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「暁の女神亭」の世界  作者: 水上雪乃
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新アイリーンの歩き方5 宗教の影響力

 かつて戦争がありました。


 神々と魔王の間に。


 主神六柱と戦った魔王ザッガリアはプリンシバル平原の地中深くに封じられ、世界に光が満ちました。


 ですが、壮絶な戦いによって神々もまた肉体をなくしてしまいました。


 世界は人の時代へと移り変わっていったのです。


 それから何千年もの時が流れました。


 人は相変わらず愚かで、戦いを繰り返し、互いに傷つけ合っています。


 神々は、それに干渉しません。


 人間同士が殺し合い、たとえ最後の一人が地に倒れたとしても、神は見つめるだけです。


 ひどいと思われますか?


 でも、人が歴史を作るというのは、そういうことなのです。


 危機に陥るたびに神の力が働いて、人間たちを正しい方向へ導くとしたら、それは人間の歴史ではありません。


 神々の歴史でしかないのです。


 どんなに酷い状態になっても、人間は人間の手で危機を乗り越えなくてはなりません。


 試行錯誤を繰り返しながら。




 このような考え方から、教会はけっして政治に口を出しません。


 至高神アイリーン、智神ルーン、戦女神セムリナ、豊饒神ドイル、野心の神バール。どの教会もです。


 神の名において救恤活動はおこないますが、求められない限り善意を押しつけることもありません。


 もちろん、信仰を強制したりもしません。


 たとえばルーン王国においては、主に信仰さているのはルーンです。ルーン教の大聖堂も王国内に存在します。


 ですが、アイリーン教徒やセムリナ教徒も普通に生活しておりますし、それによって差別されることもありません。


 信仰はそれぞれの心の中にこそあるからです。


「神にすがるのは為すべきことを全て為した後の話。ぎりぎりまで知恵を絞り、ぎりぎりまで努力して、それでも駄目な時には神頼みも悪くないだろう。しかし、何の努力もしていないものに頼られては、ルーンだって迷惑だ」


 ルーンの前王であるレイオルの言葉です。


 後継者争いで晩節を汚した彼ですが、この言葉は広くルーンに伝わり、賢王と称えられるようになりました。


 中央五大国は、神託によって国を運営したりはしません。


 つまり、間違うにしても自分の責任で間違うということです。


 これはどのようなことにも言えると思います。


 親の決めた通りの人生を歩み、それで失敗したら、その人は責任を親になすりつけるでしょう。


 でも自分で決めた人生ならどうでしょうか?


 だれの責任にもできませんよね。


 神々の教えとは、簡単にいうとそのようなものです。


 無責任、という人もいるかもしれませんね。


 たしかに勝手に産み落とされた命です。生きる意味も価値も、自分の手で見つけなくてはなりません。


 自分で考え、自分で決め、自分で責任を取る。


 神は教えてくれないのです。




 かといって、神は絶対に手をさしのべてくれないか、というと、そんなこともないのです。


 魔王が復活したとき、神々の代理人たる聖騎士が現れました。


 また、私たち神官は世界のあらゆる場所に神の息吹を感じることができます。


 それを皆さんにお伝えすることもあるでしょう。


 ただ、私たちが受けた神託を、たとえば女王エカチェリーナに伝えるか、あるいは陛下がそれを受け入れるか、別の問題です。


 決めるのは、つねに自分自身なのですから。


 ですから、考えることを放棄してはいけません。


 知ることをやめてはいけません。


 自分を成長させること。


 それが、神々からこの大地を託された私たちにできる最大のことなのです。




~とあるルーン教会の日曜学校での説法より抜粋~

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