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「暁の女神亭」の世界  作者: 水上雪乃
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「列王たちの横顔」~キースの日記より

 俺が王都アイリーンに腰を落ち着けて三ヶ月。

 ようやく定職を得て心機一転。

 これから新しい生活が始まるのだ。

 だからというわけでもないが、少しこの国のことを復習しよう。


 ルアフィル・デ・アイリン王国は、中央大陸のほぼ真ん中に位置し、東海に面した国だ。

 西側にはドイル王国。南にはセムリナ公国。

 北西には同盟国たるルーン王国。北側には歴史的な敵国であるバール帝国。

 そして、東海を挟んで東方大陸のフレグ帝国。

 と、これがアイリン王国の周辺国家群だ。

 この五カ国が、アイリン王国にとって外交ないし戦争の相手となる。



 ちなみに俺の故郷は西方大陸。

 つまり、中央大陸から西海を挟んで西側の大陸にあるフィリアという国だ。

 あまり派手な国でもないので知らなくても無理はないが、けっこう伝統がある。

 建国はアイリン王国より古いほどだ。


 ただ、それだけに伝統だの格式だのを重んじる傾向が強い。

 はっきり言って俺が故郷を捨てた理由は、閉鎖的で偏狭な地方都市と、厳格で口やかましい両親の桎梏から逃れたかったからだ。

 もちろん、「花の都アイリーン」への憧れもあった。

 世界の文化・経済の中心である中央大陸。

 さらにその中心のアイリン王国の王都アイリーン。

 男に生まれたからには、そこに行って一旗あげたいと思うのは当然だろ?

 と、俺の履歴書はともかく、周辺国家の話だったな。



 まずはこの国、ルアフィル・デ・アイリン王国だ。

 えらく長い名前なので、たいていアイリン王国って呼ばれるな。

 アイリーンだと都市名になるから、注意が必要だ。

 俺もきたばかりの頃はよく間違えたもんだよ。

 で、これは神さまの名前だったりもするんだよな。

「至高神アイリーン」

 このアイリーンを信奉する宗教が、アイリン王国の国教ってわけだ。

 アイリーン教。そのまんまだな。

 似たような名前がぞろぞろ並ぶから、紛らわしいことこの上ない。

 いまさら文句いってもはじまらないけど。

 支配領域は、中央大陸の約三分の一。

 一口に大国といっても結構すごいな。


 主な都市は、王都アイリーン。フォアロックヒルズ市。マルゴー市。

 アビゴールシティ。ドゥリック市。こんなところだな。

 どれも人口五〇万を超える大都市だ。

 ところで、アイリン王国を治める国王はマーツ二世っていう。

 かなりの名君らしいぞ。

 年齢はたしか三六歳だから、王様としてはかなり若いよな。

 ついでにまだ独身だ。

 どうも思い人がいるらしくて、数々の縁談にも見向きもしないって噂だな。

 しかもその片想いの相手ってのが、俺の知っている人らしくてな。

 ホラとしてもできすぎた話さ。



 アイリンの次に名前を出すとしたら、やっぱりバール帝国だろうな。

 正式にはガズリスト朝バール帝国って言うんだけどな。

 ようするに、皇帝がガズリスト一族って家の出身だからなんだと。

 信奉する神さまは、野心の神バール。

 なにかっちゃアイリン王国に突っかかってくるのは、やっぱり野心ゆえなのかねぇ。

 バール帝国の支配領域は、中央大陸の三分の一。アイリン王国とほとんど同じだな。

 でも北の端だから、生産力はたいしたことはないらしい。


 皇帝の名前はミシエル・ガズリスト二世。四三歳。

 助平で有名だな。

 なんでも、一晩に何人もの寵姫を抱くそうだ。

 んで、疲れちゃってゼーハーいってるって。

 どうしてそんなに苦労してまでって思うんだけど、

 俺と同じ感想をもった廷臣もいて、それを訊ねたらしい。

 答えは、

「皇帝になるなど予にとっては造作もないこと。だが、一晩に何人もの美女を抱く機会などそう滅多にあるものではないからな」

 だそうだ。

 なんだかなぁ。



 バール帝国の西、アイリン王国の北西には、ルーン王国ってのがある。

 ここの国教は知識の神ルーンだな。

 基本的には、信奉する神の名が国名になるんだよ。

 ルーン王国の支配域は、たいして広くない。アイリン王国の半分もないだろうな。

 木蘭の言葉を借りれば、

「学はあっても金がない」

 ってところだろう。

 でもまあ、貧乏だけど学問は盛んで、識字率は中央大陸随一だな。

 八九パーセントっていうから驚きさ。

 アイリン王国でも五〇パーセントいくかどうかなのにな。


 ここの元首は女王で、エカチェリーナ一世。

 愛称はカチューシャ。

 まだ一七歳だって。

 すごく優しい人らしくてな。

 狩りに行ったとき、廷臣が子を孕んだウサギを射たのを見て、

「なんと残酷なことをするのだ」

 って怒って、その廷臣を罰して、ついにはウサギの猟を禁止してしまったんだそうだ。

 優しいのは良いけど、猟師は困るだろうなぁ。



 ルーン王国の南、アイリン王国の西にあるのが、ドイル王国。

 豊饒の神ドイルを信奉する国で、農業生産力がものすごく高い。

 アイリン王国が不作だったときに、この国から大量に小麦を輸入したりしたんだ。

 支配領域は、ルーンより広くアイリンより狭い。


 国王はファイルートって人だな。

 七二歳というから、中央大陸の列王のなかでは一番年寄りだ。

 なんでも、半世紀ほど前に生贄制度をやめさせるために

 立ちあがった人で、元は平民だったらしい。

 立派な人物だけど、真面目で几帳面で散文的で、

 ま、あんまり面白い人ではないみたいだ。



 ドイル王国の南。アイリン王国からも南。

 ここにあるのがセムリナ公国。

 戦の神セムリナを信奉してるんだけど、けっこう平和主義な国だな。

 支配域はドイルと同じくらい。


 公王リストグラって人が治めてるんだけど、

 この人はとりたてて名君でもなく暴君でもない普通の人みたいだな。

 まあ、国民にとってはそれが一番かもね。

 公王の為人のせいか、セムリナ公国ってのはホントに特筆することもないない国だな。

 せいぜい海運が盛んだってことくらいかな。



 最後はフレグ帝国。

 これは中央大陸ではなく、東方大陸にある帝国だな。

 二つの大陸の間にある海を東海っていうんだ。

 たぶん予想がつくだろうけど、北方大陸と中央大陸を隔ててるのは北海。

 南方大陸と中央大陸の間に横たわってるのが南海。西方大陸と中央大陸の間には西海。

 なんというか、安直だな。

 んで、フレグ帝国は、海と商売の神フレグを信仰してる。

 東方大陸最強の国らしいな。

 もっとも、海を隔てた異国だからなぁ。

 入ってくる噂だって、どこまで信用できるか。

 けっこう荒唐無稽な話が多いんだよ。


 たとえば皇帝はセオドアって名前なんだけど、

 じつはこの人は二七歳のときに病死してて、弟が影武者を務めてる、とかな。

 というのも、皇帝セオドアは他人の前では絶対に仮面を外さないんだそうだ。

 病気になるまでは美男子で有名だったらしいんだけどね。

 まあ、順当に考えれば病気したときの後遺症で顔が変わった、てとこだろうけどな。



 だいたいはこんな感じか。

 どの国も多かれ少なかれ弱点があるな。

 当然なんだけどさ。

 天国とか楽園じゃないんだから。

 でも、アイリン、ドイル、ルーンの三カ国は奴隷制度を廃止して、議会をつくり、立憲君主制とかいうのに移行しつつあるだろ。

 時代は少しずつでも良い方向に向かってるのかなぁ。

 難しくてよく判らないや。


 さてと、明日もはやいんだから、そろそろ寝るとするかな。

 おやすみ。

 せめて夢のなかでは平和を‥‥。

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