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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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お弁当

 私の通う学校の昼食は希望者だけの選択制の給食になっていて、希望しない人はお弁当やパンなどを持ってくる方式だったのだけど、この時代、今いる時代の学校は給食は存在してなかった。

 給食はないものの、全員に牛乳が配布されるので、牛乳係が北棟の一階にある牛乳室から運んでくる。

 40人以上のクラスメイトがいると、かなりの重労働な上に、全校のクラスが殺到するので、運んでくるのには相当な時間が掛かるのだ。

 それもあって、昼食のスタートは4限目の授業が終了してから10分後が目安になっている。

 ちなみに、牛乳掛かりはその日の日直で、日直は出席番号順となっていた。

 男子の1番と女子の1番から始まり、男子の21番と女子の21番で終わり、また1番に戻る。

 出席番号は名字の五十音順で、名字が被った場合、名前の順になるのだけど、なんとクラスに鈴木君と鈴木さんが合計3人、田中くん、田中さんに至っては5人もいるので、男子でも女子でも名前で呼ばれている子がいた。


 綾川先生を連れて教室の戻ると、丁度、日直の子達が牛乳を配り始めていたところだった。

「はい、林田さん」

 日直の田中さんから直接受け取った牛乳の容器は、三角が四つ組み合わさった三角錐型をしている。

 一応、昔の給食についての資料で見たことはあったけど、目にするのは初めてだったので、なんとも言えない高揚感があった。

「どうしたの、林田さん?」

「あ、うんうん。手渡してくれるとは思って無かったから、嬉しかったの」

 周りの子達は自分で牛乳パックの入った金属製の容器から取っていっていたので、誤魔化しの言葉とはいえ、おかしくはないと思う。

 ……の、だけど、田中さんはなんだかモジモジしだしてしまった。

 どうしたんだろうと思ったところで、話しかけるより先にユミリンに「ほら、皆お昼食べれないから戻るよ」と背中を押される。

「あ、そうだね」

 ユミリンに導かれるまま、自分の席の方に足を向けた私は、軽く振り返って「智子さん、ありがとうね!」と改めてお礼を伝えた。

 田中さんは三人いるのだけど、黒板の日直の欄に『田中 と』って書いてあったので、多分間違いないと思う。

 ユミリンに背中を押されているので、智子さんの反応を確認できなかったのが少し不安ではあるものの、おかしくないやりとりは出来たはずだ。


「リンリン、皆の名前覚えてるの?」

 席に戻ったところで、ユミリンに聞かれた私は「まあ、名前だけは覚えたけど……顔が未だ一致しないときがあって」と苦笑で答えた。

 全く活かす機会は無かったけど、恭一時代から暗記系は得意だったし、月子お母さんとの潜入訓練……の、お陰でそれなりに自慢できるレベルになっていると思う。

 まあ、侵入先の学校が私立の高レベルの学校だと、学力が低いとボロが出るので鍛えたのだけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

「す、すごいね……リンリン」

 心底驚いたような顔を見せるユミリンに、私は「女子はともかく、男子は覚えるの大変かも」と返す。

 実際、名前はともかく、皆同じような髪型なので、見分けるのが案外難しかった。

 一方女子は、皆黒髪だけど、髪の長さに違いがあったり、髪の結び方もそれぞれなので、覚えるのには役立つ。

 改めて、名札を付けるようにと新倉先生に指導された理由がわかった気がした。


「リンリン、お弁当は?」

 ユミリンにそう聞かれて、私はそもそもお昼の用意があるのかどうかもわからないことに気が付いた。

 お腹の具合でいえば、すぐに食べなくても平気な感じなので、牛乳だけ飲んで誤魔化すことも出来たかもしれないけど、はっきりと聞かれてしまった以上、答えないわけにはいかない。

 そう思った私の目に、机の袖にかかっていたサブバッグが入った。

 多分、入っているならここだろうという思いで、サブバッグを机の天板の上に移動させてファスナーを開く。

 すると、一番上に赤と白のギンガムチェックの布に包まれたお弁当が出てきた。

 中身を見ずにわかったのは、その形が明らかにお弁当箱と箸箱の組み合わせだったからで、変な言い訳をせずに辿り着けたことに、私はホッと胸を撫で降ろす。

 お弁当の包みだけを机に残して、ファスナーを閉めたダブバッグは再び机の袖に戻した。

 バッグの中にはピンク地の何かが入った大きめの巾着があったけど、流石にユミリンの見ている前で中身の確認なんて始めたらおかしいだろうと思い、好奇心には我慢して貰っている。

 代わりに、手元に残ったお弁当の包みを解いて、両手で包み込めるサイズのお弁当箱と箸箱を取り出した。

「リンリン、相変わらず小さいお弁当箱ね……デザート用?」

 中身を知らないので、変なことは言えないと思い、私は「どうかなぁ~」と勿体ぶる振りをして流しながら、お弁当箱の蓋を開ける。

 そこには炒り卵の黄色と桜でんぶのピンク、肉そぼろの茶色による三色のエリアと、銀色のホイルで隔てられたほうれん草に、赤いミニトマトが収まっていた。

「相変わらず、女子力高いなぁ~」

 私のお弁当をのぞき込みながらユミリンはそう言って溜め息を漏らす。

 そもそも誰が作ってくれたかもわからないので、少しリアクションに戸惑ったものの、私は「ユミリンのお弁当は?」と話を振って、視点を変えて貰うことにした。

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