未来と歪み
「じゃあ、よろしくねぇ、リーダー」
千夏ちゃんからそう声を掛けられて、私は「えっ!?」と驚いてしまった。
「他にいないと思うけど?」
コテンと首を傾げるとツインテールも連動して動く。
「私もそう思います、凛花様」
大きく頷いて同意する史ちゃんは、正直そうだろなと思っていたので、最後の一人である加代ちゃんに視線を向けてみた。
「私もリーダーは凛花ちゃんで良いと思う……というか、しかないと思うよ」
加代ちゃんからの返答に頷きながら委員長が「じゃあ、決まりね」と笑む。
その後で、私の目を見ながら「で、良いよね、凛花ちゃん?」と聞いてきた。
一度決まってしまった後で、否定するのは私に出来るわけもなく、そもそも反対者もいなさそうだし、よく考えれば年長者の私が適任なのかもと思うので「引き受けようと思います」と答える。
すると、千夏ちゃんが「就任おめでとーリーダー」と拍手し始めた。
「おめでとうございます、凛花様!」
「押し付けてごめんね、よろしく、リーダー」
史ちゃん、加代ちゃんもそれぞれに拍手と共に、一言添えてくれる。
まあ、気持は既に固まっているので「ありがとう、皆」と頷きで応えた。
「ちゃんと出来るかわからないけど、リーダーになった以上は、頑張るからよろしくね!」
そう言って胸を叩いて力強さをアピールしてみる。
「すごいじゃない、凛花、頑張ってね、お姉ちゃんは応援しているわ!」
パチパチと拍手しながらお姉ちゃんはそう言ってくれた。
続くまどか先輩は「これは将来の部長候補かな?」と揶揄ってくる。
「はい? 私は今日入部を決めたばかりですよ? どう考えても、それはないですよ!」
はっきりと否定してから、私は「それに」と口にしてから千夏ちゃんを見た。
「将来の部長なら、千夏ちゃんの方が向いてると思います!」
将来の部長なんて今話しても意味の無いことだけど、それでも自分の思っていることは伝えておいた方が良いだろうと考えて断言する。
演技力、所属歴、そして何よりも度胸と視野の広さ、どう考えても千夏ちゃんが適任だ。
けど、千夏ちゃんは「もしかして、凛花ちゃん、私のこと、部長候補として考えてる?」と、なんだか試すような、窺うような唇で聞いてくる。
「思ってます……けど?」
嫌なのだろうかと思いながら、千夏ちゃんの様子を覗った。
すると、千夏ちゃんは「私は凛花ちゃんの方が向いていると思うわ」と言い切られる。
「え、そ……」
私が反論する間もなく、千夏ちゃんは「正直、私、リーダーってタイプじゃないのよね。むしろ、しっかりしたリーダーの下で、自由にさせて貰う方が輝くタイプ……ですよね、まどか先輩?」とまどか先輩に話を振った。
まどか先輩は「ここで、私に振るとは、恐ろしい後輩ちゃんね」と楽しそうに笑ってみせる。
それからお姉ちゃんに視線を向けたまどか先輩は「まあ、でも、千夏は私に似てるし、気持はわかる……いや、実感してるよ。しっかりした部長さんがいてくれるのは、私たちみたいのにはありがたいよねぇ」と笑みを深めた。
千夏ちゃんはニコッと笑って「こういう関係が理想なの、ごめんね、凛花ちゃん」と笑う。
その後で「でも、全部押し付けるわけじゃないよ。ちゃんと演者チームは引っ張るつもりだし、この先でちゃんと勉強するから、そっちは任せて」と真剣な顔で言われてしまった。
真っ直ぐな目を向けられて力強く言い切られてしまったことで、返事に窮して締まった私の横で、委員長が「これは、かなりの上手ねー、恐ろしいわ、千夏ちゃん」と軽い口調で言う。
一瞬、委員長は私に寄り添ってくれるのかなと思ったのだけど、その口から出てきたのは衝撃の言葉だった。
「あ、裏方さんは私に任せて、そっち方面は私がまとめるから、ね。未来の部長さん」
思わず瞬く私に、今度はお姉ちゃんが「凛花」と声を掛けてくる。
もういやな予感しかなかったけど、流れに逆らえず、恐る恐る「なに、お姉ちゃん?」と返した。
「皆に望まれるなんてスゴイ事よ! だけど、凛花が不安な気持も、お姉ちゃんにはわかるわ」
「う、うん」
「だから、これから私が部長として先輩から習ったこと、私が心掛けていることを、みっちり凛花に伝えるからね!」
裏の無い善意のなんと厄介なことか、最早私に逃げ道はない。
とはいえ、確かに皆が望んでくれているみたいだし、それならばやってみようという気持もあった。
それに、これは少しずるい考えだけど、この世界が泡沫の世界であり、現実ではないという点も、気持を軽くしてくれる。
「……出来るか、自信はあまりないけど、挑戦だけはしてみようと思います」
私がそう口にすると皆が歓迎してくれて、口々に応援の言葉を掛けてくれた。
皆の応援の言葉と笑顔に、私の中でやる気が増していくのを感じたタイミングで、異変が起こる。
ピシッと何かが割れるような音と感覚がして、世界が時間停止した。
何が起こったのか、わからず、私は一番頼れる相棒に声を掛ける。
『リンリン様!? 何が起こっているかわかる?』
私がそう問い掛けた直後、制止していた世界は、元通り動き出し、皆の拍手の音も応援の声も再開された。




