懐かしき情熱
千夏ちゃんが真新しい5階はありそうなマンションの前で足を止めると「ここです」と言った。
私たちが言われてそれぞれマンションを見上げる。
「でっかい団地よね」
お姉ちゃんの呟きに、千夏ちゃんが「一応、マンションです」と苦笑した。
「え? なんか違うの?」
お姉ちゃんの反応に対して、千夏ちゃんは困った顔になる。
「えーと、ですね……」
千夏ちゃんが答えに困るのは初めて見たので、ちょっと驚いたけど、一応フォローできソナ知識はあるので言ってみることにした。
「あの、お姉ちゃん。千夏ちゃん。実は団地とマンションって、同じカテゴリーのものじゃないんだよ」
私がそう言うと、ユミリンが「何を言ってるの。リンリン?」ともの凄い心配そうな目でこちらを見てくる。
気遣ってくれているのはわかるし、ありがたいなって思うけど、その心配する目はちょっと違うんじゃないかなと思わなくはなかったが、私の説明を聞けば理解してくれるだろうと考えて、ツッコミは入れないことにした。
「えっとね」
そこまで口にしてから、お姉ちゃん、千夏ちゃん、ユミリンの目が私の方を向いているのを確認してから、一応「……説明して良いかな?」と聞いてみる。
「お願い、凛花」
「うん。気になる」
「ちゃんと、説明できる?」
若干一名、引っかかることを言っている気がするけど、私は皆が同意してくれたことにして説明することにした。
「まず、だけど、マンションとアパートって聞いたことある?」
私がそう聞くとユミリンが大きく頷きながら「あるある。区別は出来ないけど」と返してくる。
続いて、お姉ちゃんや千夏ちゃんも頷いてくれたので、説明を続けることにした。
「簡単に言うと、2階建てまでの集団住宅がアパートで、3階以上の集団住宅がマンションなんだよ」
私がそう答えると、お姉ちゃんが後ろの千夏ちゃんのマンションを振り返りながら「なるほどねー」と頷く。
一方、千夏ちゃんは「それじゃ、団地って?」と聞いてきた。
「えっと、実は団地って定義が無いんだよ」
私がそう返すと、ユミリンが「うぇっ定義とか数学?」と思いっきり嫌そうな顔をする。
「す、数学は関係なくてね……まあ、要するに、団地はこういうものですよっていう決まりが無いの」
苦笑しながらそう返すと、千夏ちゃんが「そうなの?」と困惑した表情を見せた。
お姉ちゃんもなんだか納得していない表情なので、もうちょっと説明をしてみることにする。
「えっと、団地って、元々が、一塊、つまり一団の土地って言葉から来てるらしいんだけど、住居の場合は住宅団地っていう言い方するのね」
私がそう言うと、千夏ちゃんが「なんか聞いたことあるね、住宅団地」と呟いたところで、お姉ちゃんが「あっ」と声を上げた。
「ど、どうしたの、お姉ちゃん?」
急な声にドキドキしながら尋ねると、お姉ちゃんはちょっと恥ずかしそうに「今、ふと、思っちゃったんだけど、工業団地って……もしかして、人が住んでる団地とは違う?」と聞いてくる。
「あー」
私は軽く頷きつつ「工業団地は、工場だとか工業地帯を集めた、工業の団地で、住宅団地とは違うものだね」と説明した。
「そ、そうなのね……ちょっとショックだけど、知れて良かったわ」
お姉ちゃんは少し引きつった笑みを浮かべながら頬を指で掻く。
素直に妹の説明を受け入れて、自分の間違いを改められるのは素直に凄いなって思った。
そう思っているのが伝わったのか、お姉ちゃんは「妹に教えられるのは恥ずかしいけど、ちゃんと正しい知識を持てたのは感謝するところだからね。ありがとう、凛花」と私の頭を撫でる。
何故撫でるのかというツッコミを入れたい気持は合ったものの、まあ、嫌じゃないので素直に撫でられることにした。
「それで、千夏ちゃんのマンションは公営じゃないでしょ?」
「あー、うん」
千夏ちゃんが頷いたの見てから「住宅団地は、一般的に公団住宅や公営住宅の事を指すから……公営でない千夏ちゃんのマンションは団地ではない……かな?」と続けたが、少し曖昧な着地になってしまった。
そこに目ざとく気が付いたユミリンが「なんか、言い回しが変じゃない?」と言ってくる。
ユミリンにバッチリ指摘されたので、私は「元々の住宅団地って、住宅の集合体って意味だから、そういう意味では、千夏ちゃんのマンションも団地に当たることもあるんだよ。公営のものが当てはまるっていうのはあくまで一般論だからねー」と情報を加えてみた。
もの凄く嫌そうな顔でユミリンは「うえ、めんどくさ」と言い放つ。
「流石に、社会のテストではそんな細かいところまでは出てこないと思うよ」
フォローになるかわからないけど、そう伝えると、ユミリンは「こんなの出題されたら、0点取る自信があるわ」と言い出した。
「そうならないように、勉強頑張ろう」
苦笑しながらユミリンにそう告げると、千夏ちゃんが「私も! 私も教えてください。凛花先生!」と手を挙げる。
「え、せ、先生……」
千夏ちゃんに『先生』と呼ばれた瞬間、なんだか忘れていたドキドキが沸き起り、私は気付けば「私で教えられる範囲なら」と頷いていた。




