新たな
話が一段落したので、午後の授業に備えようかと思ったところで「林田さーーん」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、はい」
返事をしつつ、声の聞こえた方に視線を向けると、サイドをまとめた三つ編みを後ろで一つにまとめたアレンジヘアの江崎沙織さんが手を振ってるのが目に入る。
沙織さんの後ろには、私が呼ばれた理由の二人の姿があった。
「お姉ちゃん、まどか先輩!」
椅子から立ち上がりながら二人の名前を呼ぶと、まどか先輩は横に立つ沙織さんに「教室に入っても良いかな?」と無駄に色気のようなものを放ちながら問い掛ける。
沙織さんはビクッと身体を硬直させた後で、コクコクと頷いた。
「ありがとう……江崎さん」
さりげなく名札をチェックして名前を呼ぶと、まどか先輩は優雅に微笑む。
沙織さんの顔が瞬時に真っ赤に染まった。
「じゃあ、失礼します」
まどか先輩は優雅にお辞儀をすると軽やかなステップで教室に入り込んで、堂々と歩み寄ってくる。
「やぁ、みんな。お邪魔するよ」
にこやかな笑顔でそう宣言した後で、私に視線を向けたまどか先輩は「ところで、凛花ちゃんは調子が悪くなったりしてないかい? ずっと気になっていたんだけど」と首を傾げながら尋ねてきた。
私は「大丈夫ですよ」と返した後で「お昼ご飯も、ちゃんと食べれましたし」と言い加える。
うんうんと頷いたまどか先輩は、私の目をジッと見ると「うん、確かに平気そうだ」と口にしてから、心の底からホッとしたように表情を崩した。
その表情の変化に、思わず胸を鷲掴みにされたような感覚が走り、心臓が小さく跳ねる。
正直、東雲先輩がいなかったら、勘違いしてしまいそうな程のほっとけない感があった。
そんな想像もしなかった感情の起りに戸惑っていると、教室の外、廊下を通って後ろのドアから入ってきたお姉ちゃんが「まどか、凛花を惑わさないで!」と容赦なくまどか先輩の頭を容赦なく叩く。
対してまどか先輩は真面目な顔で「別に惑わしていないよ、私は純粋に私の気持ちをぶつけているだけだよ」と言い切った。
お姉ちゃんは、全く揺るぐ気配のないまどか先輩をジト目で見た後で、私に視線を向けてくる。
「凛花、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
私の返事を聞いて、お姉ちゃんは「まどかが無茶したから、大丈夫そうで安心したわ」とにっこり笑った。
私も思わず笑みを返したところで、史ちゃんが「あの……」と躊躇いがちにお姉ちゃんに声を掛ける。
「ん? 何かしら?」
瞬きをしながら、尋ねるお姉ちゃんに、史ちゃんは意を決するように無言で頷いてから口を開いた。
「あ、あの、その……お姉さんが受験生だって言うのは知っているんですが、もし良ければ、り、凛花さまのおうちにお泊まりさせて貰っても良いでしょうか?」
お姉ちゃんは史ちゃんの訴えを聞いてすぐに私に視線を向けてくる。
何故自分に聞くのかという疑問を向けられているんだと理解した私は「私は泊まりに来てもいいと思うんだけど、お姉ちゃんの邪魔になるのはいけないなって思って」と説明した。
私の説明で納得してくれたのか、お姉ちゃんは「お母さんにも聞かないとだけど、私は良いわよ」と史ちゃんに向かってにっこりと微笑む。
史ちゃんは目をキラキラとさせて「本当ですか!?」と胸の前で右の拳を左手で包み込んだ。
「受験と言っても、あきまでは余裕があるし、ユミちゃんも泊まりに来てるし、ね」
お姉ちゃんはそう言いながら、史ちゃんからユミリンへ視線を向ける。
ユミリンはどう返したら良いのか迷うような反応を見せてから「お世話になってます」と頭を下げた。
お姉ちゃんは「なにそれ、変な反応するわね」とユミリンを見ながら笑う。
ここで、まどか先輩が「ちょっと待って欲しい! 私も凛花ちゃんと一夜をすご……お泊まり会をしたいんだが!」と声を上げた。
「アンタは許可するわけないでしょ」
もの凄く冷たい響きのある言葉で、お姉ちゃんはまどか先輩を一刀両断にする。
一方で、遠慮がちに手を挙げようとしていた加代ちゃんには「加代ちゃんも、良ければ遊びに来てね」ととても直前の人と同じ人とは思えない温和な口調と温かみのある笑顔で声を掛けた。
「は、はい。その時はお世話になります」
嬉しそうに言う加代ちゃんに続いて、ちょこちょこと寄ってきた茜ちゃんがソワソワした態度を見せる。
「もしかして、茜ちゃんも泊まりたい?」
「で、できれば……」
こそっと茜ちゃんの耳元に向かって尋ねると、同じようにして返事が返ってきた。
私はそれならとお姉ちゃんに声を掛けて、茜ちゃんを紹介した上で、読んでも良いか尋ねてみる。
お姉ちゃんは「もちろん、茜ちゃんも来てください」と承諾してくれた。
ただ、お姉ちゃんは私に視線を向けると「合宿の方は、お母さんと相談してからね」と申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「凛花が調子を崩すと、相手のおうちにご迷惑になってしまうから、お母さんやお医者の先生にも相談してからね」
その理由を聞いて、私はもっともだと思い「はい」と大きく頷いた。




