二番手
「次は、誰が挑戦する?」
はじめ先輩の問い掛けに、私と雅子先輩は顔を見合わせた。
順番的には、私か雅子先輩のどちらかなのだけど、名乗り出てしまうと出しゃばることになると思うし、かと言って、先輩が名乗り出てくれるかというと性格的に難しい気がする。
『そうでもないようじゃぞ』
不意に、リンリン様の声が頭に響き、ハッとしたところで、目の前の雅子先輩の目に強い決意が籠もったのを見た。
「ひゃ、ひゃじめせんぱい! わ、わらひが挑戦します!」
言葉はだいぶふにゃふにゃだったものの、雅子先輩はそう言って手を挙げると一歩はじめ先輩に歩み寄る。
その姿を嬉しそうな表情で受け止めたはじめ先輩は「凛花ちゃんもそれで良いよね?」と確認してきた。
「もちろんです!」
私は即答して、雅子先輩に「頑張ってください! 応援してます!」と気持ちをそのまま伝える。
が、それが悪手だったようで、雅子先輩はカチンコチンに固まってしまった。
しまったと、自分の軽率な発言を悔いた私にも、緊張を強いる言葉が降ってくる。
『こうなると、主様がトリなワケじゃな』
言われなかったら意識しなかっただろう言葉なのに、言葉にされてしまったせいで、最後が自分だという事実がプレッシャーとして押し寄せてきた。
噴き出した冷ための汗が背中を伝う感触が背筋をピンと伸ばさせてくる。
同時に身体は硬直して、目の前の雅子先輩同様固まってしまった。
「あれ? 雅子ちゃん? 凛花ちゃん?」
固まった私たちの様子に、はじめ先輩が声を掛けてくるものの、二人とも反応できない。
その様子に、はじめ先輩は「えーと『石像』?」と口にしてから「って、未だ、くじ引いてないよね?」と真剣な顔で首を傾げた。
しばらくその体制で固まっていたはじめ先輩は、私たちが反応を示さないどころか動き出さないので、今度は少し慌てた様子で「ちょっと二人とも?」と声を掛けてくる。
その後でアワアワしながらはじめ先輩は「さ、触っちゃうよ? 触っちゃうんだからね?」と言いながら、そろそろと雅子先輩に手を伸ばした。
「い、いや……凛花ちゃんの真っ直ぐな応援の言葉に、プレッシャーで……」
申し訳なさそうに言う雅子先輩の言葉を聞いたはじめ先輩は、ゆっくりと私に視線を向けた。
少し怒っているというか、拗ねていると言った感じの表情を浮かべるはじめ先輩に、私も「お恥ずかしながら……」と固まった理由を伝える。
「よく考えたら、私がトリだなって気付いて、気付いたら、急に緊張の波が……」
説明しているうちに、勝手に気付いて勝手にフリーズするというかなり恥ずかしい行動を起こしていた自分の状況に、居たたまれなくなって俯いてしまった。
すると、雅子先輩が私の肩に手を置いてくれる。
それだけでいたわる気持ちが伝わってくる優しさの籠もったタッチだった。
気を遣ってくれていることに感謝の気持ちを抱きながら顔を上げると、雅子先輩が真剣な顔で「わかる、緊張するよね」と頷いてくれる。
「はいっ!」
大きく頷いたところで「凛花ちゃん!」と雅子先輩が抱き付いてきたので、押し倒されないことだけ木を津いけて受け止めた。
何故か抱擁することになってしまった私と雅子先輩を見て、はじめ先輩は「そんなに嫌なら、無理しなくても……」と気を遣ってくれる。
そう言ってもらえるならと、ちょっと心が揺れて締まった私とは違って、雅子先輩は「大丈夫です! が、頑張ります!」と僅かに声を震わせながら宣言した。
更に、私の目を見て「ね、凛花ちゃん!」と同意を求められてしまう。
こうなると、当たり前ながら、私だけ見逃して貰うというわけにも行かないので「が、んばり、ましょう」と辿々しい同意になってしまった。
「それじゃあ、引きます」
はじめ先輩の手にしたお題箱に手を突っ込みながら雅子先輩は「簡単なの」と小さな声で何度も繰り返していた。
しばらく迷っていた雅子先輩は、ちらりとこちらを見たタイミングで覚悟を決めたらしく「えいっ!」となんだか可愛い声で掛け声を口にした直後、一枚の紙を抜き出す。
おそるおそる自分の手にある紙をのぞき込む雅子先輩は複雑な表情を浮かべた。
そのまま動きを止めてしまったので、はじめ先輩と顔を見合わせてから「あの、雅子先輩……どうですか?」と反応を窺いながら聞いてみる。
雅子先輩は私が話しかけたの気が付いて「えっと」と口にしたところで股固まってしまった。
「あの、雅子先輩?」
動きを止めてしまったので、大丈夫かなと思いながら改めて声を掛けると、雅子先輩は「多分……イメージは出来たけど……」と自信無さそうに言う。
私はその自信が無さそうなところに気付かなかったふりで「スゴイじゃないですか! 後は私が当てられるかどうかですね! 頑張らないと!」と拳を握って、気合を入れてみた。




