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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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呼び方

「よろしくお願いします!」

 チーム分けによって、私と同じ組になったのは、赤井先輩と金森先輩だった。

「よ、よろし、く……お願いします」

 赤井先輩が最初の挨拶の時のように緊張で身体を強張らせて頭を下げる。

 一方、金森先輩は丁寧な物腰で「改めて初めまして、よろしくね、凛花さん」と柔らかな笑みを浮かべた。

 金森先輩は演技をしていたときは豪快な武人の気配を纏っていたのに、間近で挨拶してみると、小柄で私とそれほど身長も変わらない。

 そんな事を考えていたのだけど、どうやら金森先輩は、私の視線に違う解釈をしたようだ。

「あー」

 ポンと手を叩くと、金森先輩は「林田さんだと、お姉さんの林田部長とわかりにくいかと思って、ダメだったかしら?」と首を傾げる。

 私は嫌だとか思っていたわけでもない……どころか、考えてもいなかったので、慌てて否定した。

「ダメじゃないです! むしろ、お気遣いいただいて、ありがたいです!」

「そう? それならいいのだけど、それだと……どうして私を見ていたのかしら?」

 首を傾げる金森先輩に、私は「エチュードの時と、その印象が違って……」と理由を素直に伝える。

 すると、金森先輩ではなく、赤井先輩が「す、すごいよね、はじめちゃん。別の人みたいだもんね」と興奮気味に訴えられた。

 赤井先輩も、話の内容によっては普通に話せるんだなぁと思いつつ「私もそう思います、本当にスゴイって!」と同意する。

「そうだよね。憧れちゃうよねー。私もはじめちゃんみたいに、役に入り込めるようになりたいなぁ」

 私に何度も何度も頷いて嬉しそうに語る赤井先輩の表情は、放つにつれて輝きを増していった。

 一方、金森先輩の方は、褒め言葉が飛び出す毎に、気まずそうに頬を赤らめる。

 本来の性格は控えめなのかもしれないと思っていると、パンパンと手を叩く大きめの音が響いた。


 手を叩いたのはまどか先輩だった。

「じゃあ、チーム毎に、カード演技やってくから、代表者はくじを撮りに来てくれるかな?」

 まどか先輩の指示に、私たち三人は顔を見合わせる。

 代表者を未だ決めていなかったので、すぐに決めることにした。

「えーと、立候補は?」

 金森先輩の問いに、私と赤井先輩は揃ってブンブンと首を左右に振る。

 それを見た、金森先輩は苦笑しつつ「わかった、まずは私がやるよ」と言って、まどか先輩の方に向かってくれた。

 残された私と赤井先輩はかをを会わせる。

「金森先輩っていい人ですね」

「そうなの、はじめちゃんは良い子なの」

 お互い頷き合えたことで、赤井先輩との距離が縮まった気がした。


「それじゃあ、凛花さん、改めて説明するわ」

「はい、お願いします」

 私が頷くと、金森先輩はまどか先輩から受け取ってきたティッシュペーパーの箱をベースに作られたお題ボックスを振って見せた。

「この中には、お題が入っているんですけど、例えば『怒り』とか『悲しみ』のような感情が書かれていたり……『先生』や『警察官』みたいな職業、それから『騎士』や『お姫様』みたいな立場が書かれているものと、これまでの先輩達も含めて、がいろいろ増やしたりしているので……何が出るかは本当にわからないから、頑張りましょうね」

 そう言って微笑む金森先輩だったけど、どこか影が差して見えるのは、くじの内容の混沌ぶりが原因な気がして、思わず身が引き締まる。

 そんな私の変化に気付いてくれたのであろう赤井先輩が「頑張ろうね、凛花ちゃん」と声を掛けてくれた。

 自分も震えているのにも係わらず、声を掛けてくれた事に感動して「はい、頑張りましょう、赤井先輩」と頷く。

 けど、ここで、赤井先輩が少し悲しそうな表情を浮かべた。

 その理由はすぐに判明する。

「私も、名前で呼んで欲しい」

「あ……はい」

 私は赤井先輩に頷いて「雅子先輩」と名前で呼んでみた。

 すると、雅子先輩は顔中を一瞬で真っ赤にして「にゃ、にゃんだか、はずかしいね」と顔を両手で覆って左右に頭をブンブンと振り出す。

 あまりの反応なので「赤井先輩の方が……」と口にして見たところ、雅子先輩はピタリと動きを止めて、両手で中指と薬指を開き、隙間から瞳を覗かせた。

 ちょっと怖いなと思っていると「な、なまえの、ままがいいでふ」と、雅子先輩は言う。

「わかりました。雅子先輩」

 そう返事をすると、開かれた指を指が閉じ、再び顔を隠してふるふると頭を左右に振り始めた。

 どうもそれを望んでくれた上で、喜んでいるようなので、放置することに決める。

 すると、金森先輩が「じゃあ、私も名前で読んで貰って良いかしら? ほら、女って結婚すると名字が変わるでしょう? だから、名前で呼んで貰う方がいつまでも仲間ですよって思えるって、以前演劇部にいた先輩が仰っていて、それから名前呼びがウチの演劇部では歓迎を示す様になっているの」と優しい口調で教えてくれた。

 私はなるほどと思いながら頷くと、早速「はじめ先輩」と呼んでみる。

 はじめ先輩は少しくすぐったそうに笑いながら「自分でお願いしておいてなんだけど、とっても嬉しいって感じるわ」と言ってくれた。

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