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「暁の女神亭」の世界  作者: 水上雪乃
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新アイリーンの歩き方6 魔族と魔法

 魔族とはなにか。


 狭義にはザッガリアの眷属や、それらによって異世界より召喚されたものたちのことを指す。


 広義ではモンスターとほぼ同義語であるが、こちらの種別は意味を持たない。


 魔族の魔族たる所以とは、その存在がきわめて精神世界に近く、肉体的または物理法則的な束縛から自由だという点だろう。


 したがって、血肉を持つモンスターや、特殊能力を持たず何らかの偶然によってエオスに迷い込んだだけの異世界人などまで魔族と一括りするのは乱暴きわまりない。


 純粋な魔族に、人間が対抗することは難しい。


 というのも、存在がアストラル的であるため、物理的な攻撃手段では有効性に欠けるからだ。自然、魔法やマジックアイテム等の魔力的な攻撃に依るしかないわけだが、それも万能ではない。


 魔族に対して有効な魔法は、あるていど限定される。


 コモンマジックや下級の精霊魔法は、ほとんど効果が認められていない。


 神聖魔法には効果が期待できる。


 主神六柱の力が、魔王ザッガリアとその眷属にとって致命的な毒となるからである。


 これは、最初の聖戦と呼ばれる神々の戦いにおいて、主神六柱にザッガリアが敗北したことに起因する。


 ザッガリアはかつて神であった。


 雷神ザカルという。


 至高神アイリーン、智神ルーン、野心の神バール、豊饒神ドイル、海神フレグ、戦女神セムリナの主神六柱。風神アイルを加えた七柱の神々と同列だったのである。


 ザッガリア、またはザッガーリアとは、ルーンの言葉で、否定すべきザカルというほどの意味になる。


 アイリーンの神具、七宝聖剣。その柄にあしらわれた七つの宝玉。じつは八つ目の宝玉が収まるべき窪みがあることが、この事実を婉曲的に証明している。


 むろん、どの教団の教典にも、ザッガリアが神であったという記述はない。


 魔族と呼ばれるもののほとんどはアストラル的な存在であり、神聖魔法以外でダメージを与えることは難しい。


 だが、血肉を持った場合においてはその限りではない。


 モルロやボグルールなどはザッガリアの眷属として有名だが、彼らに対してはコモンマジックも精霊魔法も、それどころか物理攻撃ですら有効である。


 同様に、純然たる魔族でも実体化してしまえば、物理法則から自由ではいられない。そのあたりに人間の勝機が生まれるわけだが、それはけっして大きな確率ではないことを明記しなくてはならないだろう。


 魔族、魔王の眷属、どういっても良いのだが、人間が、少なくとも単独で相手をするまは難しい相手である。


 ただ、いくつかの魔導技術や科学技術が、魔族たちによってもたらされたという事実も厳として存在する。


 つまり、魔族が世界に混乱をもたらすか繁栄をもたらすかは、受け取る側にも左右されるということだ。




 魔族に対する最も有効な手段。


 それは前述の通り魔法である。


 魔法とは大別して四種類。コモンマジック、神聖魔法、精霊魔法、精神魔術だ。


 このうち精神魔術に関しては記述することはあまり存在しない。というのも、精神魔術とは修行や術式理解によって身に付くものではないからである。現状で確認されている精神魔術は精神感応、念動力、瞬間移動の三つだが、これらは何の法則性もなく発動する。ようするに不条理の力なのである。


 たとえば瞬間移動とは、コモンマジックの一種である物理魔法の「跳躍」に酷似しているが、後者が多次元世界論を応用し、三次元から二次元を経由することによって瞬間的な移動を可能にしているのに対して、前者に理論的な説明はつかない。


 生まれつき持った特異な能力、と称するのが最も近いだろう。


 ゆえに、精神魔術を行使できる者は、極端な差別に晒される。


 モンスターや魔族、デーモンサイドなどと同様に扱われることが多い。


 これは、賢者などと尊称される魔法使いたちとは、明らかなる差異である。


 したがって、スペルユーザーと言った場合には、プリースト、シャーマン、マジシャンを指し、精神魔法使い……エスパーは含まれない。


 マジシャンが行使するのは主にコモンマジック。


 コモンとは、一般的な、というほどの意味になる。一般魔法という言い方にすれば、やや語弊があろうか。


 精霊の力を借りず、神の奇跡にもすがらず、術式の構成によって一時的に新たな法則を世界に展開するのがコモンマジックなのである。


 つまりコモンマジックとは学問であり、理解と応用こそがその神髄といえる。


 これに対して精霊魔法は精霊との契約による力の借款であり、神聖魔法とは神々の力を借りた奇跡の代行である。


 どちらも自らの力ではないが、使う者の器によって行使できる力量も異なる。


 一般論として、器は年齢とともに成長するため、あまりに幼少なスペルユーザーというものは存在しない。


 また、スペルユーザー自体が稀少であることも、ひとつ事実である。


 本来、魔法を行使することは、どんな人間にも可能であるのだが、当然そのための下地が必要だからだ。ほとんどの者は下地作りの機会には恵まれない。


 魔法使いであれば幼少のころから教育を受ける必要があるが、それには莫大な費用と長い年月が不可欠だ。ごく普通の家庭ではあがなえないほどの。


 神聖魔法にしても精霊魔法にしても、片手間に習得できるというものではないのである。


 中央大陸の人口におけるスペルユーザーの含有率は、五万人に一人ほどと言われている。むろん各分野に分けるともっと少なくなるだろう。


 したがって、魔法を習得できる機会を与えられた者は、その幸運に深く感謝する必要がある。




~ルーン王国魔法学院初等科の教科書より抜粋~

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