部長の姉妹
お姉ちゃんに完全同意だったので、私は小刻みに頭を上下させて同意しているのを訴えた。
それを見た史ちゃんは噴き出してから「わ、わかりました。私も凛花様は嫌なら嫌って言ってくれるって信じているので、私なりを貫いてみます」と言ってくれる。
私は頷いてその意見を歓迎しつつも「お嬢様扱いは正直恥ずかしいから……その、お手柔らかにね」とだけ耳打ちしておいた。
史ちゃんは「そこの見極めも、私の課題ですね」と何故だか気合が入ったような顔をし始める。
とはいえ、無理をお願いしているのは私なので、後は史ちゃんの考えに委ねることにした。
「それじゃあ、まあたあしたー」
私がそう言って手を振ると、史ちゃんと加代ちゃんが手を振りながら「「また明日」」と返してくれた。
千夏ちゃんも「じゃあ、日曜日はお世話になるね!」と二人に声を掛ける。
私も「私も楽しみにしてるね」とプレッシャーになら無ければ良いなと思いながら声を掛けてみた。
いつもなら史ちゃんが先に返してくるところだけど、自信があるからか、加代ちゃんが「お店のことなら任せてちょうだい」と胸を叩く。
「加代ちゃんは駄菓子屋さん、小物屋さんから、スーパーまで本当に詳しいからね」
加代ちゃんの後ろで大きく頷きながら言う史ちゃんが、どこか誇らしげで微笑ましかった。
そんな中でお姉ちゃんが「日曜日の街散策は、私も参加しても良いのよね?」と割り込んでくる。
「え、お姉ちゃん……」
私としては正直どちらも良いけど、お姉ちゃん以外は史ちゃんに、加代ちゃんに、千夏ちゃんに、ユミリンなので、一年生だけだ。
しかも、私たちが入部することを決めた演劇部の部長なワケで、そんなお姉ちゃんが参加するのは正直どうなんだろうとは思う。
と考えたところで、ユミリンが「ちょっと待って、良枝お姉ちゃん。ちょっと会議するわ」と言い出した。
「ちょっと、集合!」
両手を使って、私、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃんを自分のそばに集めたユミリンは「実際どうする、三年生の先輩だし、部長だし……ただ、リンリンのお姉ちゃんだけど、違う学年の先輩と一緒に行って楽しめる?」と思った以上にストレートな表現で意見を求める。
「あの、お姉ちゃんに全部聞こえてる気がするんだけど……」
私の指摘にユミリンは「大丈夫よ」と言い切った。
何故、自信満々に言い切れたのだろと思ったら「どうせ、反対する人いないと思うから」と言い出す。
思わず目が点になったけど、ユミリンの発言を理解した私は笑うしかなかった。
史ちゃんや加代ちゃんも私に釣られて笑い声を上げる。
千夏ちゃんは「と、いうわけで、先輩の参加は承認されました」とお姉ちゃんに報告した。
ここで、私も少しふざけてみようと思って、真面目な顔で「でも、同じ学年の子達の集まりにお姉ちゃん連れてきたら、私残念な子に見えないかな?」と振ってみる。
笑い飛ばされると思ったのに、皆、ほぼ同時に笑いを止める。
「え?」
予想外の皆の態度に戸惑いが声で出た。
「ま、まあ、リンリンは可愛いから、姉も心配になるワケよ」
ユミリンがそう言って言い難そうに切り出すと、史ちゃんが「私は姉妹が仲良くて良いと思います!」と拳を握りしめて訴えられた。
千夏ちゃんは「私は一人っ子だから、自分を心配して付いてきてくれるお姉ちゃんがいたら、嬉しいなって思う……だから、私は凛花ちゃんが羨ましいな」と言う。
そんな風に千夏ちゃんに言われた私は、自然と視線をお姉ちゃんに向けた。
何故か両腕を広げてお姉ちゃんは微笑みながら頷く。
「え? なに、お姉ちゃん?」
「私の胸に飛び込んできて良いのよ」
両手を広げたままで、照れることなく言い放ったお姉ちゃんの姿に、なぜだか私の方が恥ずかしくなってしまった。
「も、もう、帰るよ、お姉ちゃん! 皆もまた明日!」
流石にこのまま茶番に付き合っていたら、羞恥心で耐えられなくなると思った私はさっさと家に向かって歩き出す。
無理矢理状況を終わらせようとした私の動きに、笑いが起こった。
そのまま私も含めて軽く笑った後で、改めて、史ちゃん加代ちゃんとお別れをする。
昨日のメンバーに千夏ちゃんを加えた私たち四人は、改めて帰路についた。
「千夏ちゃんの家って、想像以上にウチの近くなんだね」
お姉ちゃんとユミリンが並んで歩いていたので、自然と隣同士になった千夏ちゃんにそう声を掛けると、少し間を置いてから「実は……」と切り出された。
「うん」
聞いていることを伝えるために頷きながらそう返すと、千夏ちゃんは「家の近くで凛花ちゃんや良枝部長の姿を見かけたことがあるんだよね」と言う。
「そうなんだ!」
私がそう返したところで、何故か千夏ちゃんはスッと視線を逸らした。
「え? なんで?」
目を逸らした理由がわからずに、どうしたんだろうと思いながら千夏ちゃんの顔をのぞき込むと、その口からは「ごめんなさい」という謝罪の言葉が出てくる。
「どういうこと?」
意味がわからず瞬きをする私に、千夏ちゃんは「いや、良枝部長と仲よさそうだし、妹だなっていうのはすぐわかったんだよ」となんだか言いにくそうに言った。
「うん? そう……なんだ」
何が言いたいんだろうと思いながら千夏ちゃんを見ていると、ようやく覚悟を決めたのか、私に視線を向けて「ほんとごめん」と手を合わせる。
その後で「小学生かと思ってた」と続けられて、すぐに千夏ちゃんの変な様子の原因は理解できたものの小学生だと思われていたという発言は、思った以上にダメージがあった。




