表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
65/475

評価

 エチュードと言い出したまどか先輩が、終わりを宣言したことで、参加してこなかった二年生の先輩方は皆一様に胸を撫で下ろしていた。

「向き不向きがあるのもわかるけど、流石に6人も参加できないのはちょっとよろしくないねぇ」

 まどか先輩がそう言いながら、胸を撫で下ろしていた先輩達を見る。

 直前のとがめるよぷな少し低めの声の発言から一転して、もの凄く明るい声でまどか先輩は「その点、凛花ちゃんと史ちゃんは良かったよ!」と言い放った。

 皆の視線が私たちに向いたタイミングで、思わず「うん! 史ちゃんはスゴかったよ!」と強めに言ってしまう。

 言ってから、なんだか視線を押し付けたみたいで、悪いことをしてしまったと思ったのだけど、当の史ちゃんは目を輝かせていた。

「本当ですか!? 凛花様!」

「う、うん。まるで本当のメイドさんみたいだった!」

 私の言葉に、史ちゃんは「メイド?」と首を傾げる。

 史ちゃんがメイドさんを知らなそうな事に驚いていると、お姉ちゃんが\フォローしてくれた。

「ハウスメイドの事よ。西洋の家政婦さん……かな?」

「あ、ああ。それなら知っています! お姉様」

 お姉ちゃんの説明に、頭の中でイメージが繋がった様で史ちゃんは表情を輝かせる。

 対して、お姉ちゃんは頬を赤くして「お、お姉様ってなんだか照れるわね」と呟いた。

 意外な反応に、どうも私はニヤついていたらしい。

 お姉ちゃんから「凛花、なに、ニヤニヤしてるのよ」と口を尖らされてしまった。

「い、いや、その……史ちゃんは演技の経験があるの?」

 お姉ちゃんの言葉を交わすために、史ちゃんに話を振ってみる。

 すると、不意ちゃんはふるふると左右に首を振りながら「いえ、未経験です」と言い切った。

 その上で「どっちかって言うと自分の気持ちとか、考えとか、そのまま普段通りでやってみた感じです。私は凛花様のお役に立ちたいなって思っているので!」と史ちゃんは言い加える。

 全く躊躇いのない断言に、史ちゃんらしいと思ってしまった。

 それに、やっぱり真っ直ぐな好意は嬉しい。

 ただ、私の役に立ちたいという思考と、様付けに多少危険な香りを感じてしまった。

 その結果、言葉に詰まってしまって、何も言えなくなった私に代わって、まどか先輩が「それだよ、それ!」と興奮気味に史ちゃんの肩を叩く。

「エチュード、即興劇で大事なのは、自分の演技するキャラクターをしっかり造り上げることなんだよ」

 まどか先輩はちゃんと参加できた面々だけでなく、参加できなかった面々に視線を向けながら「でも経験が少ないと作ったキャラクターになりきるのは難しい。そういうときにはなるべく自分に近い人物(キャラクター)を造り上げる」と語った。

 ここで、まどか先輩は一拍開けてから「まあ、確かに、素の自分を演じるというのは、演技してないって思うかも知れない」と誰も発言していないのに、その心理を読んだような発言をする。

 実際、ギクリと肩をふるわせた先輩達も何人かいた。

 まどか先輩は、そんな先輩方に追い打ちを掛けたりはせず、自分の話を続ける。

「けど、エチュードでは、演じるキャラクターを組み上げるのと、組み上げたキャラクターとして振る舞うっていう二つの工程で構成されているんだ。だから、キャラクター付けを普段の自分として、その自分になりきるというのは案外練習になるんだ」

 ここまで話が進むと、なるほどと思ったのか、先輩方がそれぞれ納得したように頷いた。

 惑いか先輩はその様子を眺めながら「まあ、まずは動くのが大事だよ」と苦笑する。

「一応、今の話はエチュードに不慣れな人に対するアドバイスだから」

 まどか先輩はそう言ってから軽い足取りで今度は金森先輩の横に移動した。

「出来るなら、はじめくらい普段と違うキャラクターにチャレンジして欲しいとこなんだよね」

「え、や、その……キョ、恐縮です」

 ちょっと前まで自信満々に武将のような立ち振る舞いをしていた人と同一人物とは思えないほど、金森先輩は小さくなっている。

 金森先輩の素の性格は今の感じなんだと思うと、演技中との大きな違いに、私は正直ビックリしていた。

 一方で、演技を通じて別人になりきれるというのは、私が未だに習得できていない技術なので、どうにか学べないだろうかと、ついつい期待の目を向けてしまう。

 それを、史ちゃんが敏感に察知した。

「どうしました、凛花さま。金森先輩が気になるんですか?」

 史ちゃんからのストレートな問い掛けに、私は素直に頷きで応えつつ「正直、金森先輩の演技力を学びたいと思いました」と返す。

「え、や、しょんな、わらしなんてぇ!」

 両手で顔を覆い隠しながら上半身を揺らす金森先輩は恥ずかしさで一杯のようだ。

 お姉ちゃんはそんな金森先輩を見ながら「スイッチが入ってしまえば、堂々と演技できるのに、不思議なものよねぇ」と頬に手を当てながら息を漏らす。

 その後で「その点」と言ってお姉ちゃんは視線を斎藤さんに向けて、笑みを見せた。

「千夏ちゃんは一年生なのに、演技も堂々としたものね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ