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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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チェック

「リンリン、私がチェックしてあげる!」

 突然、そう口走ったユミリンに、私は「はい!?」と驚きの声を上げた。

 スカートもスリップも脱いで、半袖の上着を着て、一息つこうと思った瞬間だったので、思いの外、動揺している。

 その間にも、私に歩み寄ってきたユミリンは突然しゃがみ込んだ。

「な、なに!?」

「えー、はみパンチェック~」

 着替えている他の子達も、ブルマの裾を指で直していたので、ユミリンの発言から、何のチェックかは理解できる。

 でも、流石に他の人にチェックして貰うのは恥ずかしいわけで、あたしはちょっと強めに「じ、自分で出来るから!」と訴えた。

 完全にお断りしたつもりだったのに、ユミリンは「いや、リンリンは可愛いからさ、男子の視線を浴びるわけじゃ無い? ちゃんと第三者目線での確認が必要なのよ」と言って更に顔を私に近づけてくる。

 恥ずかしさで突き飛ばしてしまう前に、後ろに飛び退きつつ、着たばかりの上着の裾を引っ張って、ブルマを隠した。

「だ、大丈夫だから、早く授業行きましょう!」

「えーー」

「なんで、不満そうなんですか!?」

 私の問いに対して、ユミリンは「チェックをしあうなんて、親友度が高くないと出来ない事なんだから、友情の確認作業みたいなもんなのに」と唇を尖らせる。

 そう言われてしまうと、確かに過剰に嫌がるのは……と考えたところでハッとする。

「仲が良ければ、皆がすることじゃ無いと思うんですけど!?」

 この時代の普通なのかもしれないけど、そもそもどんな暗黙のルールがあるのかはわからないので、私の主観、主張で押し切ることにした。

 対して立ち上がったユミリンは「私は、チェックしてほしいな!」と言いながら背中を向けて自分のお尻を軽く叩く。

「ゆ、ユミリンが平気でも、私が平気じゃないので、許してくださいっ!」

 強めにそう主張すると、ユミリンは「もう、仕方ないなぁ」と意味深な笑みを浮かべてから「まあ、嫌なら仕方ないかー」と言って私から距離を取った。

 離れられると、キュッと胸が痛くなるもので、思わず待ったを掛けそうになる。

 でも、待ったを掛けた先は、チェックをし合うというちょっと恥ずかしさを禁じ言えない行為なので踏み止まって「とりあえず、授業、授業ですよ」と無理矢理、話の流れを軌道修正した。


 昇降口で自分の靴箱を迷わず見つけられたのは、出席番号順だったお陰だ。

 ユミリンの次が私なので、丁度、真下の靴箱から運動靴を取り出す。

 運動靴の代わりに上履きを入れた靴箱には革靴も入っていた。

 登下校の際には革靴を履くんだろうなと思いつつ、靴を履き替える。

 皆靴紐なのもあって、昇降口の廊下に平然とブルマで座って紐を結んでいた。

 他の子達に習って、廊下に座ろうかとも思ったんだけど、昇降口の廊下はコンクリート打ちっぱなしで、冷たそうだったので、私は靴を履いてからお尻をつかずにしゃがんだ状態で、左右の足を交互に入れ替えながら靴紐を結ぶ。

 結び終えて立ち上がったところで、ユミリンに「ねぇ、リンリン」と声を掛けられた。

 何か間違ったのだろうかと内心でヒヤヒヤしながらユミリンに「なぁ、に?」と変な区切りの返しをしてしまう。

 対して、ユミリンは自分のお腹を指さしながら「上着はブルマの中に入れないと、綾ちゃん先生に怒られるよ」と指摘された。

 着替えの時に、ブルマを隠して以来そのままだった自分のお腹を確認した私は「そっか、ありがとう」と返して早速裾をゴムの内側に入れる。

 お腹から背中へ掛けて、入れ込んだところで、歩み寄ってきたユミリンが、無遠慮に私の脇腹に触れた。

「うぇ?」

 身構えるよりも前に飛び出した声に、気にした素振りも見せずユミリンは真剣な過去で体操服を引っ張る。

「ゆ、ユミリン?」

 動揺しているのがわかる震える声で呼びかけると、ユミリンは、「このくらいゆとりがあった方が可愛いと思うよ」と言って後ろに下がった。

 お腹にピタッと張り付いていたお腹周りが、少し上着の裾が上に引っ張られたことで、膨らみが出来ている。

 よく見れば、ユミリンも私と同じような着こなしをしていて、それは確かに『可愛い着こなし』に思えた。

 花ちゃんの姿がちらつくせいで、ユミリンを色眼鏡で見ていたかもしれないと自分の行動を振り返った私は、素直に「ユミリン、ありがとう」と伝える。

 ユミリンは照れ笑いを浮かべると「可愛い親友を可愛く仕上げるのは、親友の私にだけ許された特権だから」と胸を張った。

 私にとっては出会って数時間なので『親友』と言ってくれていることに嬉しさと同時に、申し訳なさがある。

 でも、思い出すというか、ここまでの一ヶ月に満たない期間に何があったかを知るのはかなり至難のことなので、私は「いつも助かってます」と戯けた口調で言って頭を下げた。

 ユミリンは「いつも助けてます」と切り返して笑ってくる。

 その屈託の無い笑顔を前に、騙している罪悪感を胸の底に押し込んで、笑みを返しながら私は「じゃあ、行こう」と口にした。

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