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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第三章 検査? 入院?
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搬送

 お母さんに状況を伝えに行ってくれたユミリンは間に合わず、私はお姉ちゃんと救急車で病院へ向かうことになった。

 連絡役として、千夏ちゃんがユミリンを待ってくれることになっている。

 この昭和の時代は、スマホどころか携帯電話のたぐりが未だ普及していないため、こうして連携しないと情報が伝わらないのだ。

 結果的に、救急隊員を含め、多くの方に迷惑を掛けることになってしまうけど、皆に大丈夫だと安心して貰うためにも一回は必要だと、リンリン様との脳内会議で結論づけたので、流れに身を任せることにする。

 救急車にストレッチャーで運び込まれた私は、意識がしっかりしていることもあって、直接、救急隊員の肩から質問を受けることになった。

「えっと、お名前、言えますか?」

 頭を動かすと、お姉ちゃんが顔を青くするので、なるべく頷いたりせずに「はい。林田凛花です」と答えてから、リンリン様のサポートを受けて、学生証に記載されていた住所や生年月日を伝えていく。

 質問を受けているうちに、脇の下で体温計がアラームを鳴らした。

 流石に機械式の体温計は実装されているらしいけど、血圧計の方は未だ小型化をしていないようで、二の腕にベルトを巻かれて、手動で計測をされる。

 僅か参拾年少しの違いしか無いのに、使われている機材の違いで、改めて時代の違いを感じることになった。


「状況は説明できますか?」

 救急隊員さんにそう聞かれたので、昨日から何度か保健室にお世話になっていたこと、今日、クリニックで診察して貰ったこと、血液検査をして結果待ちであること、脳に何かがあるかも知れないので、剣道部での活動を禁じられたこと、そして、急に足に力が入らなくて倒れてしまったのを目撃したお姉ちゃんと友達が救急車を呼んだことを伝えた。

 所々お姉ちゃんも情報をフォローしてくれたので、スムーズに伝えることに成功し、話は搬送先の話に移る。

 通院歴のある病院が受け入れてくれるだろうということで、これまでの病歴と合わせて主治医の有無を聞かれたのだけど、流石にここで詰まってしまった。

 リンリン様がいるので情報収集は私一人の時よりも遙かに精度が高く早いが、私の来歴となると、そう簡単に割り出せるものではない。

 個人情報だというのもあるけど、この時代では未だデータのデジタル化が進んでいないのだ。

 元の世界から過去のデータを引っ張ってくる裏技も無くは無いらしいのだけど、今、リンリン様は時間の経過が早いこの世界に軸足を置いてしまっているために、オリジンとのリンクが切れてしまっている。

 加えて、本来の歴史には私という存在はないので、後に電子化されたカルテデータをあさっても、私の来歴が出てくる可能性はほぼゼロなのだ。

 そんな私とリンリン様では対処可能な質問に対して、同乗してくれているお姉ちゃんが助け船を出してくれる。

「妹は昔から身体の弱い方でしたけど、入院経験はありません」

 お姉ちゃんの言葉に頷きながら、救急隊員はメモを取り始めた。

「じゃあ、妹さんは大きな病院にかかったことはありますか?」

「いえ。妹が通院したことがあるのは、小森医院さんだけです」

「わかりました、まずは一番近い病院さんに受け入れ可能か聞いてみます」

「よろしくお願いします」

 そう言って救急隊員さんに頭を下げたお姉ちゃんが顔を上げながら私を見る。

 救急隊陰惨が電話を始めたので、邪魔をしないために、口パクしているように見えるほど小さな声で「だいじょうぶだよ」と言って私の手を握ってくれた。

 その手は大きくて頼もしかったけど、僅かに震えている。

 私に何かあったらと言う不安の表れなんだろうと思うと、申し訳ない気持で一杯になった。

 せめてお姉ちゃんの不安が消える増すようにと願いを込めて、握ってくれている手に力を込めて握り返す。

 それがどう伝わったかはわからないけど、お姉ちゃんも手を握り返してくれた。

[newpage]

「受け入れ先が決まったので、今から向かいますね」

 救急隊員さんの言葉に、私とお姉ちゃんはほぼ同時に返事をした。

「はい」

「わかりました。お願いします」

 一言の私と違って、とても丁寧な受け答えに、本来はくぁずっとずっと大人な精神をしているはずの私は、なんだかとても情けない気持になる。

 とはいえ、変に表情を暗くすると、心配を掛けてしまうので、私は恥ずかしさを噛みしめながら、平静を装った。

 その間に、私たちに付いてくれていた救急隊員さんが、救急車側面のベンチに腰を下ろし、それを切っ掛けに車両自体が動き出す。

 救急車両であることを伝えるサイレンが鳴り始めたタイミングで、ベンチの隊員さんは、私とお姉ちゃんに中学校のことや日常のことを質問し始めた。

 私はお姉ちゃんに手伝って貰いながら、問い掛けに対応していく。

 かなり個人情報に踏み込んだ質問もあったので、現代ではアウトかもしれないなとは感じたけど、恐らくサイレンの音で不安にさせないための配慮なんだろうと思うので、嫌悪感の類いはなかった。

 そして、救急隊員さんが話しかけてくれていたお陰で、病院までの道のりはあっという間に過ぎる。

 まあ、救急搬送だったというのもあるかもしれないけど、本当にあっという間だった。

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