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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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終劇

 ぴょこぴょこと跳ねるような足取りで登場してきた女の子の動きに合わせて上下するツインテールがとても目を惹いた。

 スキップを踏むような軽やかな足取りもよく似合っていて、単純に可愛いと思わせる動きをしている。

 そうして、先ほどから膝をついたままのまどか先輩の腕に絡みついた一年生の女の子は「まどか様~」と甘えた声を出した。

 対して、まどか先輩は、一瞬だけ眉と眉の間に皺を浮かべてから、溜め息を吐き出しながら立ち上がる。

 まどか先輩は苦笑を浮かべながら、腕に絡みついた一年生の女の子に「まずは自己紹介を」と告げた。

 直後、パッとまどか先輩から手を離した一年生の女の子は、先ほどと同じくステップで、今度は私の前にやってくる。

「女神様、初めまして。魚座の一つ星。斎藤千夏だよ! よろしくね!」

 右手を振りながら言う斎藤さんに、後ろから声が掛かった。

「不敬ですよ。千夏」

 眉が隠れる位置で横一直線に髪を切りそろえ、艶のある黒髪を胸元まで伸ばした二年生の先輩が斎藤さんの肩に手を置きつつ登場する。

「えー。千夏、失礼なことはしてないと思いますけど?」

「話し方に品性がありません」

 ズバッと言い切る二年の先輩は本当に怒っているように見えた。

 いや、本当に怒ってるのかもしれないけど、とても自然で、状況にマッチしていると思う。

「は? 名乗った千夏と、名乗っていない先輩……どっちの品がないんでしょうか~~」

 完全に挑発しているとわかる返しに、二年の先輩はわかりやすくハッとした表情を見せた。

「くっ! 千夏の言うとおりです……私の方がなっていませんでした」

 先輩が悔しげに顔を伏せたのを見て、斎藤さんはチロリと舌を出して、頭の後ろで両手を組む。

 何も口にしていないのに、勝ち誇る姿が見下しているのを物語っていた。

 セリフだけじゃなく、演技も普通にレベルが高い。

 特に一年生なのにこんなに出来るのが本当にスゴイと感心してしまった。


「我らが女神よ。名乗ることをお許しいただけますでしょうか?」

 先ほど斎藤さんに言い負かされた二年の先輩が今にも泣きそうな顔で声を掛けてきた。

 私は完全に空気に飲まれてしまって、声を出すことが出来ず、代わりに細かく何度も頷くことで了承を伝える。

 すると、二年の先輩はパァッと表情を明るくした。

 身長は私よりもやや上で、多少私より大きいので、威圧を感じていたのだけど、その浮かべられた表情は、まるで飼い主を見つけた小さな子犬のイメージを私の脳裏に引っ張り出してきて、胸を締め付けてくる。

 咄嗟に頭を撫でてあげたい衝動に駆られながらも、エチュードの途中だし、初対面の先輩なのもあって、どうにか行動に移す前に踏み止まった。

 一方、二年の先輩は右手の拳を胸にドンと当てて「わ、私は、山羊座の騎士を務める寺山深雪と申します!」と深い笑みを浮かべて名乗る。

 が、その後見せた表情が、直前に子犬のイメージを思い浮かべていたのもあって、褒めてと訴える子犬の姿にしか見えなくなってしまった。

 勝手に動き出しそうな腕を押さえていると、斎藤さんが「深雪先輩」と声を掛ける。

 お陰で我に返ることが出来た私は、何を言うんだろうと斎藤さんの発言に注目してみた。

 それは寺山先輩も同じだったようで、いぶかしげな目を向けている。

 斎藤さんは大袈裟に「はぁ」と大きな溜め息を吐き出して、ピッと人差し指を弾くようにして伸ばして「星の数、忘れてますよ」と言い放った。

 寺山先輩は「え?」と間の抜けた声を上げて固まる。

 流石に、これは私にも、演技じゃ無さそうだと、ピンときた。

 同時に子犬のイメージのせいで、大丈夫かなともの凄く心配になる。

「星の数ですよ。星の数。千夏が代わりに言ってあげましょうか?」

 軽く寺山先輩の肩に触れながら、馬鹿にしたような口調で斎藤さんは言い放った。

 ただ、その目はジッと寺山先輩の表情を観察している。

 多分口調とは反対でかなり心配しているんだろうと、一瞬で斎藤さんの優しさと演技力の高さを知ったところで、寺山先輩が「二つ星!」とかなりの大声で口にした。

「わっ」

 不意打ちだったので、思わず声を上げてしまった私の反応を見て、寺山先輩が頬を赤らめてしまう。

「だ、大丈夫です。か、過剰な反応をしてしまいました」

 咄嗟に寺山先輩にそう言うと、慌てて「い、いえ、私が子、声の起き差を間違えたので」と顔を真っ赤にして、もの凄く恥ずかしそうに頭を下げてきた。

「何してるんですか、深雪先輩」

 サッと私と寺山先輩の間に入り込んだ斎藤さんは、上手く身体を入れて周囲から先輩の真っ赤に染まった顔を隠す。

 そのまま、何かを囁きながら、寺山先輩を連れて私の前から距離を取った。

 私は場慣れしてるなぁと思いながら、距離が離れていく二人の背中を見詰めていると、急にまどか先輩がパンと手を叩く。

 皆の視線が一気にまどか先輩に集まったところで「一端ここまでかな」と苦笑しながら周りを見渡した。

 そんなまどか先輩の言葉に頷きながら「まあ、エチュードで自己紹介は難易度が高かったわね」とお姉ちゃんも苦笑する。

「では、全員参加は出来ませんでしたが、エチュードはこれで終わりにしましょう」

 お姉ちゃんは終わりを宣言しながら、動けずにいた二年生の先輩達を見た。

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