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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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お嬢様ごっこ

 呼び方の問題なので、慣れれば良いだろうと、私はお姉ちゃん改めお姉様の喜ぶ顔を前に、無駄な抵抗をするのを止めた。

「それじゃあ、行きましょう、お姉様……皆も……」

 可能な限りの笑顔を作ってお姉様や他の皆に声を掛ける。

 すると、真っ先に千夏ちゃんが「そう致しましょう、凛花様」とノッて来た。

 続いて史ちゃんも「まあ、素敵ですわ。凛花様って呼び方が増えるなんて」と、普段の丁寧な口調から一段階お嬢様風に格上げされたようなしゃべり方をし始める。

 二人の話し方が変わったことで、加代ちゃんは自分がどう動くかで悩んでしまったようで、眉と眉の間に細く皺が浮き上がった。

 全員がお嬢様口調は落ち着かないので、加代ちゃんは変わらずにいてくれていいんだよと伝えようと思ったのだけど、残念ながら一足遅かったらしい。

「み、皆様のように、うま……上手に綺麗なこと……お言葉を使えるかわかりませんが、が、がんばりますね!」

 加代ちゃんはそう言って参戦を表明してしまった。

 流れとしては止めたいのだけど、皆楽しそうではあるので、水を差すのもどうかなと、判断に悩んでいると、ユミリンがここで独自路線を主張し始める。

「私はお嬢様って柄じゃないからー」

 周りの様子を見て対応を変えてしまう私には選択できない精神的強者の発言に、私は素直にユミリンを凄いと思った。

 のだけど、着地点はちょっと私の予想からズレている。

「凛花様の護衛を務めるよ。まどか先輩のカッコ良かったしね」

 爽やかな笑顔で言い切るユミリンに、動揺しながらも呼びかけた。

「ゆ、ユミリン?」

「いけませんよ、凛花様。その呼び方は……」

 そこまで言うとグッと身体を寄せて「二人っきりの時だけです」と耳元で囁いた上に、わざわざ息を吹きかけてから離れる。

 くすぐったさと共に体中に微弱な電撃が走り「ちょ、ちょっと!?」と取り乱しながら、私はユミリンに吐息と声を残された耳に手を当てた。


 私の反応にユミリンはニヤニヤしながら「うん、可愛いよ、リンリン」と普段通りの呼び方をした。

 完全に遊ばれているとわかってはいても、直前のお嬢様扱いに比べて頬としてしまったのも事実で、私は「もう、本当に、止めて、ユミリンまで皆のノリに乗っちゃったら変な汗がでるから」と苦情を口にする。

「大丈夫、大丈夫、リンリンが本当に嫌そうだったら、止めるって、ねぇ、皆?」

 リンリンの言葉に、最初にお姉ちゃんが頷いた。

「そうねぇ、たまにお姉様って呼んで欲しいけど、その度に凛花が、動揺しちゃうなら……仕方ないから、たまにで、我慢するわ」

 我慢が必要なことかなとツッコみたくはなったけど、ここで変にツッコむとややこしくなる予感がして踏み止まる。

 そんな私の肩に千夏ちゃんはポンと手を置くと「こういう即興劇は演技の特訓にもなるし、演技ができるようになってくると、試したくなっちゃうもんなのよ。だから、すぐになれると思うわ!」と言い切った。

 更にバチンとウィンクを決めて「凛花ちゃんも慣れて、早くこっち側の人になってね!」と屈託のない笑みを浮かべる。

 元々の可愛らしさも上乗せされて、千夏ちゃんの言葉には簡単に相手を頷かせてしまう魔力が込められていた。

 まあ、私は頷く手前で踏みとどまれたけども……危なかったのは間違いない。

 そんな私を見る千夏ちゃんは、一瞬不満そうにジト目になったが、すぐに興味津々といった表情で口元を緩ませた。

「凛花ちゃんは押しに弱そうに見えて、層でもないところが、そそるね」

 ニィッと笑いながら言う千夏ちゃんに「そ、そそるってなに!?」と今度は踏みとどまれずツッコんでしまう。

 クスクスと笑いながら「最高に魅力的ってことぉ」と両手で自分のツインテールの毛先をそれぞれの手で掴み、自分の口元に寄せて、髪の毛の下に唇を隠した。

 そんな意味深な仕草を見せる千夏ちゃんに、完全に目を奪われてしまった私の視界に小さな手がにょきっと乱入してくる。

 思わず手の主を見れば、史ちゃんだった。

「はい、凛花様! 私はいつでも凛花様の侍女のつもりでいるので、絶対にブレない自信がありますよ!」

「そ、そうなのね」

 熱意はともかく、内容に問題がありそうな気がしてなら無いけど、史ちゃんはとても真剣なので、自分が嫌だから程度の理由で拒否も否定も出来ない。

「ほ、ほどほどにね」

「はい!」

 強く頷く盲目的に見える史ちゃんに不安を覚えて、私はちょっと危うさを感じて、ちゃんと気持というか考えを伝えることにした。

「史ちゃん。私たちはお友達なんだから、お嬢様と侍女みたいな身分の差を感じない方が嬉しいし、それを感じるような反応は少し苦手かも」

 そんな私の言葉に、史ちゃんは百面相を始めてしまう。

 困ったような嬉しいような悲しいような、そして決意、否定、閃きといろんな事が脳内で起きているのだろうというのは感じ取れた。

「えっと、その……凛花様がこまるなら……」

 どうにかそう切り出したものの史ちゃんは言葉を続けられなくなってしまう。

 それは私の意図したことではないので、どうしようかと思っていると、お姉ちゃんが「大丈夫。友達なんだから、悪意が無いならそのままぶつけちゃえば良いのよ。そりゃあ多少引っ込み思案だけど、でも、凛花はちゃんと嫌なことは嫌っていう子だから、言われたときに直せば良いのよ。変に悩みすぎて言葉に詰まると友達づきあいも疎かになってしまうわ」とフォローしてくれた。

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