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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
72/474

合致

「それじゃあ、早速引いていきましょう」

 はじめ先輩は穏やかな表情を浮かべて、私と雅子先輩を見た。

 そのまま、こちらの反応を待つようにジッと見てくるはじめ先輩に、私は「頑張ります」と今の気持ちを伝える。

 私が意思を示したので、はじめ先輩の視線は自然と雅子先輩に向かった。

 遅れて私も視線を向けたことで、雅子先輩の緊張が極限に達してしまったようで、石化したかのようにカチコチに固まってしまう。

 ちらりと、横目で確認すると、はじめ先輩は困り顔でどう動くか計りかねているようだった。

 先輩であるはじめ先輩が声を掛けるよりも、後輩の自分の方が気楽じゃないかと考えて、思い切って私が声を掛けてみた。

「あの、雅子先輩、大丈夫ですか?」

 恐る恐る声を掛けてみると、我に返った雅子先輩がハッとした表情を見せる。

 私とはじめ先輩の顔を順番に見た後で「だ、だいじょうぶ、だひょ」と、ちょっと不安を掻き立てるような語尾で、雅子先輩は薄ら笑いを浮かべた。

 指摘してはダメだと直感した私がはじめ先輩に目を向けると、同意見だったようでゆっくりと頷いてくれる。

 お互いの意見が一致したところで、私は『どうしますか?』という質問を抱きながらチラリと視線を雅子先輩に向けた。

 それで、伝わったかははっきりとは断言できないが、はじめ先輩は「それじゃあ、まずは私から引こうかな」と言って、近くの机の上にくじ引き要の箱を置くと、間を置かずに手を突っ込む。

「これにしよう」

 はじめ先輩はそう言って宣言した後で、一枚の紙を引き出した。


「それじゃあ、やってみるので、私が何のカードを引いたか当ててみてくださいね」

 はじめ先輩の言葉に、私は気持ち大きめの声を意識して「はい」と応えた。

 私の返答の声が大きくて固まっていないかとドキドキしながら、視線を向けずにいると、少し間を開けて雅子先輩が「は、はひ!」とどうにか絞り出したと言った感じの声で返事をする。

 それを確認して一度大きく頷いたはじめ先輩は、深く深呼吸をした後で「じゃあ、いきます」と宣言した。


 はじめ先輩が最初に見せたのは、大きく左右の手を振るような動きだった。

 どこか曲線を意識させるような動きで、特徴的なのは、常に掌が頭の上から下には行かない点である。

 一方で、腕は前後に肘を中心に動くので、ゆらゆらと揺れているような動きになった。

 ちらりと、振り返って雅子先輩を見てみると、かなり真剣な表情を浮かべている。

 今は考えることに意識が向いているのか、顎に手を当てて聞きとれないほどの大きさの声で何かブツブツと言っていた。

 そこからしばらく演技を続けたはじめ先輩は「どうかしら?」と私と雅子先輩に答えを求める。

 すると、予想外にもしっかりとした口調で雅子先輩は「阿波踊りとか、空港の誘導員とか、そういうのが浮かびました」と答えた。

 私はそんな雅子先輩の答えを聞いて『なるほど』と思う。

 自分の発想になかった答えにちょっと驚いたのもあるけど、はじめ先輩は動きでお題を示して、一方で雅子先輩は動きからそのお題を推測するゲームは、演技のプランを立てたり、第三者の目にどう映るかという感覚を養うのに適しているなと思ったのだ。

 ともかく、私も自分なりの答えを示してみようと思う。

 丁度そのタイミングではじめ先輩と私の目線が交わった。

「凛花ちゃんは、どう思った?」

 クイズの要素を含むから、確実に正解はあるのだけど、大事なのは、動きからお題を推測したり、または自分の動きが周囲からどう見えたのかを知ることだと考え、私は「海藻に見えました」と素直に感じたままを口に出す。

 私たち二人の答えを聞いたはじめ先輩は「前年ながら、違うので、続きをやりますね」と宣言して、これまでの動きに一つ変化を付けた。

 それは、少しジャンプしては、よろめくように左右に動き、股ジャンプするというもので、その動きの間も、掌を上に上げた肘を中心に揺らす運動は続いている。

 考えながらはじめ先輩の動きをジッと見ていると、雅子先輩から「はい!」と挙手と共に声が掛かった。

「はい、雅子ちゃん」

 はじめ先輩に名前を呼ばれた雅子先輩は「えっと、蝋燭ですか?」と新たな答えを披露する。

 対してはじめ先輩は「惜しいかな」と苦笑を浮かべた。

 その後で、はじめ先輩と雅子先輩の視線が揃って私に向かったので、これは何か答えろと言うことだと察した私は「あの……雅子先輩の答えを真似るようで申し訳ないんですけど……たき火……ですか?」と口にして見る。

 すると、雅子先輩は答えの方向性が被ったことに不快を示さず、逆に「うん。私も火に見えたよ」と嬉しそうな表情を浮かべてくれた。

 一方、はじめ先輩は「うーーーん」と唸り出す。

 想定外のリアクションに、私は「どうしたんですか、はじめ先輩?」と素直に聞いた見た。

 すると、はじめ先輩は手にしていたお題のカードを私たちに見せて「お題は『炎』だったんだけど……せいかいでいいかな?」と首を傾げる。

 私と雅子先輩は顔を見合わせた後で「これって正解ですよね」「正解でいいよね」と丁度重なるタイミングで言い合った。

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