時間は暑さが問題になっているんだから考えるだろうて……。

 私ごときに配る配慮はないって……そういうことだろうけど。

「……」

 だから落ち着け……。

 しかし、暑い……あまりにも暑すぎる。

 袖をまくってみたが、日差しが痛すぎてまた戻す。

 上着ごと脱ぎたいが、それはそれで荷物が増えてめんどくさい。

 ちょっと……いったんどこかで涼むか?本格的にやばい予感がしてきた。

「……」

 念の為の水分は持ってきているが、飲み干してしまった。

 コンビニにでもよるか……あぁでも時間がギリギリだったりするんだよな。

 どこかに自販機でもあればいんだが……こういう時に限って目に付くところにないのは何なのだ……でもあっても売り切れとかになってそうだ。

 出来れば水がいいが、それは他の人もいっしょだろうし。

 こんな時にコーヒーとか口に入れたくない、気分悪くなるだけだ。スポーツ飲料はあまり得意ではないし、そのほかジュース類も好きではない。炭酸はそもそも飲めないので論外。せめて何か味付きの水とかでもいい。

 だからその前に自販機がないのだ。時間もないし。

「……ぅわ」

 ぼうっとする視界の中で、自販機を探し周囲を見渡した先で。

 思わずそんな声が漏れてしまうような人の姿があった。

 いや、知り合いとかではなく。全くの他人なので、本人に聞こえて居たら申し訳ない上に失礼極まりないのだけど。

「……」

 このじりじりと日が照りつける中で。

 真っ白な、科学者や医者が着るような白衣みたいなロングコートを身に着け、腕全体を覆い隠し、右手はポケットに突っ込まれている。左手では携帯をいじっているようで、誰かと待ち合わせでもしているんだろうか。

「……」

 これまた真っ白なぴたりとしたデザインのパンツで足をすべて包み、靴までも白く染めて、微妙に見え隠れする足首だけが妙に生々しく映る。

 頭の上には、つばの大き目な麦わら帽子みたいなデザインのおしゃれなやつ……あれはなんていうんだろうな。もっといい呼称があるはずなんだが……分からない。もちろんそれも白で揃えられている。シャツまでも白で統一され、反射板か何かかなという感じがしてしまう。

 実際眩しすぎてみて居られない。太陽の光を全方向に反射しているんじゃないか。

「……」

 真っ白なその人は暑そうにもせず。

 ただ携帯をいじりながら、涼し気な雰囲気でそこに立っている。

 他の歩行者も同じようなことを思っているのか、若干怪訝な表情をそちらに向けている。

 本人は気づいているのかいないのか、特に何をするでもなくただそこにいる。

「……」

 なんというか……この暑い中であんな格好をされると、暑そうだとしか思えない。

 おしゃれのためだろうか……おしゃれは我慢とか言うけど……それと健康は天秤にかけてはいけないやつじゃないのか。今日みたいに暑い日は我慢した方が負けだろうに。

「……」

「……」

「……」

 うわもう。

 暑すぎるむり。

 コンビニ寄ってから行こう。







 お題:ヴァイオリン・科学者・自転車

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