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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第三章 検査? 入院?
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廊下にて

 各種検査をするための検査室は、入口のロビーからは奥まったところにあった。

 当然、人の気配は徐々に少なくなっていく。

 コンクリートの冷たい雰囲気のする廊下は、通る人間が少ないせいか、一本の蛍光灯で照らされているだけだった。

 結果、廊下は黒やそれに近い色で覆われていて、独特の雰囲気を醸し出している。

 しかも、回収されていてコンクリート製になっているはずの廊下には、何故か木製の豪華な造りの扉が設置されていて、黒い板に白地で『標本室』などと書かれていた。

 学校の理科標本でも不気味なのに、病院に置かれてそうな標本となると対象は限定されてしまう。

 考えている鬱に、背中が寒くなって来て、引き返したい気持が溢れてきたのだけど、私には許されない選択だった。

 なぜなら、私は今車椅子に乗せられているのである。

 移動の全権を握るのは、車椅子を押してくれている津田さんが握っているのだ。

 そして、車椅子の仕組み上、津田さんは私の後ろというのが当然の立ち位置となる。

 お姉ちゃんはその後ろに付いてきているので、自動的に先頭は私になってしまうのだ。

 更にありがたくも残念なことに、私を気遣ってくれている津田さんの押し方はとても丁寧で、当然ながらそのスピードもゆっくりである。

 何かしら声を掛けてくれていたら、もう少し余裕があったかもしれないのに、津田さんもお姉ちゃんも何故か話しかけてくれない状態が続いていた。

 別に、怖いわけではないけど、何もない状態が続くのは退屈……そう退屈で仕方ない。

「凛花ちゃん」

「ひゃっ!」

 急に声を掛けられたせいで、私は車椅子の上で立ち上がりかけてバランスを崩した。

「あー、だ、大丈夫!?」

 素早い動きで車椅子を回り込んで津田さんが支えてくれる。

 お陰で、私は何事もなく車椅子に戻ることが出来た。


「あ、あの、ごめんなさい」

 意図したことでは無いとはいえ、車椅子で急に立ち上がったら危ないのは間違いないので、助けて貰った津田さんには感謝と申し訳なさがあった。

 でも、津田さんは「いや、私も急に声を掛けてしまったから、ビックリさせてしまってごめんなさい」と逆に謝ってくれる。

「正直、ここら辺不気味だもんね」

 苦笑しながら言う津田さんに、私は「それは……」と言葉に詰まってしまった。

 その通りだとは思うけど、働いている津田さんに向かって、ストレートに肯定するのは良くないというか、失礼じゃないかと思ってしまったのである。

 そんな私に変わって、お姉ちゃんが「確かにちょっと怖いわね」と言ってくれた。

 お姉ちゃんがそう言ってくれたことで、私も「ちょっと……ね」と同意する。

 その後、私たちの間に訪れた微妙な間が、耐えがたかったので、無理矢理話題を変えることにした。

「あの、私、重くなかった……というか、津田さん怪我してませんか?」

 私の問い掛けに津田さんは「え? もの凄く軽かったわよ」と目を瞬かせる。

「むしろ、天使かと思ったわ」

 真顔で言う津田さんに、私は目が点になった。

 ところがここで、お姉ちゃんが「そうですよね、私も時々うちの妹は、天使じゃないかと思います」と言い出す。

 この流れは、私が恥ずかしさで身悶える展開だと察したのだけど、じゃあどうすれば止まるか、その方法がまるで思い浮かばなかった。


「あ、あの、さっき、津田さんは、何で話しかけたんですか!?」

 お姉ちゃんと津田さんの間で展開された私を天使呼ばわりする謎の討論に、耐えきれなくなった私は、大声で割り込んだ。

 お姉ちゃんと津田さんは私の声に、少し驚いた様子を見せて会話を止める。

 その上で何故か微笑みあった。

 なんとも含みがありそうな二人のやりとりに、自分の表情が引きつっていくのを感じる。

 それを未達打算の表情が苦笑に変わった。

 表情の変化は感じ取れても、その心情の変化までは想像が付かないので、私は瞬きを繰り返しながらその反応を待つ。

「凛花ちゃんは天使だと思うわよ。この白衣の天使って言われる津田さんが言うんだから間違いないわ!」

 想定もしなかった発言に目が点になった。

 こんな突飛もない話の飛躍、想像つくわけがなかったと思っていると、津田さんはニッと笑ってみせる。

 その後で申し訳なさそうな顔で「検査には少し時間がかかるから、お手洗いとか大丈夫か聞こうと思ったの、変なタイミングで声を掛けてごめんね」と続けた。

 津田さんは、私の前方をスッと指さして「ここにお手洗いがあるから」と言う。

 廊下には金属製の棚が置かれていたので、見えずらかったが、確かに『御手洗い』と書かれた看板が出ていた。

 ユニバーサルデザインの青や赤の人型のパネルでないことに時代を感じる。

 私がどうするか考えていると、お姉ちゃんが「学校から行ってないし、検査の途中にはいけないだろうから、念のために言ってきた方が良いんじゃないかしら」と言ってくれた。

 お姉ちゃんが背中を押してくれたのもあって「そうだね」と頷く。

「じゃあ、寄っていきましょう」

 津田さんに言われて、車椅子が御手洗いの前に辿り着くと、そこには廊下よりも更に薄暗いタイル張りの雰囲気のある個室の並ぶ光景が広がっていた。

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