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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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この世界は

 私が思い付いたももからの連想は、桃太郎だった。

 既に果実までは伝わっているようなので、これで答えに辿り着いて貰えるんじゃないかと思う。

 というわけで手を上下させて波を表現しながら、川上から川下へと流れる水を表現してみた。

「何か流れてる……かな?」

 顎に手を当てて、はじめ先輩が早速読み取ってくれたので、私は小刻みに頷いて、正解であることを伝える。

『正解かどうかは伝えてもいいんじゃないかの?』

 リンリン様が無言で頷く私に対して、そう言ってきたので、うっかり必要以上にヒントを言ってしまいそうだからと、理由を伝えた。

『主様は真面目じゃの~』

 呆れが混じったようなリンリン様の発言に、これが私だから良いのと返して、次の動きに入る。

 川が表現できたので、今度は流れてくる桃か、洗濯をするお婆さんか、どっちが伝わるか考えてみた。

 桃よりも洗濯の方が伝わるんじゃないかと考えて、私はしゃがみ込んで、たらいを示すように、左右の手で大きな円を描く。

 そのたらいの中に両手を入れて、洗濯しているのが伝わるように左右の手を擦り合わせた。

 洗濯板を使った選択自体、私は体験したことはないけど、昔話の、それこそ桃太郎の挿絵や昭和の洗濯機登場前後の映像資料などで知っていた動きを再現してみる。

 すると、雅子先輩が「あ! 洗濯……」と呟いた。

 更に「桃太郎……あ、桃かな!?」と連想を繋げて、答えに辿り着く。

 正解してくれたのと、それが雅子先輩だったのもあって、私は「正解です! 答えというか、お題は『桃』でした!」とお題の書かれた紙を見せた。

「スゴイじゃない、雅子ちゃん」

 はじめ先輩がそう言って拍手したので、私も後に続く。

「ま、待って、その、凛花ちゃんが上手だっただけで……」

 慌てた様子で雅子先輩がそう言うと、はじめ先輩は「確かに、凛花ちゃん、上手だったわ」と言いながら同意した。

 はじめ先輩の目が私に向いたからか、雅子先輩が「ですよね!」と強めに言う。

 更に続けて「やっぱり、部長に教わったりとかしているんですか?」と、雅子先輩は尋ねてきた。

 ただ、これまでのことに関する質問だったので、どう答えたら良いか、答えに窮してしまう。

 すると、頭の中でリンリン様が『今回はテレビや挿絵で見たものを元に再現してみただけだと言えば良いのじゃないかの?』とアドバイスをくれた。

『あえて質問に真っ向から答えず、今回の演技の根幹が自分の経験だと返せば、嘘もないし、矛盾も生じないはずじゃ』

 思わず確かにと頷きそうになるのを堪えて、私はリンリン様の言葉通り、質問を交わしつつ答える。

 すると、はじめ先輩が「スゴイですね。学んだことを反映するというのは、そう簡単にできることじゃないですよ」と手放しに絶賛してくれた。

 うんうんと頷きながら雅子先輩は「凛花ちゃんは演劇部員になるために生まれてきたんじゃないかしら」と言い出す。

 私は絶賛してくれるのは嬉しく思いながらも「流石に、演劇部員になる為って言うのは……」と苦笑した。

 はじめ先輩も「そうですよ、雅子ちゃん」と私に同調してくれる。

 その後で「演劇部員じゃなくて、女優さんになるためじゃないでしょう」と、思っていたのと違う方向の発言を繰り出した。

「じゃ、じゃあ、私、ファンクラブに入ります。スゴイ後輩が女優さんなんて!」

 もの凄くテンションを上げて言う雅子先輩に、私は「ちょっと、待ってください」と呼びかける。

「話が飛躍しすぎですよ!」

 そんな私の指摘に、雅子先輩は「え、でも、演技上手だったし……」とシュンとしてしまった。

 意図していない反応に「いや、あの、そんな落ち込まないでください」とフォローをするが反応は思わしくない。

 そんな状況で、はじめ先輩が「私も演技が上手だなと思いましたし、もし嫌でなければこのまま演劇部に入りませんか?」と聞いてきた。

 すると、肩を落としていた雅子先輩も「私も入ってくれたら嬉しいです!」と言い出す。

 歓迎されるのは嬉しいものの、直前の、へこませてしまったかもしれないという罪悪感が何だったのかと思わなくもなかった。

 けど、確かに演じるのは楽しいし、元の世界でも役立たせることが出来そうなので、私としてはやってみたいと思わなくもない。

 ただやっぱり、この世界には私ではない、この世界の私がいるはずなので、そんな大きな選択をするわけにはいかないだろうという考えが合った。

『主様。そもそもこの世界は、生み出されて数時間も経過しておらぬ……主様ではない主様が本当にいて、その主様が生きてきた世界は本当にあったのじゃろうか?』

 リンリン様の言葉で、私は自分の考えていた前提が違う可能性に突き当たる。

『もしかして、この昭和の世界に、私が入り込んだわけじゃない?』

 私の疑問に対してリンリン様は『わらわとオリジンは主様がこの世界に入った瞬間に、この世界は始まった可能性が高いと考えておる』と言い切った。

『じゃ、じゃあ、そもそも、この世界に、私と入れ替わる前の、この世界の私はいなかった?』

『そうなるの』

 サラリと断言されてしまった私は言葉を失う。

 私の中で、今までいろいろ配慮してきたのは何だったのかという思いと、もしももう一人の私のことを考えなくていいのなら、もっと自由に動けるんじゃないかという思いで、テンションの乱高下が巻き起こっていたのだった。

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