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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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由来

「もうお昼の時間だし、二人は教室にいた方がいいんじゃないかしら?」

 そう言った美弥子先生に対して、ユミリンは「牛乳係じゃないし、大丈夫です。っていうか、職員室に行くついでにあやちゃん先生呼ぶんで」と返した。

 更に、ユミリンはその勢いのまま、教室を振り返ると「委員長、私、あやちゃん先生呼んでくるわ」と大声を上げる。

 恐らく委員長なのであろうポニーテールで高身長の木元さんが「了解」と軽く手を挙げて返してきた。

「というわけで、ミヤちゃん先生、あやちゃん先生を呼ぶ役目になったので、ついて行きます~」

 美弥子先生は「はぁ」と溜め息を漏らして「しかたがないですね」と言いつつ私に目を向ける。

 貴女はどうするんですかと問い掛けてくる目に、私は「その……体調が戻ったので報告をした方が良いかなと思って……」と同行する旨を含んだ言い回しで返した。

「ああ」

 頷いた美弥子先生は「確かに、担任の綾川先生には伝えた方が良いですね」と私の考えに、同意してくれる。

 そこで、何かを思い出したようなハッとした表情を見せて、美弥子先生はユミリンに「先生は友達じゃ無いんです。ちゃんと綾川先生って呼ばないとダメですよ」と告げた。


 中央棟の二階、渡り廊下を曲がってすぐのところにある職員室を目指して、私とユミリンは、美弥子先生と供に、渡り廊下を歩いていた。

 教材のほとんどを美弥子先生、国語と漢和の辞書2冊をユミリンが持っていて、私は手ぶらだったりする。

 完全にオマケでしか無いけど、一応、綾川先生を迎えに行って、体調が戻ったことを伝えるという目的があるので、無意味では無いのが救いだ。

 そもそも保健室帰りだからというだけで、教材運びを美弥子先生にもユミリンにも禁止されてしまったので、ただのおまけになってしまったのは私のせいじゃない。

 とはいえ、黙っていると、なんとなく居たたまれない気分になってくるので、話題を変えるためにも、地雷を減らすためにも、ユミリンに質問することにした。

「あの……ユミリン、聞いてもいいですか?」

「ん? なに、リンリン?」

「なんで美弥子先生がミヤちゃん先生なのは、わかりますけど、なんで、綾川先生はあやちゃん先生なんですか?」

 先生をあだ名で呼ぶときに、名前と名字のどちらを縮めているのか傾向を知るために問い掛けたのだけど、ユミリンからは想定外の答えが返ってくる。

「え? 綾川だから、略してあやちゃんだよ」

 何言ってるのと言うような顔で言われた私は「いや、それはわかるんですけど、美弥子先生は名前なのに、綾川先生は名字なのって聞いたんです」と、聞きたいところを明確にした。

 ユミリンは「ああ」と言ってから「ミヤちゃん先生は美弥子って呼んでって言ってたから」と言う。

 そこに美弥子先生が「呼び捨てて良いと入ってませんよ、根元さん。ちゃんと、美弥子先生と呼びなさい!」とツッコミを入れた。

「えーー、可愛いのに~」

 文句を言うユミリンから、美弥子先生は視線を私に向けて「林田さんも、嫌だなって思ったらちゃんと言わないと駄目ですよ」と話を振ってくる。

「え、私ですか?」

 嫌なことが思い付かなかった私は驚いてしまったのだけど、美弥子先生は「電話の音じゃ無いんですから、リンリンなんて……」と哀れむような目を向けて来た。

「えー、可愛いでしょ。パンダみたいで!」

 サラリととんでもない例えを言うユミリンに、美弥子先生は驚いた様子で「え、林田の林を音読みして『リン』、凛花の『リン』をくっ付けてリンリンじゃ無いんですか!?」と言い出す。

 ユミリンは「そんな少年漫画の主人公みたいなあだ名の付け方はしないよーだって、私にもリンって付いてるでしょー」と笑った。

「リンリンって響き、可愛いと思ってて、丁度ピッタリの子がいたから、ピンときたんだよねー」

 ユミリンはそう言いながら私に視線を向ける。

 確かに響きは良いよなぁと、リンリン様と用も無いのに呼びかけていた過去の自分を思い起こした私は、パンダ由来だったかと苦笑した。


「綾川先生、お迎えの子達が来てますよ~」

 職員室の前で、ユミリンから辞書を回収した美弥子先生は、職員室に入ると、既に席に着いていたショートヘアでジャージ姿の女の先生に声を掛けた。

「お迎え?」

 椅子毎くるりと身体を回したジャージ姿の綾川先生は、私とユミリンと見て「おー、林田と根元か」と笑顔を浮かべる。

 ほどよく日焼けをしているような濃いめの肌と爽やかな見た目で、私はきっと『保険体育』担当なんだろうなと予測を立てた。

「林田、調子はどうだ?」

 そう尋ねられた私は「はい。休ませて貰ったお陰で、かなり回復しました。寝不足が原因みたいで、ご心配をおかけしました」と答える。

 綾川先生は「女子は男子よりも、身体に負担が掛かる事が多い。自分で思っているよりも弱ってるなんて事もあるからな。おかしいと思ったら無理せず言いなさい」と優しい声で言ってくれた。

 その上で「根元も、林田を保健室に連れてってくれたらしいな、ありがとうな」と言う。

 ユミリンは「席が前後という縁もありますがー、私とリンリンはあだ名で呼び合う仲なので、当然のことをしたまでです!」と言い切った。

 そんなユミリンに私は「ありがとう、ユミリン」とお礼を伝える。

 記憶には無いけど、ユミリンが私を保健室に連れてってくれていたなら、これは感謝しか無いと思ったのだ。

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