優しい世界
「折角入れて貰ったのに、申し訳ありません」
私は剣道部の部員の前で頭を下げた。
顧問である伊東先生の説明の後なので、皆私の事情は理解してくれている。
「仕方ないよ。むしろ、林田ちゃんに何かある方が嫌だよ」
そう言ってくれたのは、元の世界でも女子剣道部の部長だった小山あかり先輩だった。
剣道部は私の意識の方が上回っているからか、部員の半分以上は元の世界の人たちとそっくり……本人……その判断が付かないくらい似ている。
ちなみに、残念ながら、東雲先輩はこちらの世界には反映されていなかった。
リンリン様は、東雲先輩のように『神格姿』を操る能力を持つ人間はコピーできないのではないかという。
それがそのまま事実かどうかはわからないけど、本物じゃない東雲先輩がこちらの世界にいた場合、私の気持ちがおかしくなりそうな予感があるので、残念ではあるけど、良かったと納得することにした。
「試合の時とか、余裕があったら手伝いに来てくれるって事だよね?」
私が「え、あ、はい。おじゃまじゃなければ」と返すと、質問主のあかり先輩は急に男子部員達の方へ振り向いた。
「邪魔なわけないよな!? 特に男子諸君!」
あかり先輩の問い掛けに、男子の三年生の先輩達中心に「おーー」と声が上がる。
その勢いに気圧されていると、あかり先輩が「と言うわけで、凛花ちゃんが辞めることを残念だと思うヤツはいても怒るヤツはいないし、お手伝いでも来てくれると皆喜ぶから、来てくれたら嬉しいよ」と言ってくれた。
私はお姉ちゃんをチラリと見てから「お姉ちゃん……家族とも相談して、頑張りますね!」と返す。
そこから、休憩終了まで、女子剣道部の皆に沢山声を掛けて貰った。
「凛花はどこでも人気者ねぇ」
演劇部の部室へ戻る最中、お姉ちゃんにしみじみ言われて、なんだかもの凄く恥ずかしくなってしまった。
「嬉しいけど……ちょっと、恥ずかしいかも……」
素直に心情を言葉にすると、お姉ちゃんは急に私の頭の上に手を乗せて、力任せになで始める。
「お姉ちゃん!?」
突然のお姉ちゃんの行動に、ビックリで声が上擦ってしまった。
「いやー凛花は本当に良い子だなーと思って、皆からちやほやされてると、勘違いしちゃう子が多いのに、凛華はいつまでもそのままでいてね!」
そう言いながら廊下の真ん中で抱き付かれてしまう。
抜け出そうとはしたのだけど、お姉ちゃんのホールドは鉄壁で、素の私の力では抜け出せそうになかった。
「お姉ちゃん、苦しい」
「ふっふっふっふ。全力で抜け出してご覧なさい」
変なスイッチが入ってしまったのか、お姉ちゃんがおかしな事を言い出す。
「苦しいって言ったのに!?」
「ちゃんと話せる余裕は持たせてるわ。力加減は完璧よー」
シレッと言うお姉ちゃんは、どうやら楽しんでる様に思えた。
もし、この世界はお姉ちゃんを切っ掛けに生み出されたなら、楽しませれば何かが変わるかもしれない。
そう考えた私は、お姉ちゃんのホールドから逃れる為に全力で挑むことにした。
まずはお姉ちゃんの正面から、身体の中心をズラそう右に逃れようとした。
お姉ちゃんの左の腰に手を当てて思いっきり右腕に力を込めたところで、あっさりとお姉ちゃんに右手の手首を掴まれて、腰から外されてしまう。
支えをなくされた結果、お姉ちゃんの胸元に抱き寄せられた。
『残念……降参する?」
楽しそうなお姉ちゃんの問い掛けに、私は「未だ、本気出してない!」と言い返す。
が、腕力では身体を離すことが出来ず、仕方が無く敗北を認めることとなった。
「正直、まどかとか、ユミちゃんとか、ずるいなーって思ってたのよねー。凛花は私の妹なのに!って」
上機嫌で言うお姉ちゃんに、私は「ははは」と乾いた笑いで応えた。
「なぁに、凛花はお姉ちゃんが抱き付いたら嫌なの?」
唇を尖らせて言うお姉ちゃんに、私は「嫌じゃないけど……」と返す。
そして、想像通りに叉抱き付かれてしまった。
「お姉ちゃん、これじゃあ、いつまでも帰り着かないよ……」
「それも、そうね」
あっさりと今度は手を離してくれたお姉ちゃんは「じゃあ、行きましょう」と私の手を握る。
手を繋ぐのかぁとは思ったものの、まあ、抱き付かれて動けないよりは良いかなと思って、抵抗せずにい受け入れた。
すると、お姉ちゃんは「うふふ」と嬉しそうに笑ってから歩き出す。
手を握って歩いてるだけなのに、嬉しそうにされてしまうと、なんだかくすぐったくて、恥ずかしいなんて思うのが馬鹿らしく思えてきてしまった。
お姉ちゃんが元凶だったとして、こんな関係を望んでくれているのなら、この世界が生み出された理由は案外平和的なものなんじゃないかと思えてくる。
まあ、元々の神世界に生まれた種が引き起こすのは、大きな災害ばかりなのでかなり甘い考えなのはわかっているけど、それでも、平和的な願いで生み出された世界であって欲しいと願うのはいけない事だろうか……と、考えた時、私の中でリンリン様が『わらわもそれならそれが一番だと思うのじゃ』と嬉しくなるような同意をして貰えた。




