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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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前進

 ノリと勢いは恐ろしいもので、上手く先導した委員長の手腕によって、なんだかよくわからないうちに、文化祭の出し物がゲキとアイドルステージに決まってしまった。

 6月に本番を迎える体育祭と違って、文化祭は秋なので、そこまで私がこの世界に留まっているかはわからない。

 とりあえず、もし入れ替わってしまっていたらごめんなさいと、心の中でもう一人の……という過去の世界の本来の私に謝った。


「まどか先輩や、凛花さんのお姉さんも協力をお願いしても良いですよね?」

 協力要請ではなく、協力を前提とした確認といった体の問い掛けに、ここまでノリノリだったまどか先輩が「うーーん」と即答せずに唸り声を上げた。

「私としてはやぶさかではないんだが、クラスの方も、部活の方もあるからねぇ」

 腕組みをして唸るまどか先輩は真剣に悩んでくれているらしい。

 ここで、先ほどまどか先輩の対応をしてくれた江崎さんが「それなら良い考えがありますわ」と言いつつ歩み寄ってきた。

「良い考え? 聞かせてくれるかな?」

 中学生とは思えない色気を放ちながら、まどか先輩は江崎さんに微笑みかける。

 手の甲を額に当てて「はぁ」と熱の籠もった声を漏らした江崎さんは、直後に頭を振ると、キッと表情を引き締めた。

「映画を撮ればいいんです」

 江崎さんの言葉に、委員長が真っ先に「映画!?」と目を輝かせる。

「はい」

 大きく頷いた江崎さんは「父は映画関係の仕事をしているのですが、我が家にはVHS用のカメラが何台かあるんです。それで撮影をして映画を撮ってしまえば……」と語る。

 これにお姉ちゃんがポンと手を叩いて「なるほど、まどかは当日身体が空くってわけね」と江崎さんを見た。

「はい……もちろん、お二人が良ければですけど……」

 江崎さんが上目遣いでまどか先輩とお姉ちゃんを順番に見る。

「私は構わないよ。凛花ちゃんと映画に出るなんて最高だし……」

 そこまで言ったまどか先輩は江崎さんの方へ視線を向けて「こんな素敵なアイデアを出してくれた江崎さんの提案を出来れば受け入れたいしね」と微笑みかけた。

 それだけで、江崎さんは顔を真っ赤にして「はわはわ」と声になら無い声を漏らし出す。

 何か声を掛けた方が良いのか、放っておくべきなのか、江崎さんに注目していると、私の横で、委員長がお姉ちゃんに声を掛けた。

「お姉さんも……その、いいんですか?」

 話を振られたのがお姉ちゃんだったのもあって、なんと答えるんだろうと思いつつ、お姉ちゃんに視線を向ける。

 お姉ちゃんは笑みを浮かべて「凛華の暮らすに協力するのは、先輩としても、凛花のお姉ちゃんとしても、良いかなって思っているわ……その、三年生は受験が近いのもあって、文化祭は余り力を入れない事が多いみたいだから、逆に誘って貰えて嬉しいわ」と返した。

 委員長は「その、お願いしておいて何ですが、受験とかの邪魔にはなりませんか?」とお姉ちゃんの話を聞いて心配そうに尋ねる。

「受験生だって、楽しい思い出は欲しいし、むしろそういうのがあった方が頑張れるわ」

 お姉ちゃんがやる気になってくれていることが嬉しくて、私は「ありがとう、お姉ちゃん!」と言いながらその手を取った。

「良いのよ、凛花……今言ったとおり、私だって楽しませて貰うつもりだし、息抜きは大事だからね」

「うん」

 お姉ちゃんに頷き合って、笑みを交わし合っていると、そんなお姉ちゃんの後ろからどす黒いオーラを纏ったまどか先輩あひょこりと顔を出してきた。

 緋馬織での生活で学んだ面倒なことが起こる気配に、私はお姉ちゃんの手を離すとすぐに行動に打って出る。

 ガシッとまどか先輩の手を握って「まどか先輩もお忙しいのにありがとうございます!」と、私なりの精一杯の思いを込めて感謝を伝えた。

 対処が良かったのか、タイミングが良かったのか、まどか先輩は一瞬にして纏っていた府の気配のするオーラを消し去って、満面の笑顔を見せてくれる。

「そうか、そんなに感謝されてしまっては、人肌でも蓋肌でも脱いでしまおうじゃないか!」

 ふんふんと鼻息荒く言うのでそろりと握った手を離したのだけど、逆にガシッと掴まれてしまった。

「あ、あの……まどか先輩?」

「なにかね?」

 目をキラキラして私を見るまどか先輩に離してと言って和いけないと、直感が訴えている。

 私の中の何かが、あのドス黒いオーラが放たれかねない気配を感じていた。

 なので、私は無理におかしくない言葉を引っ張り出す。

「あの、まどか先輩、協力して貰えるのは嬉しいのですが、部活の方は大丈夫ですか?」

 私の問いに、まどか先輩は本当に嬉しそうな表情を浮かべて「私の部活のことまで心配してくれるなんて、姫は優しいなぁ」と何度も頷いた。

 心の中で『姫じゃないです』とツッコミながら「まどか先輩に無理はして欲しくないなと思って」と告げる。

 まどか先輩は「大丈夫だ。姫のクラスで演じることは、演劇部の部員としての経験にもなるからね」と胸を張った。

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