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0:黄昏葬送曲

この小説はいくつかの短編小説を一つの小説にしたものです。そのすべてがバッドエンド。悲恋、残酷描写含みます。魔王達もイストリアの本の世界観も倫理クラッシュしています。悪魔達は両性具有なので話毎に女になったり男になったり部分部分誰向け?ノベルゲー用の小説なので、分岐話は別に短編で投稿するかもしれません。

 挿絵(By みてみん)

「……そら、だ」


 青と白。綺麗な二色の……

 どうしてかな。ふしぎだ。

 空は手を伸ばしても届かない。それは知ってるよ。でもこれは何かがおかしい。あの綺麗な色はどんどん僕から遠ざかっていく。

 夕暮れだ。澄んだ青を浸食していく燃える炎。

 朝でもなく夜でもない、時の狭間の色。

 綺麗だな。どうしてこんなに美しいのに。

 僕は泣いている。泣いている。泣いている。

 ボロボロとこぼれる涙は頬には触れず、置き去りに……僕だけ先に落ちていく。身体が、背中が感じるのは風。寒気までしてきた。

 僕は落ちていく。届かなかった空はもっと遠くへ消えていく。空に掛かった白銀……片割れ半月が僕の落下を嘲笑う。三日月が二つ……いやもっとある。多くの衛星が僕を見ている。


 「あは……あはは」

 そうか、僕は……僕は………

 どうして世界はこんなに綺麗な色をしているのに、どうしてこんなに醜いんだろう。どうして僕はそれを愛せないんだろう。綺麗な物を見ると泣きたくなる。それがあまりに綺麗すぎて……醜い物が目立つんだ。

 それでも僕は泣いてはいけない。僕には泣く権利も無いとこの世界が言っていた。それは僕の泣き顔が醜い物だからだそうだ。僕は笑った。泣きながら笑った。馬鹿みたいに笑った。まるで道化だ。

 人に嗤われるために生きている。それが嘲りの嘲笑ではなく、幸せの笑いなのだと信じて僕は踊った。例え僕が幸せを感じられなくても、僕以外の誰か……多くの人がそれで楽しい時を過ごせるのなら。それが世界の幸せならばと僕はそれを受け入れた。笑い続けた、満面の笑みで……僕は泣いたのだ。

 道化は道化。誰も僕を笑わせてくれる人はいない。涙で薄汚れた僕の仮面は酷く歪んでいるだろう。ああ、醜いそれは僕の心。再び砕かれる。醜い物は存在してはいけないと世界は言った。

 だから僕は破棄される。もうすぐ僕は耳にするはず。風の音も、もうしない。

 僕は耳にした。砕けた硝子の終焉を。

 月が僕を嘲笑う。夕暮れが、赤に染まっていく。あんなに綺麗な赤なのに。燃えるような色なのに。僕は寒い。身体がね……血が凍っていくように冷たくなっていくんだ。

 もしも天地が逆さになるのなら……あの月共を空に落とすことが出来るのにね。悲しいなぁ……空はいつまで経っても空のまま。月はこの手に届かない。

 元々僕らは欠けている。けれど彼らはやがて完全に至る満月。僕は闇へと消える定めの朔月。

 僕は欠けていた。僕は言葉を持たなかった。自分を持たなかった。そして見失った。自分が誰か。心は何か。

 嬉しいって言うのはどういう時に感じるの?何時僕は笑うんだろう。どうして僕は泣くんだろう。心と頭が別の生き物になってしまったみたい。僕の顔みたいだ。ぐちゃぐちゃにひび割れて。

 割れた硝子は小石と土に混ざってしまい、境界を見失う。どこからどこまでが自分?そもそも……自分って何?僕は誰?

 わからないな。わからないよ。ああ、でも一つだけわかる。

(くだらない……)

 何もかもが下らない。どこからどこまでがじゃない。その全てがくだらない。こうなるまでそれに気付なかった僕も下らないよ。

 終わる夕暮れ。永遠の夜が僕を迎えに来る。何もかもが黒に染まれば僕と君の境界は完全に取り払われる。

 僕は僕じゃない。もう醜い僕じゃない。僕は無になる。その停滞は僕にとってきっと優しいものだろう。もう二度と下らないと思うこともなくなるんだね。

(それって……とても幸せなこと)

 「貴方はそれでいいの?」

 いいんだ。僕は僕が嫌いだ。僕がどこにもいなくなるのは素晴らしいことじゃないか。

 「それは貴方の心ではないわ。貴方はそう思うように周りに言いくるめられ、洗脳され続けた。そうしないと自分を守れなかった」

 そうかな?そうなのかな。そうだね、そんな気もしてきた。

 「私の領域まで逃げてきていれば……助けてあげることも出来たのに、貴方は強いのか弱いのかよくわからない。不思議な人間……」

 領域?僕は……君は誰?君は僕ではないの?

 「貴方はとても人間らしくない人間ね。観察対象にする価値もないくらい、珍しい人間」

 観察対象……価値もない。そうか。僕は本当にくだらないんだね。ふふふ、おかしいな。何だか今、僕は笑っているみたい。何も見えないけれど、そんな気がするんだ。

 「これは最上級の褒め言葉。私からすれば……」

 まるで君は人間じゃないみたいな言い方だ。でも僕も人間じゃないと言われてきた。それなら君は……僕と同じか。

 「ええ、そうよ。私も貴方と同じ……化け物よ」

 やっぱり。それじゃあ君は僕。そうじゃなくても同じ。同じ黒に僕らはいる。何も見えない。境界はない。僕はやっと僕から逃れられたんだ。

 「貴方は……変わっている。そして…………」

 そして……?何?そんな言い方されると、ちょっと気になるかも。

 「可哀想な人ね」

 可哀想?可哀想か。君は僕を哀れんでくれているのか。優しい人だね。でも……僕は何を持って君が僕を哀れむのかわからない。もう……何も思い出せない。何でだろう。少しずつ……ちょっと前まで思い出せたことも解らなくなってるみたいだ。

 「…………ねぇ貴方、私と契約するつもりはない?貴方は自分が誰だったか。どんな心を持っていたか……それを取り戻したくはない?」

 契約?何だろう、不思議な口ぶりだね。まるで君は……悪魔みたいだ。どこで読んだんだったか。聞いたんだったか。思い出せないけどそう言う存在の概念はまだ覚えてるみたい。

 「ええ、私は悪魔。分類するなら夢魔みたいなモノね」

 そっか。君は悪魔なんだ。……何だか変な感じだな。君とこうして話しているのはとても楽。不思議だなぁ……君が人じゃないから。僕も人じゃないから。だからかな。

 「やっぱり変わってるわ。悪魔を怖がるどころか、貴方……そんな風に笑うなんて。私を恐れない人間なんて初めてかも知れない」

 恐れるも何も、何にも見えないから。それに……君の声はとても綺麗。だから嫌な感じがしないんだ。

 「嫌な感じ?」

 何を言われたのかはわからない。でも声はまだ覚えてる。

 聞こえるんだ。感じるんだ。目は口程って言うけれど、僕は口の方が素直だと思う。声に乗る感情。聞こえない?

 この人は僕を嫌っている。それでも違う言葉を言う。顔は笑ってる。声も笑ってる。心もね……きっと笑ってる。楽しくて笑ってるんだ。

 でもそれは……やっぱり嘘なんだ。優しい声。胡散臭いくらいに。

 僕がどんな反応をするか、罠にかけるのが楽しい。それが面白い。だから嗤っている。

 おかしいよね。笑い合ってるのに僕らはお互い嘘を吐いている。その人は嗤って、僕は泣いているんだ心の中では。

 本当に僕を嫌っていてそれをそのまま言ってくれる人もいた。ああ、本当に嫌いなんだってわかった。そもそもそう言う人は僕に近づかない。だからそんなに嫌な感じはしないんだよ。

 それよりは嘘を吐かれる方が、ずっと嫌な感じがする。

 君の声はその嫌な感じがしない。何だろうな、遠くに居るみたい。でも近くにいてくれるような気もする。冷たいようで温かい。心地よいぬるま湯のよう。何時までも聞いていてもきっと不快に感じない。綺麗な音楽みたいだね。

 「貴方はもったいない人間だった。貴方には魔力があった。けれどそれを貴方は封じた。それを使っていればもっと違う終わりもあったでしょうに……貴方はシナリオに巻き込まれず、それを紡ぐこともできたのに」

 魔力?それはいったい何のこと?

 「……その前に少し良いかしら?私のこと、何も話してなかったわね。ここのことも」

 そう言えばそうだね。ここはとても真っ暗だけど。ここはどこなのかい?夜?

 「いいえ。ここは何処でもあり何処でもない場所……夢の世界。私が統べるは夢と現」

 ああ、そう言えば夢魔だって言っていたね。そうか、夢の中に君は生きているのか。

 「貴方の最後の夢が私の領域に繋がった。この眠りの森に」

 僕が君の敷地にお邪魔しちゃった……みたいなこと?

 「そういうこと」

 勝手に上がり込んでごめんね。僕が来たら迷惑でしょう?

 「……迷惑と言うことはないわ。私はこれまで多くの夢を見てきたけれど、それはどれも人間的だった。貴方の夢は悪魔的ね」

 悪魔的?あはは、何だか褒めてくれてるみたいな声。本当、変な感じ。君との会話は痛くない。

 「……同時に驚いた。同僚の誰かが最後の眠りについたのかと思ったくらい…………。貴方はもういない。それでも貴方はここにいる。それはとても珍しいこと。何百万年に一度あるか無いかの奇跡」

 よくわからないけど、そっか……僕はまだ黒にはなれないのか。

 「貴方は黒ではない。貴方が黒だというのなら、貴方の世界はそれよりもっと暗い色を見つける旅に出る必要が生まれてしまう」

 どういうこと?

 「白も黒も人間が決めた価値観。悪魔から見ればなんと愚かな境界か……人間なんてみんな灰色よ。限りなく黒に近い人間で溢れているけれど。そうね、貴方は白でも黒でもない色。貴方は無色、透明」

 透明?無色……?

 「貴方は一度貴方を捨てた。その時から貴方は何も持たざる者」

 「思い出したくない?貴方がどんな色をしていたか。貴方が貴方を取り戻し、その時何を感じるか。私ならその心のままに行動する権利を貴方に与えてあげられる。空の傲慢な月を落としたい。貴方は最後にそう思わなかった?」

 よくわからない。忘れてしまった。でも……そうだな。月はあんまり好きじゃない。綺麗だけど。見ているとやっぱり……悲しいな。何でだろう。

 どこかな。この辺りか。僕の胸。それがあった辺りが痛む。ああ……月。空に………僕を嗤って………見ている。僕を。

 「太陽は夜を生きられない。けれども月は朝も夜も昼も。何時でも我が物顔で空を統べる。気まぐれにふらりと現れて……星の命を殺してしまう。貴方はそんな哀れな星の一つ。貴方は本当は月にも負けない美しい物なのに、月が存在するせいで……貴方は何度も泣いてきた。私も同じ一つの星。私は貴方の双子星」

 君も、泣いたの?

 「ええ、何度も。貴方も同じ。あの月さえいなければ…………昔の貴方はそう思ったこともあったのよ?貴方は私によく似ている。だから私は貴方を助けたい。……そしてそんな貴方に助けて欲しい。貴方なら私を助けられる」

 僕なんかに出来ること、ある?だって僕もう……何にも思い出せないよ?

 それでも……僕が君を助けられたら、君は笑ってくれるかな。

 「ええ、きっと笑うわ。そして私は貴方を笑わせたい」

 笑わせたい?僕を?

 「貴方があまりに似ているから。貴方が泣いていると私も悲しかった」

 悲しかった?過去形だ。僕は君を知っているの?ああ違う。君は僕を……

 「知っているわ。何度か森の中で見かけたことはあったの。まさかこの夢があの子のものだったなんて思わなかったけれど」

 「でも貴方は現から逃げなかった。弱い人間わね、私の夢の領域に逃げてしまうの。彼らが捨てるのは現。でも貴方は違う。眠りに逃げることはしなかった。貴方が捨てたのは自分。それはとても簡単にできることではない。少なくとも、人間に出来ることではない。消極的な選択だけれど……貴方はその時人間を越えたのよ」

 「もしも……貴方が貴方の内にこの世界で出会えていたら、私はもっと違う風に笑わせられたんでしょうね……それでも一つだけ、貴方にとって幸いなことがある」

 「聞いたことくらいあるでしょう?悪魔との契約は人を不幸にする。けれど貴方は人ではない。停滞した貴方はこれ以上の不幸を得ることはおり出来ない、守られた存在。私の力を最大限に利用することが出来る」

 悪魔の契約……うん、知ってる気がする。魂を差し出す……んだったっけ?魂を売ると生き返れない……輪廻の輪から外れる?……それも悪くないな。僕はこの黒が心地よいから。

 「魂なんて私は要らない。私が欲しいのは……ほんの些細な幸せ。そのための手伝いをして欲しいだけ。それは貴方にしか出来ないと思うの。そして……この契約は貴方の不足を補うに値するものだと私は考える」

 僕に欠けているものがある……?ありまくりだろうね。だってこんなに僕は何も解らない。今はもう……名前も顔も思い出せないな。自分も……絶対忘れるものかと思ったような人たちも。

 「人が何のために生まれるか、知っている?」

 何だろう。死ぬためじゃない?結果論として。人はみんな死ぬ。それだけみればそのために作られるように思うよ。

 でもそれって非効率だよね。どうせ死ぬんなら最初から生まれなければいいのに。何もない。何もなくなるなら最初から何もなければいい。長い式より単純明快な式の方が分かり易くて良いと思うんだ。1-1+1-1+……=0よりは、0=0みたいな。

 「それは違うわ」

 それじゃあ笑うためかな。泣くためかな。笑わせるためかな。泣かせるためかも知れない。

 「……そういうことも確かにある。けれどそれには名前がある」

 名前?

 「それは恋」

 恋……?悪魔って意外とロマンチストなんだ。うん、可愛くて良いと思う。恋か……恋…………なんでだろうな。君がそう言った時は素晴らしい言葉のような気がしたのに、僕がそれを言ってみるとすごく嫌な感じ。気持ち悪い。何だか寒気までしてきた。

 「人は恋をするために生まれてくる。それが人の……いえ、全ての命ある者の幸せ」

 それなら……それをそう感じられない今の僕は、やっぱり人じゃなかったのかも。

 「そうね。傲慢ね。神か何か知らないけれど境界ばかりを引いて強いて……恋とはもっと自由なものなのに」

 恋は、自由?

 「貴方は貴方で在るが故、既に鎖に繋がれている。例えば性別、例えば血、例えば環境。それによって恋は大きく左右される。植え付けられた価値観。それにより人は大きく踊らされる」

 「例えば貴方は自分の血縁との恋、あるいは異性以外との恋をどう思う?そうね……種族違いもあるかもしれない」

 別に好きならそれでも良いと思うけれど。何でだろうな。嫌な感じの声が聞こえてくる。

 「そう。人は好きになっていけない相手を作りたがる。その境界を見ない者を差別する」

 どうしてそんなことを?別にその人がどう思おうとその人の勝手なような気がするよ。

 「そう、本当は何でも良いのよ。鳥も虫でも命なき物でも形なき者でも。恋は必ずしも肉欲を伴う必然性はないわ。好きなものが好きなだけ。それを偽らせる世界はおかしいのよ」

 ああ、それならなんとなくわかるかも。犬とか猫って可愛いし、蛇とかもよく見ると目の辺りなんか可愛いし、虫とかもちっちゃくて可愛いよね。色も綺麗だし。

 「そこまで褒められるのなら人間について何か一つ褒めてみせて?」

 …………………………なんでだろう、何も思いつかない。僕は人の良いところを忘れてしまったのか。

 「違うわ。最初から貴方はそんなもの感じていないのよ。貴方は恋を知らないのではない。知ろうとしなかった。貴方の世界で恋と呼ばれるものそれが酷く歪んで汚らわしいもので……とても嘘つきなことだと知っていたから」

 ……君に言われると不思議と説得力があるなぁ。否定の言葉も見つからない。そのままそんな気がしてくる。

 「けれど悲しいことに、貴方のそれは異端だった。異端は迫害される者。出る杭は打たれる、必ずね」

 同じじゃないから、傷付ける?

 「ええ」

 でもみんな同じになんてなれるはずないじゃないか。もしなれたとしても……それ、凄く嫌な感じ。嫌な自分ばかりがいるなんて、気持ちが悪いよ。同族嫌悪が止まらなくなると思う。

 「そう。人間はどんな振る舞いをしていても、自分を嫌う場所が一つや二つはある、だから誰もそんな同一なんか欲しくないの」

 それならどうして?

 「人は誰しも誰かを貶め傷付けたい残酷な生き物。だから常に探しているの。ルールで縛ってそれの粗探し。同じ振りをして、狩られないようにして狩りを愉しみたい。羊にはなりたくないけど狼にはなりたい。獲物を待ちかまえている獰猛な獣」

 羊と……狼。

 「貴方は羊。殺されるために生まれた、哀れな羊」

 恋をするために生まれてきたのに、結果として僕は殺されるために生まれてしまったことになった。そういうこと?

 「そう。貴方は覚えていないけれど、それを貴方は恨んでいる。だから貴方はここにいる。こんな真っ黒な夢の中に」

 恨んでる?僕が?この黒は僕……?僕はこんなに醜い者だったのか。

 「違うわ。夢は鏡。これは貴方の瞳に映る世界の色」

 汚い。醜いのは……僕の、世界?

 「貴方の世界。貴方を見る側の色。この黒は全て貴方に向けられた悪意の集合体」

 悪意……こんな一面の闇。それ以外の色が何もない。僕は、誰からも悪意以外の何かを与えられてこなかった……?

 居心地の良かったこの色が気持ち悪くなってきた。同化されるなんて……嫌だ。僕は……こんな色に塗り潰されたくない…………

 「言葉は文字は悪。それが貴方を道化に変えた悪しき呪い。それがなければ貴方はここにはいない。今の時間なら……そうね、もっと素敵な……幸せな夢の中を歩いていたでしょう」

 「貴方は夢も見ない。夢の中にも現が浸食し同じ悪夢を繰り返した。貴方は眠ることを放棄した。窶れていく貴方はもっと酷い言葉を浴びせられ……呪いは強さを増していった」

 「貴方は落とされたのに、それは事故として片づけられる。足下がふらついていた。あの様子じゃ……と誰もそれを疑わない。疑ったとしても環境が環境。弱い心が招いた自殺とでも噂される」

 「真実は誰も知らない。貴方はとても強い人。優しい人。その事実は黒く塗り潰されて……どんなに拭いても滲んだインクは消せないわ」

 僕は……黒になるの?こんな何も見えない所で一人でずっと…………止まり続ける?

 終わりじゃない。終わらない。この色は僕に思い出させる!嫌だ。思い出したくない。見るな!僕を見るな!見るな!

 「私の力は嘘を誠に、真実を偽りに……敗北を勝利へ変える。白と黒を入れ替える」

 黒と、白……?君は僕をこの黒から助けてくれるの?

 「貴方が黒になりなさい。貴方の瞳に映るモノを、私が白へ変えてあげる。それこそ世界の在るべき姿」

 僕が、黒に?

 「貴方の涙を微笑みに、貴方の不幸を私は幸福に変えることが出来る。さぁ……私の手を……」

 君の手……?ああ、これが君の手?綺麗な白。この手を取れば……僕はこの黒い夢から抜け出せる?

 君の声は温かいのに掴んだ手はどっちでもない。僕に手がないから?ここが夢の中だから?わからない。それでも君に手を伸ばしたら、世界が開けていく。黒が消えていく。

 一面の白。眩しくて僕は目を閉じてしまった。その刹那響く、破壊音。割れた硝子の砕ける音だ。その音に紛れて……君のとても綺麗な声。


 「はじめまして、私の名前は…………」

挿絵(By みてみん)

プロローグです。主人公いきなり死んでてすみません。


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