劇物
「しょ、小学生……」
通学路の途中でなければ、両手両膝をついて板かもしれないほど衝撃的だった。
そんな私を見て、笑いを堪えている、お姉ちゃんにも、ユミリンにも、怒りが沸いてくる。
ただ、千夏ちゃんは本当に申し訳なさそうにしているし、ここは一番の大人である私が、大人な対応をせねばと思い直した。
「ま、まあ、見た目は、確かに身長が低いので、し、しかたないですね」
そこへユミリンが「身長の問題かなぁ」とか言ってくる。
「身長の問題だよね?」
目に殺気を込めてユミリンに向かって笑むと「うわぁっ」と一歩引いた。
気迫で勝った以上、ユミリンもそれ以上踏み込んできたりはせず「そうだね、うん」と言いながら引き下がってくれる。
私は殺気を消してから、千夏ちゃんに向き直った。
千夏ちゃんは「さっきも言ったけど、同じ学年で嬉しいよ。凛花ちゃん、とっても興味を引かれる子だしね。これからよろしくね!」と笑いかけてくれる。
「はい、よろしくお願いします」
私がそう言って大きく頷くと、お姉ちゃんが「いいなぁ。私も凛花達と同じ学年が良かったわぁ」と言い出した。
「え? それって、お姉ちゃんとだと、双子になっちゃうってこと?」
首を傾げた私に対して、お姉ちゃんが間を置かずに「あら、嫌なの?」と聞いてくる。
どちらかというと、舞花ちゃんと結花ちゃんの事を思い出していただけなので、ふるふると首を振りながら「嫌じゃないよ?」と返した。
「ただ、双子って、なんか不思議な繋がりがあるっていうから、どんな感じかなって思って」
私がそう続けると、お姉ちゃんは苦笑しながら「一瞬でそんなところまで考えを飛ばしてたのね」と言う。
「え?」
何でそんな反応なんだろうと思っていたら、千夏ちゃんが「いいよ、凛花ちゃん! その凛花ちゃんらしい考えの飛躍は武器になるよ!」ともの凄く嬉しそうに目を輝かせて詰め寄ってきた。
私は千夏ちゃんのテンションの高さに、強い戸惑いを感じて「そ、そんなに、盛り上がることかな?」と尋ねる。
「もちろんだよ!」
大きく頷いた千夏ちゃんは「いい? 自然体で普通を逸脱していけるのは才能なの! それは凛花ちゃんにしかない特性なのよ!」と話す毎に鼻息が荒くなっていた。
なんだか史ちゃんのようだなと、その千夏ちゃんの容姿から思ってしまう。
すると、千夏ちゃんは「ほら、いま、何か、別のこと考えたでしょ!」とズバリ指摘してきた。
「な、なんとなくだけど、史ちゃんに似たものを感じたというか……」
私の言葉に頷きながら「なるほどね。私の子の感覚って、史ちゃんに似てるのね。確かに! 凛花ちゃんから目が離せないって気持が大きくなってるものね。なるほどぉ」と千夏ちゃんは自分の世界に突入していってしまった。
そんな千夏ちゃんの様子を前に、あっけにとられていると、お姉ちゃんが面白そうに「千夏ちゃんを狂わせちゃうなんて、凛花ってば、魔性の女だったのね」と言い出す。
「ま、魔性って!?」
とんでもない評価に、声が裏返ってしまった。
そんな私に、ユミリンが「落ち着いて、リンリン」と声を掛けてくれる。
お陰で多少頭が冷えたところで、ユミリンは「それだけ皆の目を引いちゃう魅力があるってことでしょ? スゴく良いことだと思うよ」と言い出した。
「そ、れは……」
私は単純にそれが良いことなのか悪いことなのか、即断できず、自然と眉と眉が寄って、眉間に皺が浮かぶ。
「なに、凛花。眉を寄せて、なんか悩むところでもあった?」
お姉ちゃんがあまりにも軽い口調で尋ねてくるので、私も気軽に考えていたことを口にしてしまった。
「皆の目を集める魅力があるのって良いことなのかなぁ……と思ってしまって」
私の言葉に、目を丸くしたお姉ちゃんに「魅力があることを否定するわけじゃないのね」と言われてしまう。
そこでようやく、私がまるで魅力があることを受け入れているような形になって切ることに気が付いて、顔か炎が噴き出しそうなほど熱くなった。
と、それを見ていた千夏ちゃんが爆笑を始める。
恥ずかしさで話を逸らしたかった私は、少し大きめの声で「ちょっと、千夏ちゃん、何で笑うの!?」と話を振った。
「いや、やっぱり、面白いよ、凛花ちゃん……正直、こっちに引っ越してきて一番良かったと、今思ってるかも!」
「は? へ!?」
急に引っ越してきて一番良かったと言われてしまった私は思考がフリーズしてしまう。
どうやら千夏ちゃんはそれすらも面白かったようで、パンパンと自分の太ももを叩きながら「もう、ほんと、なに、おもしろすぎっ……くっくるっ……しっ」と笑いすぎて、呼吸困難に陥り始めた。
そのタイミングで、お姉ちゃんが「凛花!」と鋭く私の名前を呼ぶ。
急な態度の変化に戸惑いながら「な、何、お姉ちゃん?」と急変の理由を尋ねた。
すると、お姉ちゃんから「ちょっと、ユミちゃんとあっち行ってて、これ以上の過剰摂取はいろいろ危ないわ」と千夏ちゃんの肩に手を置いて移動し始める。
すると、ユミリンが近づいてきて私の肩を抱きながら反対側に誘導し始めた。
「ドクターストップかな。リンリンは劇物だね」
「はいっ!?」
ユミリンの指摘に私の声が裏返る。
対して、ユミリンは「はい、いきますよー」と子供扱いしながら、一区画先まで私を引っ張っていった。




