想定外の事実
私の話を聞いた委員長は、唇に手を当てるとそのままブツブツとつぶやきながら考えをまとめているようだ。
大きなグループから、ニーズや個性に合わせて、いくつかのユニットを作るという考え方は、元の世界ではそれほど珍しくはない。
けど、昭和の時代はどうだったのか、正直、私の中にはそこまで詳しい知識は無かった。
うろ覚えでは、昭和の途中まではアイドルのグループなどは未だ存在して折らず、スタァとして一人一人で活動してたと思う。
順番で行けば、私の持ち込んだ考え方は、ステップかいくつか先の考え方なので、受け入れ……というかそもそもわかって貰えるかってところだった。
けど、思考を終えた委員長は、ニッと笑うと「クラスの垣根を越えたアイドルグループ! 凛花ちゃん、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃん……」と順番に私たちの顔をのぞき込み始める。
そこで一拍置いてから「ん。ちょっと先生方に相談してくるわ」と笑顔で立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って委員長。一人で納得して行動に移らないで!」
私が慌てて引き留めると、委員長は「あー」と、今、言われて気が付いたような反応を見せる。
「とりあえず、凛花ちゃんのアイドルグループとユニットの組み合わせは良いと思う」
親指を立ててニカッと笑う委員長に、私は「う、うん」と少しぎこちなく応えた。
「クラスの垣根を越えて結成するのも面白いし、いろいろ出来ると思う。まずは一年生だけでも巻き込めたら、大きなうねりになるし、そうなると、先生方の協力も必要だから、事前に話を通した方が良いかなーと思って、職員室に行こうかと思ってた」
もの凄く早口で説明してくれる委員長は、語れば語るほどテンションを上げていっている。
完全に自分のペースで話していた委員長は、急に「そこで、千夏ちゃん!」と急に名指しで声を掛けた。
「え、わたし!? な、なに?」
驚きつつもちゃんと話を聞こうとする姿勢に、素直に凄いなと思う。
私は特に思考停止して動けなくなることが多いので、即座にアクションを起こせるから、演劇部一年のエースだし、即興劇にも参戦できるんだろうなともの凄く納得出来た。
「グループへの参加は問題ないわよね?」
委員長の問いに、千夏ちゃんは一瞬キョトンとしてから「なんで改めて聞くのかしら?」と身構える素振りを見せる。
「場合によってはクラスを裏切って貰おうかと思って」
サラリととんでもない返しを口にする委員長に対して、千夏ちゃんは「あら、私をC組からF組に編入してくれるのかしら?」と切り返した。
「一応交渉してはみるわよ、欠かせない人材のためにね」
委員長も千夏ちゃんのどこか挑発的な問い掛けに対して負けじと応じる。
そうして、凄みのある笑みを浮かた二人は、近距離で見つめ合った。
見つめ合った二人がアクションを起こさないことに、気持ちが落ち着かなくなってしまった私は余計な茶々になるとわかりながら、元学校の運営側の視点でツッコミを入れてしまった。
「あの、流石に、公立学校で学年スタート後のクラス編成は難しいというか、多分無理じゃないかと思うんですけど……」
盛り上がってる二人に冷や水を浴びせるような発言なので、どう反応されるかわからず、上目遣いで様子を探る。
そんな私に二人からは、真顔と共に「私もそう思うわよ」「そうね、クラス替えを学年の途中はまあ、無理ね」という答えが返ってきた。
思わず私は何も言えなくなって、目を瞬かせる。
そんな間抜けな反応をした私を見た千夏ちゃんは「ねえ、委員長さん? 貴方も一緒に演者やありましょう? 凛花ちゃんを見る限り私との掛け合いはかなり臨場感があったと思うし」と声を掛けた。
委員長は「そうねー、必要な時は参加しても良いわよ。グループメンバーである千夏ちゃんのおねだりを叶えるのもマネージャーの仕事だものね」と返す。
まるでドラマのワンシーンでも見せられているような違和感のない二人のやりとりに、私は言葉を失ってしまっていた。
「あー、凛花様。あの二人が、本気で話してるのか、ふざけてるのか、私もわからないので落ち込まないでください」
「うん。私も本気で職員室に直談判に行くのかと思ってた」
「史ちゃん! 加代ちゃん!」
気を遣ってくれているのだとわかっていても、二人の優しい声掛けに私は心の底から感激する。
自分の情けなさをフォローして貰えば気持ちも軽くなるし、一緒だよと言って貰えれば安心もするものだ。
「ありがとう……二人に騙されたのは私だけじゃないんだね!」
私がそう言うと、千夏ちゃんが「ちょっとー、別に騙してないでしょ~ただ、役者の血が私に普通の立ち振る舞いを許さないのよ」と言いながら後ろから私に抱き付いてくる。
一方、委員長はうっとりした顔で「いや、もう、反応まで可愛いわね。そのまま、ずっと大人にならないでね、凛花ちゃん」とか言いだした。
思わず反論しようとした頭の中で、リンリン様の『主様は元成人だというのに、大人にならないでとはのう』という呟きが聞こえてくる。
思わず「私って、子供じゃないよね!?」と口にしてしまった私の視線の先で、皆が黙したまま目を逸らしたことで、私は知りたくなかったことを悟らさせられてしまった。




