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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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連続する歪み

『主様、どうしたのじゃ?』

 リンリン様の返答を聞いて、私は即座に状況を理解した。

 なので、落ち着くために、ゆっくりと息を吐き出す。

 それから頭の中で今自分が感じたものをリンリン様に説明した。

 一通り私の話を聞いた後で、リンリン様は『その世界が止まる現象を、わらわは観測できておらぬ』と言う。

『つまり、私だけが感じたってことですよね』

 深呼吸をして落ち着いていたお陰で、私へ冷静に尋ねることが出来た。

『そうじゃの……そして、この世界の人間も、わらわ同様感じ取れていないはずじゃ』

 リンリン様の言葉は、世界が止まる前後で、態度や様子に変化がみられないお姉ちゃん達皆の様子からすると、間違いないと思う。

 観測できたというか感じ取れたのは私だけと言うことについて、どう思うのかという話は後で進めることにして、リンリン様には可能性をいくつかあげて貰うことにした。

 私の方は、ともかく部活を終えて帰宅までを無事終えることを優先させて貰う。

 この世界は作られた世界である以上、どんなルールで異変が起こるかわからないので、状況の観察という目的もあった。


 今日の帰りのメンバーは、お姉ちゃんに、史ちゃん、加代ちゃん、ユミリンに、新たに千夏ちゃんが加わった。

「千夏ちゃんの家って、こっちなんだね」

 史ちゃんの発言から繋げるように、加代ちゃんが「凛花ちゃんと同じ小学校だったの?」と答えにくい質問をしてくる。

 どう答えようと思ったら、千夏ちゃん自身が「あー、私、中学に上がるときにこっちに引っ越してきたから、小学校は全然違うよ」と説明してくれた。

 そんな千夏ちゃんの言葉に頷きながら、お姉ちゃんが「そうね、私も見たことなかったわ」と言う。

「でも、まさか部長先輩の家もこっちの方だったなんて、もっと早く聞いておけば良かったです」

 千夏ちゃんが苦笑気味に言うので、私は「それはどうして?」と素直に理由を聞いてみた。

 すると、千夏ちゃんは少し驚いた様子を見せてから「演劇部って、練習で遅くなることがあるから」と頬を掻く。

「ん?」

 一瞬、言葉の背景が読み取れなかったけど、すぐに理解した。

「確かに、遅い時間に女の子の一人歩きは危ないよね!」

 大きく頷きながら言った私に、千夏ちゃんは眉を寄せる。

「あ、あれ? 私、変なこと言ったかな?」

 全然思い当たる節はなかったんだけど、千夏ちゃんの表情からして、何かありそうだなと思って、そう聞いてみた。

 千夏ちゃんはお姉ちゃんを見て「部長先輩、貴方の妹さんは危機意識がたりないみたいですけど?」と突然矛先を変えてしまう。

 一方、お姉ちゃんは「そうなのよねぇ」と千夏ちゃんに同意した。

「はえ? お姉ちゃん?」

 何故頷き合ってるのかと思っていたら、千夏ちゃんが私に向き直って「凛花ちゃんは危機意識が足らないと思うわ」と断言する。

「き……な、ないことは無いと、思うよ」

 断言されたことに少し動揺してしまったせいで、少し言葉が不安定になってしまった。

「無いとは言ってないの、足らないの、不足しているの。身を守るために剣道しようって考えられるのに、普段の生活に危険が潜んでるって考えてなさ過ぎだよ」

 ぷにぷにと鼻の頭を突かれながら、一方的に放たれた千夏ちゃんの指摘に、お姉ちゃんも拍手を始める。

 更に、史ちゃんまでもが「自覚と自衛は大事です、凛花様」と真剣な表情で参戦してきた。

 あまりの旗色の悪さに思わず援軍を乞う。

「か、加代ちゃん!」

 だが、加代ちゃんは苦笑して「ごめん。皆の言うとおりだと思う。もっと自分が自分で思っているより美少女だって理解した方が良いよ、凛花ちゃんは」と言い切られてしまった。

「ゆ、ユミリン!」

 名前を呼びながら視線を向けたユミリンも、苦笑しているのだろうかと想像していたのだけど、そこで私を待ち受けていたのは想像もしていない表情だったのである。

「え?」

 思わず声が出てしまったのは、これまでいろんな表情を見せてくれていたユミリンが『無表情』だったからだ。

 感情が全て消えてしまった、喜怒哀楽のいずれでもない、まさに『無』の表情に背筋が一気に冷える。

「ゆ、ユミリン?」

 改めて名前を呼んだ私の声が自分でわかるほど震えていた。

 咄嗟にユミリンの表情に皆は何を思うのかと思って、視線をお姉ちゃんや千夏ちゃん、史ちゃん、加代ちゃんと向ける。

 皆の顔には、笑顔だったり、苦笑だったり、ちゃんと感情のある表情が浮かんでいたが、どれも動きがなかった。

 また、時間が止まっているのだと理解した私は、心の中でリンリン様に呼びかける。

 しかし、普段ならすぐに反応があるはずなのにリンリン様は黙したままだった。

 目の前に突きつけられた事実に、私は自分の呼吸が乱れだしたことに気付く。

 けど、置かれた自分の状況に、冷静さを取り戻せず、口からは『はぁはぁ」と粗く短く乱れた息が吐き出され、全身にジットリと汗が滲んだ。

『どうすればいい?』

 必死に考えようとしても、上手く思考が回らない。

 そんな不意の状況に、追い詰められつつある私に声が届いた。

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