「栄光なるアイリン王国軍」~ジュン隊長語る~
む?
こらこら。民間人がこんなところに入ってきてはいかん。
ここは大本営。
関係者以外は立入禁止だ。
なにぃ?
木蘭の紹介だと?
ふぅ‥‥まったくあの人ときたら‥‥。
まあいい。そういうことならば士官クラブ(ガンルーム)にでも連れて行ってやる。
気にするな。
あの人の機嫌を損ねると、私の考課に響くからな。
ん?私か?
私はジュン・カコウ中尉。黒の軍所属ジュン小隊の隊長だ。
それで?
民間人が大本営に何の用なんだ?
ふむ‥‥軍について知りたい、か。
機密に属することもあるので詳しくは語れぬが、それでも良いか?
ルアフィル・デ・アイリン王国軍は、総数六八七五〇〇名だ。
すごい数だろう。
ちょっとした都市国家の人口よりずっと多いぞ。
もちろん、これが全部、王都アイリーンにいるわけではない。
この国では、全軍を役割によって五つに分けているのだ。
王都を守るのが、赤の軍六二五〇〇名。
遠征を目的とした、青の軍一二五〇〇〇名。
魔法戦力が主体の、白の軍六二五〇〇名。
補給や情報収集が任務の、黒の軍六二五〇〇名。
辺境守備を担当している、緑の軍三七五〇〇〇名。
こんな感じだな。
それぞれの軍の司令官は中将だ。
アイリン王国軍の最高位は元帥で、これは一人しかいない。
つまり国王マーツ陛下。
といっても、陛下自ら兵を率いるというのは、あまり現実的ではないから。
元帥というのは、名誉職みたいなものだと考えるのが妥当だ。
では、実質的な軍の最高位はだれかというと、
王国軍最高司令官ファイアス・トッド大将がそれだな。
つまり、大将が最高なわけだ。
この大将の位階もつものが二人。
いま言ったトッド大将と、王国軍最高顧問の花木蘭大将。
何を変な顔している?
もしかして木蘭の名前が出たので驚いているのか?
はははは。無理もないけどな。
ああ見えて、あの人は王国軍のナンバーツーさ。
なんで宿屋なんかやってるのかというと、
「わたしのやることに文句があるのか?」
だそうだ。
無茶苦茶だよなぁ。
なにしろ、無理を通して道理でる幕なしの人だから。
と、話が逸れたな。
軍の最小単位は分隊だ。
これは五〇人で構成されていて、指揮官は少尉。
分隊が五つで小隊。指揮官は中尉だな。
そう。私が指揮しているのも、この小隊だ。
小隊が五つで中隊。中隊が五つで大隊。大隊が五つで連隊。
連隊が幾つか集まって、軍と称するんだ。
黒の軍だと、二個連隊だな。
ん?
位階ってのが判らない?
まあ、馴染みのない言葉だからな。
軍においては、兵士と士官がある。
尉官、佐官、将官の三種類が士官だな。
具体的には大尉とか中佐とか少将とか、そんな感じだ。
もちろん士官は兵士に比べてずっと数が少ないぞ。
ざっと一三〇〇〇人。
七〇万に届こうかというアイリン軍の、わずか二パーセントだな。
ちなみに、士官というのは、全員、騎士位を持っているんだ。
というのも、騎士には二種類あってな。
正騎士と準騎士。
一般的に騎士といわれるのは、準騎士の方だ。
正騎士というのは爵位を持たない貴族で、家名は世襲で相続される。
準騎士の方は、武勲や功績によって叙勲を受ける一代限りのものだな。
軍でいうと、士官に出世すれば、自動的に準騎士として叙勲されるんだ。
だから私も騎士だな。じつは。
ちなみに木蘭の場合は、将官なんで爵位と領地をもらっている。
領地に引っ込んでいてくれれば、王都アイリーンも平和なのにな‥‥。
と、いまのは忘れてくれ。
木蘭に聞かれたら、それこそ私は命がない。
だいたい軍についてはこんなところだが。
ん?
PWとはなにかって?
珍しいことを知っているな。
パーソナルウォーリアーの略なんだ。
ちゃんと説明すると難しいのだが、軍というのは組織だ。
当然、命令系統はきっちりしている。
だがなぁ、どうしても組織的な行動は苦手っていう人間もいるんだ。
具体的には、個人戦の勇者とか傭兵とか、そのへんだな。
そういう連中に部下を持たせても意味がないんだよ。
というより、むしろ有害だ。
個人戦の勇者が隊を率いると、部下の限界を無視して戦いを続け、
かえって自軍の損害を増やしてしまうからな。
だから、そういう連中には隊をもたせない。
それがPWという考え方だ。
出世はすべて個人的な武勲によるな。
ただし、大尉までしか出世はできないぞ。
さすがに佐官や将官ということになると、相当な管理能力が必要とされるからな。
しかし、それにしてもそこまで知りたがるということは、入隊希望か?
それとも、バール帝国あたりのスパイだったりしてな。
あははは。冗談だ。
そう怒った顔をするな。
ともあれ。
我が軍は人手不足だからな。
入隊するなら歓迎するぞ。
どうだ?