未来予想
「えっと、その、良いの、茜ちゃん?」
私がそう尋ねると、茜ちゃんは「もちろんよぉ~私アイドル大好きだしぃ。自分のおうちで、アイドルが合宿なんてぇ」と何故かくねくねしながら答えた。
「い、いや、茜ちゃん。アイドルって言っても、素人だからね?」
なんだか茜ちゃんの中で、爆速で膨らんでそうな期待に少し不安を覚えた私は、一応、念押ししてみる。
だが、茜ちゃんはシレッと「凛花ちゃん、どんなアイドルさんも初めは素人s団なんだよぉ?」と真面目な顔で返されてしまった。
「え、あ、うん……そうだけど……」
「それに、頑張ってぇ、練習を重ねてぇ、スター発掘番組に出ればデビューへの道が開けるかもしれないでしょ?」
なんだかもの凄い熱量で段々と早口になる茜ちゃんは「ここが、凛花ちゃんたち、おチビッ子クラブの最初の一歩かもしれないんだよぉ」と興奮気味に訴えてくる。
「いや、茜ちゃん、そんな事には……」
私がやんわりと宥めようと思った言葉を、横から史ちゃんが遮ってきた。
「凛花さまの可愛さなら、可能性は高いんじゃないかと思います!」
真っ直ぐな目で言う史ちゃんは、心の底からそう思っているように見える。
「確かに、素材は完璧だと思う」
今度は委員長までが乗ってきた。
私の頬を両手で包み込むようにして自分の方を向かせた委員長は「私を信じて、最高のアイドルを目指しましょう!」と真っ直ぐ視線を合わせて言う。
委員長の圧に思わず同意しそうになってしまった私を、史ちゃんの「委員長ズルイ、私も凛花さまの顔をじっくりと観察したい!」という発言がが救ってくれた。
タイミングは良かったものの、微妙に救われた気がしないのは、発言内容のせいだと思う。
けど、微妙に漂う怪しげな気配に踏み込む勇気が、私には無かった。
「これで、私の野望に向けて一歩前進ね」
満足そうにそう言って委員長は満面の笑みを見せた。
この笑顔を見せられてしまうと、つい、応えたいと思ってしまう。
「史ちゃん、加代ちゃん、頑張ろう」
私の言葉に「はい、凛花さま!」と大きく頷いてくれる史ちゃんに対して、加代ちゃんは「うん、頑張るよ」と少し控えめに頷いてくれた。
それでも、皆で進もうと思っている事がとても嬉しくて、私も思わず笑顔になってしまう。
ユミリンがそんな私をジッと見てから「ねぇ」と不意に口を開いた。
「ん? なに?」
首を傾げながら反応を示すと、ユミリンは「この状況で、私の果たすべき役目って、リンリンの履歴書を芸能事務所に送ることかな?」と真顔で聞いてくる。
「は?」
理解が追いつかなくて、私は瞬きを繰り返すことになった。
一方で、茜ちゃんが「いいですよねぇ。自分が申し込んだんじゃなくてぇ、付き添いで言ったら合格しちゃったりぃ、街中でスカウトされたりぃ。自分からじゃないところが、清純派な凛花ちゃんには合ってると思いますぅ!」と熱量多めで話し出す。
「あー。私も聞いたことある……うん、確かにリンちゃんの場合、自分でオーディションに申し込まなそうだから、ユミリンが申し込むのはスゴくしっくりくるかも」
加代ちゃんがそう言って頷くと、ユミリンは「でしょ? 私がグッジョブって讃えられるポジになる未来が見えるわ」と何故か胸を張った。
どうツッコミを入れたものかと思っていると、史ちゃんが「私は、反対です!」と声を上げてくれる。
史ちゃんの反対の声に嬉しく思いながら私は「そうだよね、皆夢見すぎだよね」と大きく頷いた。
けど、史ちゃんは「いえ、凛花さまなら余裕で合格すると思いますけど」とサラリと言い切られてしまう。
「え……っと」
どう切り返したら良いかが思い付かず、私は言葉に詰まった。
グイッと顔を寄せて来た史ちゃんに「良いですか、凛花さま!」と詰め寄られる。
気圧されながら「は、はい」と返事をした私に、史ちゃんは「私はアイドルとして、世の中に凛花さまの存在を知られてしまうと、とっても遠い存在になってしまうと思うんです……私のわがままですけど、凛花さまは私たちの凛花さまであって欲しいので、オーディションとか、ましてやデビューとかして欲しくないのです!」と訴えた。
その後で、史ちゃんは「凛花さまも、アイドルにはなりたく無さそうですしね」と付け足す。
最後の一言だけで十分だったのにと思いながら、私は乾いた笑いをするしかなかった。
「フミキチのリンリンを独占したい気持ちは、私にもわかるから、勝手にオーディションに申し込むのは夜亜しておくよ、リンリン!」
笑顔で言うユミリンに、私は疲労を感じながらも、笑顔で「理解してくれてありがとう」と返した。
「まあ、私はリンリンの親友だからね。親友が嫌がることはしないよ」
もの凄く良い笑顔で言うユミリンだけど、そもそも自分の役目とか言って、応募すると言い出したのが誰なのか、忘れてしまったらしい。
とはいえ、ここで変にツッコんでも良い方向に行かないと読んだ私は「ありがとう、ユミリン」と改めて感謝の言葉を伝えて、話を終わらせに向かった。




